秋口や春先の陽気の良い時節、就職や卒業・入学シーズンなど人間の心が浮かれる時期、盆・正月など多忙な時は動物の交通事故などの事例が多い。
気の緩みから散歩中にリードを放す、発情シーズンに家・敷地内からの逃走、忙しさから子供に動物の世話を任せるなど・・・の理由がある。
気の緩みがちな今からの季節、動物の飼養管理に抜かりのないように、啓発として幾つかの症例を挙げてみる。
症例1は2歳、2.9kgのトイ・プードル。2mの台から落下。右前肢前腕骨の骨折。T字型のプレートで整復。小型犬で脚の細い犬種(トイ・プードル、チワワ、パピヨン、ポメラニアン、イタリアングレーハウンドなど)では簡単に骨折する。決まって前腕の遠位端である。動物をテーブルやソファー、ベッドなど高いところからの飛び降りの癖をつけない。夜間病院(宮崎犬猫総合病院)の症例で市外から来院。(写真1、2)。
症例2は1歳6ヶ月のM.ダックスフントの骨盤骨折の症例である。抱っこしていたら落下。すぐに抱き上げようとしたら、噛み付いてきたので放り投げたとのことで来院。動物は痛い時、飼い主にも構わず思いっきり咬んでくるので注意が必要である。(写真3、4)。
症例3は2ヶ月前に両後肢の先天性膝蓋骨脱臼の整復手術を実施した10ヶ月齢、2.34kgのチワワの症例。子供が抱いていて患犬が落下。両方の前腕骨遠位端を骨折。ほんの2ヶ月で4肢全てにメスが入った症例は珍しい。子供は動物が暴れるなどすると、すぐに手を離すので日頃より注意を促しておくこと。(写真5、6、7)。
症例4は年齢9歳、40kgの雌のシェパード。軽トラから飛び降り、両上腕骨を骨折。その後に右大腿骨と第7腰椎と仙骨の骨折も判明。前肢の手術前にその不自由さから、転倒し大腿骨とその他も骨折したものと考えられる。本症例は高齢等の理由で3回に分けて手術を実施した。本症例も夜間病院に来院。車からの飛び降り癖はつけないよう要注意。(写真8、9、10、11)。
症例5は11歳、3.32kgの雄チワワ。前日に家から逃走。両下顎を骨折して夜間病院に来院。交通事故か、喧嘩などによるものか骨折の直接の原因は不明だが、歯槽膿漏による顎骨の吸収像が顕著であることから、軽度の外的衝撃で簡単に骨折したのであろう。歯石のケアーも怠らずに。(写真12、13)
症例6は6ヶ月、4.1kgの雄のM.ダックスフントで第6腰椎の椎体骨折の症例。これも交通事故である。腰椎の完全骨折のため、安楽死も考えた症例である。骨折部位が第6腰椎で馬尾神経が運よく切断されず、伸展で済んだ症例である。それにしても超ラッキーな症例であった。手術で後遺症も無く、完治、メデタシ、メデタシ。(写真14、15、16)
以上、最近夜間病院に来院した症例を混じえて、幾つかの症例を紹介した。交通事故の症例は、「運良く命が有った。」と考えないといけない。病院に来た時点で既に「事切れている」ことも、全くをもって珍しいことではない。
人間はもとより、猛暑から解放された動物も、秋口以降、浮かれ気味となる。くれぐれも御注意を。
- 写真10-B 左前肢の上腕骨。右上腕骨と同じ手技で実施。
- 写真10-A 右前肢・上腕骨の整復像。最初にスクリューで固定後、プレーティングを実施。
- 写真16:術後1ヶ月でピンとプレートを除去。幼犬のため骨癒合が早い。外見上は後遺症なし。安楽死も考えただけに「勉強になった」・「勉強させられた」症例であった。
- 写真15:多少苦労したが、ピンとルブラ・プレート(レントゲンには写りにくい素材のためフィルム上は確認し難い)、ワイヤーを組み込ませて整復に成功。シテヤッタリの手術である。
- 写真11:2本のスクリュー(Screw=裸子)で整復固定後、プレートで固定。術後は外固定も併用。
- 写真9:後肢の麻痺等は見られないため、腰椎の手術は行わない。
- 写真8:上腕骨の骨折はやや珍しい。アプローチも他の箇所に比べてやや難しい。おまけに本症例は大型犬で老犬である。3時間以上の麻酔は避けたいので連日で片方ずつ手術を行った。
- 写真13:歯槽膿漏化した全ての歯を抜歯して清潔にした後、ピンとワイヤーで固定。2日後より自力で摂食可能となった。
- 写真12:両側下顎骨のほぼ中央部で骨折。患犬の外観は下顎が垂れ、舌も納まらない状態であった。
- 写真7:本症例は若齢なので両側を連続して手術した。
- 写真6:写真5の症例3のチワワで、2ヶ月前に先天性膝蓋骨脱臼で両後肢を手術していた。前腕を片側ずつ骨折する事は有るが、両側同時の骨折は珍しい。
- 写真5:膝蓋骨脱臼では滑車溝を深くし、関節包を縫縮するが、脛骨粗面の転位・移植術をしなければ治療にならない。ワイヤーが移植面を固定している。
- 写真4:恥骨の骨折は整復しなくて良い。本症例では腸骨を整復することで骨盤全体がほぼ元の位置に戻っている。
- 写真3:骨盤狭窄による排便障害などを避けるため、手術をしたほうがbetter。何よりもいつまでも痛い。
- 写真2:この症例では2~3週間の外固定後、約2ヶ月で完治の予定。一般的にプレートはそのままで除去手術は行わない方が良い。再骨折し易いという理由である。
- 写真1:左前腕骨遠位端の骨折。この部位はプレート(Plate)による固定が一般的である。