食べてイイものワルイもの
夏バテしていませんか?暑い時期には食が細くなりますね。僕は季節に関係なくいつもお腹ぺこぺこです。かわいいペットたちも同じです。つぶらな瞳で見つめられると、ついつい食べかけのハンバーグのかけらをあげちゃいたくなりますよね。
しかし、私たちが普通に食べているものの中で、あるいは日常生活のありふれたものの中にも、ペットには有害になるものがあります。たまねぎ、チョコ、コーヒー、お茶の葉、ナッツなどはもう常識ですね。あなたはいくつご存知ですか?
―身近な食べ物―
・・・タマネギ、チョコレート、コーヒー、マカデミアンナッツ、キシリトールガム、アスピリンなど
①タマネギ
タマネギは、タマネギ中毒の原因物質です。これは、溶血性貧血という病態を示します。タマネギやその他のネギ類(ねぎ、にんにく、ニラなど)に含まれる酸化剤(プロピル・ジスルフィド)によって赤血球が破壊されます。コーヒー色の血尿を呈するのが特徴で、2次的に肝障害が見られることがあります。夕方、薄暗い頃にBBQをしている最中にうっかりタマネギを落としていたのに気づかず、犬が拾って食べてしまっただとか、タマネギが含まれる料理、たとえばハンバーグやカレー、味噌汁、焼そばなどにも気をつけてください。決して珍しい病気では有りません。当院の救急病院にも、ハンバーグの料理中にタマネギのかけらを落としてしまい、それを食べてしまった子犬が連れてこられました。幸い、少量だったこともあり大事には至りませんでしたが。個体差や犬種差(特に柴や秋田犬は要注意!!)により異なるので、少量だからといって安心はしないでください。
②ココア
チョコレートやコーヒー、ココアにはキサンチン誘導体とよばれる物質(テオブロミンやカフェイン)が含まれていて、これは中枢神経の興奮作用があります。嘔吐や下痢の消化器症状も起こります。これもペットにとって危険なもののひとつです。
<イヌとネコの致死量>
イヌ : 40 g/㎏(例:5㎏の犬では、200gのチョコを摂取すると死亡)
ネコ : 100 g/㎏(例:4㎏の猫では、400gのチョコを摂取すると死亡)
③マカデミアンナッツ
ナッツ類には、アスペルギルス属のカビが繁殖していることがあり、人間には問題とならない量であっても、これもペットには危険です。(ちなみにアスペルギルスの産生するアフラトキシンという毒素は、自然界に存在する最強の発ガン物質と言われています。ついつい酒のお伴に柿の種を食べ過ぎる傾向のある僕はやばいかも・・・?)
④キシリトールガム
キシリトールにも毒性があります。キシリトールは甘味料ですが、糖よりもインスリン(血糖値を下げるホルモン)を強く分泌させ、低血糖を起こします。甘いものを食べたのに低血糖になるわけです。数年前アメリカで、キシリトールを食べた犬が死亡したというテレビニュースを記憶している方もおられると思います。最近ではガムに含まれていることが多いので、これにも気をつけてください。
⑤アスピリン
解熱剤も犬猫には重篤な副作用を与えます。アスピリン中毒が見られ、消化管、肝臓、腎臓へ悪影響を及ぼします。人間と他の動物では代謝経路が違う場合があります。いわずもがな、人間用の薬を安易にペットに服用させるのは絶対にやめましょう
―身近な観葉植物―
意外に知られていないのは観葉植物です。伴侶動物(ペット)の中毒症のうちで植物が占める割合は10~15パーセントと言われています。その中で犬が70%、猫が25%、その他が5%です。誘引としては室内飼いで閉じ込め状態のストレス、退屈や倦怠、若齢動物のいたずらが挙げられています。飼い主が不注意にも動物に与えることもあります。今回は特に身近にある毒性植物について行(紙面)を割くことにします。
良く見られる植物毒の症状は大きく4つに分けられます。主に①消化器系に影響を及ぼすもの、②循環器系に影響するもの、③神経系に作用する、④接触性の障害の4つです。
①消化器障害
主に消化器系に毒性を示すもののいくつかを挙げてみます。
サトイモ科の植物の葉や根茎には、シュウ酸塩が含まれています。この茎を口にいれると、激しい痛みや灼熱感、腫れが起り、さらには呼吸困難で死亡することもある怖い植物です。他にも、眼への激烈な痛みや腫れ、腎障害や神経症状が見られます。サトイモ科には、ウラシマソウ、エレファントイヤー、ザゼンソウ、マツムシ草、水芭蕉などがあります。ちなみに、サトイモは茎を口にすると数日間痛みで口がきけなくなるため、Dumbcane(無口な茎)と呼ばれます。シュウ酸塩は他にも、ユリ、ヒヤシンス、ツタ類などに含まれています。
この他消化器系に影響するものとしては、クリスマスには欠かせない柊とポインセチアです。これらの毒素については解明されていない点も残されていますが、イリシン(ilicin)とサポニン(saponin)が嘔吐や下痢などといった消化器症状を起こします。サポニンは、ヤツデや桔梗の根にも含まれます。
白百合(テッポウユリ)の原因毒素は不明ですが、特に猫で腎毒性を示します.2~4日で嘔吐・下痢などの尿毒症症状を呈します。摂取が疑われたら、病院へ直行です。
以下はそのほかの消化器障害を起こす植物です。アマリリス、黄水仙、チューリップ、アヤメ属(アヤメ、イチハツ、ハナショーブ)など(以上のものの原因毒素は不明)、トマト、ジャガイモ、ナス、ほおずきなど(以上のものの原因毒素はソラニン、ベラドンナ、ソラノカプシン)。これらは消化器症状の他、沈鬱状態や不整脈も見られます。トウゴマの毒素はリシンで、トウアズキのアブリンと同様に腹痛・嘔吐・下痢・癲癇・脳浮腫を認めます。
植物ではないですが、キノコ類にも消化器症状を呈するものが多く、ハラタケ、イッポンシメジ、タマゴテングダケ、コレラダケはその一部です。原因毒素はアマ二チン、オレラニン、モノメチルヒドラジンです。はじめは消化器症状が見られ、その後黄疸や昏睡を呈し肝不全と腎不全で死に至ります。人では血液透析や肝移植の適応となります。
②循環器系に影響を与える植物
強心配糖体といわれる心臓への薬理学的作用があるものは、夾竹桃(キョウチクトウ)、ジギタリス、スズラン(毒素はコンバラトキシン、コンバラリン、コンバラマリン)、チューリップ、スミレ、彼岸花などがあります。ジギタリスはその強い心臓賦活作用により、心臓薬としても利用されています。キョウチクトウは少量でも致死的ですが、非常に苦いため、死亡例は少なく、むしろ樹液への接触による皮膚炎や発疹が問題となります。ツツジ(レンゲツツジなど)やネジキ、アセビにも循環器障害を起こすグラヤノトキシン(アンドロメドトキシン)が含まれ、重篤な中毒症状を起こします。症状は嘔吐・腹痛が数時間続いた後、顕著な除脈・心室性不整脈・不全収縮・高カリウム血症など重篤な状態が生じ、死に至ることも稀ではありません。一時的な心臓ペースメーカーの装着も必要です。ちなみに獣医師国家試験の勉強中、どうしてもレンゲツツジ、ネジキ、アセビ、グラヤノトキシンの並びが覚えられず、私はこう覚えました。
「レンゲねじって汗びっしょり、蔵屋のトキさん」
③脳神経系に影響する植物毒
脳神経系に作用する植物を摂取すると、中枢神経麻痺や興奮、運動失調、幻覚などが見られます。アボカドの種、アマリリス、杏の未熟な種子、イチイの葉(毒素はタキシン)、水仙、タバコ、チョウセンアサガオ、ドクゼリ、トリカブト、パンジー、ホオズキの未熟な実、麻、水芭蕉などがあります。そのほか、キノコ類でも牛の糞に自生するマジックマッシュルームと呼ばれるベニテングダケなどがあります。これらは幻覚や錯乱状態となることがあります。
タバコ毒素であるニコチンは即効性に自律神経節を興奮させ、その後抑制します。重篤な例では呼吸筋の麻痺による窒息死がみられます。人工呼吸や胃洗浄、開腹手術をしてタバコを胃・腸管から除去しなければなりません。飼い主の不注意による事故が多く、スモーカーの方は気をつけてください。
意外なのはアボカドの種ですね。包丁をいれたときに中心にあたるあの大きな種です。ウサギやモルモット、オウムやインコといったペットが摂取すると、痙攣や呼吸困難をおこすことがあります。個人的にはこれらの小さな動物があの硬くて大きなアボカドの種を食べられるかは疑問符ですが、アボカド好きで小鳥を飼っている方は要注意です。
トリカブトはサスペンスドラマなどによく登場する有名な植物なので、なかなか部屋の中で大切に育てているちょっとアブナイ方はいらっしゃらないとは思いますが、林の中では、ヨモギなどと混生していることがあるため、誤食することがあるようです。アコニチンという毒素で、これも国家試験の時、「あ、こんにちは。トリカブトいかがですかー」と叫びながら歩き回る友人を見て覚えました。
また、上記には書きませんでしたが、サリンジャーの『The Catcher In The Rye(ライ麦畑でつかまえて)』で有名なライ麦には麦角菌が繁殖していることがあり、麻薬指定であるLSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)が含まれ、ひどい幻覚や嘔吐、下痢そして死をもたらすことがあります。中世のヨーロッパではペストと並んで恐れられた黒死病の原因です。
④接触性障害
接触性障害とは、人や動物がその植物に触れることで皮膚炎や粘膜の炎症をおこすことで、これらを起こす可能性のあるものは、ウルシ、ゴムの木の樹液、胡桃(オニグルミ)、ニリンソウ、マツヤニなどです。
このほかにも、本当にたくさんの有害植物があります。梅も生のまま摂取すると、胃内で青酸カリとなります。宮崎で多いのはソテツですが、これも体内で猛毒のホルムアルデヒド(ホルマリン)に代謝され、死亡することがあります。戦時中、食べるものに困った教師が生徒にソテツの実を食べさせ中毒をおこしたこともあるそうです。たばる院長は、「ソテツ食べたらソテツもないことになるで!」とソテツもなく寒いギャグを飛ばしていました。
今回調べてみて分かったことは、私達の近くには本当に沢山の危険なものが簡単に潜んでいるということです。かつ、病院に連れて来られるペットには意外に植物中毒が多いのかもしれないということでした。中毒の場合、治療は対症療法に絞られますが、ついつい見逃されがちな原因の追求、そして除去(有害なものを近くに置かないなど)にも徹底を期さなければいけないと感じました。
今日私達が使う薬のほとんどは、元は植物から抽出されたものです。世界最古の麻酔はコカの葉といわれており、現在の局所麻酔はこれ(コカイン)を基本にしたリドカインやプロカインが使用されます。アヘン草はモルヒネとなりやがてヘロインに、麻黄(マオウ)はエフェドリン(鎮咳薬)となり覚醒剤に。薬草は薬にも毒にもなります。綺麗なものにはトゲがある。庭や室内に観葉植物がある方は注意してください。
犬、特に何にでも興味津々の子犬は常に食べられそうなものを狙っています。ナメクジ駆除剤のときにも書きましたが、机の上に置いたりしない、片づけを徹底する、といった心がけが大事です。
もちろん異物摂取(例えば、釣り糸や釣り針、おもり=鉛、スーパーボールのなどボール類、コイン、ボタン、鶏の骨など)についても十分気をつけてください。
上記のもの以外にまだまだ沢山の「有毒物質」が、いやいや「誘惑物質」があなたのペットの命を狙っています。治療は胃洗浄、催吐処置、輸液、利尿剤の投与、活性炭の投与・・・・・などなど「オオゴト」です。怪しいと思ったら直にかかりつけの病院へ電話して指示を仰ぎましょう。そして病院へ車で直行です。食べてイイものワルイもの、しっかり知って、間違っても大事なペットを死に至らせることの無いように注意しましょう。
文:小川篤志