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イヌの門脈シャント(短絡症)の手術。

  イヌの先天的奇形には口蓋裂や水頭症、後頭骨形成不全、2分脊椎症(Hemi-vertebra)、小眼球症、心室中隔欠損や心房中隔欠損、大動脈弁もしくは肺動脈弁狭窄症など心臓奇形、異所性尿管、片腎や単一の卵巣・子宮角、半陰陽・・・などなど・・・ヒトと同様に多種で程度も多様である。

  その中で、この15年ほど前から注目されるようになったのが、表題の門脈シャントがある。門脈シャントは、正確には先天性門脈-大静脈短絡症(Porto-systemic shunt=一般的な診断名。Porto-systemic vascular anomalies=実際の短絡は門脈と後大静脈だけではないので、本来は血管の先天異常の方が正確との意見有り。)という。当たばる動物病院においても、本症例を診断し、治療を実施しているので、その概要を示したい。

  肝外の短絡症はミニチュア種やトイ種に多く、多発犬種としてはミニチュア・シュナウザーやヨークシャー・テリア、ペキニーズなどである。(洋・成書による)。

  一方、肝内の短絡症は大型犬種に見られ、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・リトリバー、ドーベルマン・ピンシェル、ラブラドール・リトリバー、アイリッシュ・セッター、サモエドなどが好発犬種として挙げられている。(洋・成書による)。

 本院では年に1頭程ではあるが、診断・手術を行い、完治させている。この5年間ではミニチュア・ダックスフントが4頭、ヨークシャ・テリアが1頭であり、M・ダックスが多いのは遺伝子学的に繁殖犬に問題が有るのかも知れない。

  まず、解剖と病態から入ろう。
  
  正常の動物においては、腸管・胃・脾臓から心臓に戻る血液は心臓に直接環流するのではなく、必ず門脈を経由して肝臓に入り、肝内では放射状に分岐して毛細血管となり、肝細胞に栄養分と有害物の代謝・解毒を任せ、その代謝物を肝細胞から受け取った毛細血管がまとまって肝静脈となり、最後に後大静脈に合流して心臓に戻る。

  繰り返すが胃、脾あるいは腸管からの静脈血は、門脈を介して全て肝臓に送られるのが正常な解剖である。門脈-大静脈短絡症では、肝臓外・内の奇形血管を介して、一部の血液が直接後大静脈に入り、心臓へと還流される。

  従って、腸管で吸収された物質が肝臓で代謝・解毒されることなく、全身の血液を回ることになる。そしてこの物質、特にアンモニア(NH3)が肝性脳症を惹き起こす。

  臨床症状は多岐に亘る。成長不良、体格が小さい、体重減少、間欠的食欲不振、抑鬱、嘔吐、多飲多渇症、多尿症、流唾症、行動の変化など様々である。

  病態が進行すると肝性脳症へと移行する。肝性脳症は血中アンモニア濃度の上昇による。運動失調症、脱力・衰弱、昏迷、旋回運動、痙攣、昏睡まで悪化する。

  診断としては流唾症や痙攣など重篤になれば本症が強く疑われる。多くは生後3~4ヶ月齢で診断されるが、数歳を超えるケースもある。特に食直後に症状が悪化するため、これが確認されれば本症がさらに確信的となる。これは蛋白の消化・吸収により血中アンモニア濃度が上昇するためである。総胆汁酸も上昇するためその血中濃度測定も重要となる。その他としては、レントゲン撮影やエコー検査で肝臓が小さいこと(小肝症)が確認されることが多い。小肝症は短絡により門脈から肝臓への血流量が減少したことに原因する。

  血中アンモニア濃度(正常値は高くても100μg/dl以下)、血中総胆汁酸濃度の上昇、小肝症の確認、肝性脳症の存在が有れば、本症を強く疑い、麻酔に十二分の配慮をして、試験的開腹を行う。短絡した血管が後大静脈に連絡しているかを目視で確認するか、それが不可能であった場合には血管造影を行う。

  短絡した血管が確定できれば、周囲の組織から分離した短絡血管にアメロイド・リング(Ameroid ring、Ameroid constrictorとも言う。)を装着する。アメロイド・リング内に納められた短絡血管はリングの内側の成分(カゼイン=Casein)が数日~数週間の期間(血管とリングの径による)で膨張することで絞約されて決行が遮断される。血管閉鎖はカゼインと血管周囲組織との炎症反応(異物反応)による可能性も示唆されている。これにより、短絡血管を介して後大静脈に流れていた血液が門脈を通って肝臓に入る。
  
  術後は翌日より全身症状の明らかな改善が見られるケース(リングの絞約だけでなく、手術による血管への刺激やリングによる物理的圧迫による血管の狭窄も考えられる)も有れば、黄疸の出現や下肢・下腹部の浮腫、腹水の貯留などが現れ、数日間は目が離せない症例まである。短絡血管への血流量、短絡血管の完全な絞約までの時間、血流量が増加した肝臓の予備能などの要因で術後経過が左右される。点滴や強肝剤の投与が必須である。術後は2~5日程度の入院で完治となる。

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