これはある機関が発行しているパンフレットの取材のために予め考えた原稿です。担当者が困惑しないためと、意向が確実に伝わるために書いたものですが、皆様も参考にして頂ければ幸甚です。
[動物の寿命] 獣医療も日進月歩で進化しています。従来、治療では難治性であった病気が、新たな療法の開発で完治したり、寿命を大幅に延長できるようになりました。現在、小型犬やネコでは12歳前後、中型犬では10歳前後、大型犬では8歳前後からが高齢犬と考えられています。15歳を超えても「老いどれ」どころか「ぴんぴん」しているペットも珍しく有りません。
[頭部の病気] 高齢の動物では、白内障、色素性角膜炎、乾性角・結膜炎(ドライアイ)、シーズーなどの短頭種では角膜損傷などの眼疾患が多発します。歯石、歯槽膿漏、外耳炎は「御定連」、眼瞼・鼻腔内・口腔内腫瘍も「一見様」で有りません。
[胸部の病気] マルチーズやシーズーなどの小型犬、キャバリア、柴犬、ビーグルなどでは数頭に1頭の割合で僧帽弁閉鎖不全症という心臓弁膜症が多発します。ゴールデンでは心臓腫瘍が散見されます。ネコでは心筋症が見られます。発咳や呼吸困難、運動不耐性などの症状が見られ、聴診や超音波検査で比較的容易に診断できます。気管虚脱や慢性気管支炎も侮れません。
[腹部の病気] 何といっても腎不全が「親分」です。年に1~2回の健康診断で早期発見が可能です。人間と違い「透析療法」が不可能なため、早期に発見して「食餌療法」や「在宅点滴」によりかなりの寿命延長とQOL(Quality of life=生活の質の向上)の維持が期待できます。未避妊犬の子宮蓄膿症も数頭に1頭の高率で罹患します。来院が遅れると腹膜炎で死亡する恐ろしい病気です。最近では「おやつ」が原因と思われるような「肝不全」が目立ちます。「食の安全」は人間と同じように考えてあげましょう。その他、膀胱結石、腎臓結石、胆嚢炎なども侮れません。最近、最も気がかりなものが「腹腔内腫瘍」でその多くが悪性であり、動物病院でも最も「手強い代物」です。動物は病態がかなり進行しないと症状を表さないため、どうしても発見・診断が後手に回り、患畜の多くが「手遅れの転帰」をとります。超音波検査よりもお金の要らない昔ながらの「腹部触診」が威力を発揮します。
[脊髄・骨の病気] 椎間板ヘルニアはミニチュア・ダックスフントの「専売特許」です。程度によりますが手術をしなくても早期の内科療法やリハビリによりそれらの多くが改善します。その他前十字靭帯断裂や変形性骨・関節疾患、骨・関節炎、変形性脊椎症、椎体・椎間板炎など人間と同様な病気が多発します。これも触診やレントゲン撮影で比較的容易に診断可能です。
[皮膚・体表の病気] 高・老齢の動物では腫瘍が多発します。乳腺腫瘍やリンパ腫を含むイヌ、ネコの体表の腫瘍は腫瘍全体の7、8割に達します。乳頭腫(イボ=疣)や脂肪腫などの良性の腫瘍もありますが、悪性リンパ腫や肥満細胞腫などの悪性腫瘍も「常連物」です。一般にネコの腫瘍はイヌに比較して悪性の確率が高いのが特徴です。「しこり=腫瘤」を発見したら直に病院に行き、注射針の細胞吸引による「細胞診」を受け、手術が必要か否かを判断してもらわなければなりません。ここでも人間と同様「早期発見・早期外科的切除」が基本です。
[おわりに] 人間の病院では事あるごとに直に内視鏡やCT、MRI、PETなど最新の機器を使って診断をします。しかしながら、残念なことに、診断機器の進歩の方が治療技術よりも先行しているのも事実であります。獣医療では諸々の理由で高価な機器の導入が不可能であり、仮に可能であっても検査のために長時間の全身麻酔が必要です。が、幸いにもイヌ、ネコの腫瘍はその多くが体表や口腔内などに発生し、触知や眼で見て分ります。あくまでも私見ですが、ペットの健康診断は「問診」や「聴診」、「視診」、「触診」、「血液検査」、「超音波検査」、「レントゲン撮影」、それに「第六感」でかなりの部分カバーできます。ワクチン接種やフィラリア予防時でも構いませんので、年に1~2回の健康診断を受けさせてあげましょう。