熱中症に陽(ひ)の用心!
暑い。非常に暑い日が続いております。暑い暑いとは聞いていましたが、東京から出てきたばかりの私は宮崎の夏を少々見くびっていたようです。
Tシャツに短パンの人間だってここまで暑いのです。ふわふわの毛皮を全身に纏ったペットは、さぞかし暑いことでしょう。
第3回となる『ペット豆知識』は熱中症について特集します。
さて突然ですが、下の項目のいくつに当てはまるか数えてみてください。
①外で飼っていて、日陰が少ない場所に犬を繋いでいる
②閉め切った車の中で待たせることがある
③日中、家族が出かけている間クーラーはつけていない
④犬が好きなときに水を飲める状況にない
⑤普段は冷房が効いた部屋にいるのに、日中に長い時間、外に出した
⑥太っている
⑦呼吸器系の疾患がある
⑧心臓病があると言われたことがある
⑨短頭種である(パグやブルドッグなど)
⑩長くて暗い色のフサフサ毛並の犬
3つ以上マルがついていたら、熱中症に要注意です。
熱中症は、ご存知のとおり暑さによって惹起されます。多くの犬の平熱は38~39℃ぐらいですが、何らかの原因(上記のような状況)で体温が上がり、41℃程度から高体温と診断できます。43℃(正確には42.7℃)以上になると、多くの臓器が障害を受け死亡することも少なくありません。
犬は、発汗によって体温を下げることができるヒトとは違い、呼吸を激しく(パンティング)することによって体温を下げる冷却メカニズムを持っています。したがって、熱中症になるには、1)冷却メカニズムが追いつかないほどの暑さ、2)暑いのに冷却メカニズムがうまく作動できない、3)水を自由に摂取でず脱水状態となる、などといった原因があります。
では、症状を見てみましょう。
<症状>
・あえぎ呼吸(パンティング) ・頻脈
・痙攣 ・呼吸困難
・よだれ ・高熱
・尿量の減少 ・下痢や血便 など
これといった特徴的な症状が有るわけではありませんが、とにかく発熱し、明らかに暑い場所に放置したあと、このような症状が見られた場合、すぐにホースで頭から水をかけたり、水をはった風呂などに入れて冷却してください。熱中症は、救急疾患です。すぐに動物病院に連絡しましょう。
それでは最後に、10個のチェックリストに一つずつ回答していきましょう。
①外気温と実際に動物が感じる温度は違います。たとえば、高湿度、風の有無、直射日光の当るアスファルト、リードでつながれていて動ける範囲が少ないなどの状況は、容易に熱射病のリスクを高めます。日陰をつくって、自由に水が飲めるようにしてあげてください。
②閉め切った車内は、一番危険な状況だと思ってください。たとえば昼間、外が25℃でも20分車を放置するだけで、車内は50℃以上になります。それに加え、換気が不十分で対流による冷却ができず、1時間も放置すれば死亡する可能性が多々あります。
③これも、②と同じ理由です。換気が不十分であり、かつ日差しが入りやすい部屋はビニールハウスの中と同じだと考えてください。室内飼いの方は、必ずクーラーをつけておきましょう。電気代は病院代よりも安上がりですよ。
④熱中症は飲水制限により、重篤化します。脱水があると、熱放散つまり冷却メカニズムがうまく作動せず、より熱射病を悪化させる原因になります。夏場は、いつでも犬が水を飲むことが出来る環境を整えてあげましょう。
⑤そこまで暑くなかったとしても熱中症が起こる場合があります。たとえば、きのうまでは涼しかったのに、今日は突然暑くなったとか、非現実的ですがアラスカで生活していた犬が今日宮崎に引っ越してきたなどです。要は、体の順応が出来ていない場合、突然の環境の変化についていけないことがあるのです。
⑥肥満した動物では、余分な脂肪の断熱効果により、正常な体温冷却が妨げられるため、熱中症のリスクが高くなります。ちなみに高年齢もリスクファクターとなります。若返ることは始皇帝や卑弥呼もできなかったことですが、ダイエットならいますぐ出来ますよ。
⑦先ほども述べたとおり、犬はパンティングによって熱を放散します。呼吸器疾患があれば、冷却メカニズムが作動できず、容易に高体温へとなっていきます。
⑧循環器系の病気は、心臓が血液を拍出できる量が低下していて、皮ふへの血液循環が悪くなり、体熱の放散を妨げます。
⑨パグやブルドックなどは短頭種と呼ばれ、遺伝的に呼吸器に問題を抱えています。パグがふがふが言うのはそのためで、理由は⑦と同様です。
⑩セントバーナードやバーニーズのような、長毛で暗い色をした被毛をもつ犬では熱中症のリスクが高いとされています。
思い当たる節がある方は、是非参考にしてみてください。
数年前、当院に来られた飼い主さんが、車の中に犬を戻してドアを閉めると、窓越しに乗り出す仕草をした犬がロックボタンを中から押してしまったそうです。炎天下で鍵屋さんの車が来るまで車に水をかけ続けたという話がありました。しゃれではありません。本当の話だそうです。
余談ですが、私が院長に叱られるときのひとつに『常に最悪の場合を想定して行動しろ』とよく言われます。もちろん獣医療の範囲内でのひとコマですが、人間ほど理性を持たないペットたちにはくれぐれも最悪の場合を考えてあげれば、熱中症に限らず、多くの病気を予防できるのではないかと思います。
文:獣医師 小川篤志