いつも難しい話になってしまいがちなこのコーナー。もはや豆知識とは呼べないほどマニアックな状態になってしまっていることを反省(?)しております。読者離れを恐れた私は、今回号外として『あなたのペット豆知識テスト』をお送りいたします。
忙しいたばる動物病院のドクター達の協力を仰ぎ、普段はバカバカしくて聞けないような質問から、思わず『へえ~』と感心してしまうようなトリビアまで、よりどりみどりの10問をご用意しました。トップは私から行かせていただきます。
みかんでも剥きながら、かる~い気持ちでご堪能ください。
●ここ掘れワンワン。そこには何が!? (難易度★☆☆☆☆)
気が付くと、せっかくきれいにガーデニングした自慢の庭がぐちゃぐちゃに。犯人はそう、愛犬です。何しとんねんッと突っ込みたくなるこのいたずら。実はヒマつぶしが原因であるようです。童話のように地下に黄金は眠っておらず、ただ退屈なために本能的ないたずらをしているにすぎません。
なぜ、そのような本能があるのかというと、犬の祖先、狼たちはいつでもご飯にありつけられるわけではないので穴を掘って食肉を周りから隠す習性があるためだと考えられています。
枕や毛布をひたすら掘るのは、足の裏のパッドからの分泌物(汗)をこすり付けて自分の臭いを漂わせてから寝ることで、犬は安心して眠りに付くことができるからです。ちなみに、よく「ここ掘れワンワン」するのはテリア種やダックスで、彼らは元々穴掘り名人の血が流れています。テリアにいたっては語源が“テラ”といってこれは土や地面の意味があり、それだけ穴掘り好きな犬種なんですね。ただガーデニングを荒らすだけならいいですが、観葉植物には毒性があります。愛犬を退屈させないよう気をつけましょう笑。(Dr.小川)
●ノミ・マダニ駆除剤、ホームセンターで買ってもいいでしょ? (難易度★★☆☆☆)
病院で処方されるノミ・マダニ駆除剤(商品A)の成分はフィプロニルという成分。商品Bはイミダクロプリドとペルメトリンの合剤。商品Aは駆除率ほぼ100%で、成分は皮脂腺に蓄えられるため投与前後2日間の計4日間シャンプーしなければ効果は1ヶ月持続します。また、妊娠中や授乳中でも使用可で、スプレータイプでは生後2日目から使えます。一方、ホームセンターやペットショップで売られているスポットオン製剤(商品C、D,E)の成分はピレスロイド系です。しかし、これら量販店の商品は病院処方の製剤に比べて明らかに駆除率が劣り、その上シャンプーにより効果がテキメンに低下するため、1ヶ月間はシャンプー無しで過ごさなければなりません。1年を通してノミやダニの多い宮崎、確実に駆除するためにどちらを選びますか?
余談ですが、当病院では犬や猫を何匹か飼っている方には大きいサイズ(量が違うだけで濃度は同じ)の商品Aを分けて使用してもらっています。小さいサイズを何匹分か買うよりもかなり経済的なのです。(ペンネーム ポニョ)
●犬・猫の諺と慣用句(難易度★★★★☆)
犬と猫にまつわることわざと慣用句を挙げてみました。空白を埋めてみましょう。
《○を見て犬を放つ》
《飼い犬に○をかまれる》
《○○の犬》
《○○○○は犬も食わぬ》
《○頭狗肉》
《猫も○○も》
《猫は○○○○を○○で忘れる》
《猫が肥えれば○○が痩せる》
《○○一人は猫千匹》
《○○猫を噛む》 (ペンネーム ポニョ)
●猫にドッグフードを与えて大丈夫ですか? (難易度★★★☆☆)
答えはNOです。猫にドッグフードを与えると、タウリン欠乏症という病気を引き起こします。猫におけるタウリン欠乏症は雌の場合生殖機能障害、子猫の場合は発育障害、網膜の変性、心筋肥大(拡張型心筋症)です。タウリンとは猫にとって体内で合成できずに食事から摂取しなければならないアミノ酸、つまり必須アミノ酸であります。犬にとっては必須アミノ酸ではありませんので、ドッグフードには猫にとって十分なタウリンが含まれておりません。猫には必ずキャットフードを与えましょう。(Dr.宮川)
●猫を外に出さないとストレスがたまって病気になりませんか? (難易度★★☆☆☆)
そのような事で病気になるという医学的データはありません。むしろ、外出させて起きる問題を考えてみましょう。まず、交通事故に遭います。その事で骨折や膀胱破裂等、身体に重大なダメージを受け、最悪、命を落とすこともあります。次に、他の猫に咬まれて傷口が膿むことがあります。その際に猫白血病ウイルス(FeLV)や猫エイズウイルス(FIV)に感染することもあります。これらのウイルスに感染して病気が発症してしまうと、有効な治療法もなくほとんど死んでしまいます。外出させなければこういった病気を防ぐ事ができますので、猫は室内のみで飼育してあげるのがベストなのです。(Dr.宮川)
●うちの猫は、ドライフードしか食べないの。。なぜ? (難易度★★★☆☆)
猫は肉食動物です。本来、ハンティングしてエサを食べる習性を持っています。ですから、噛む、裂くといった本能は未だ飼い猫にも残っています。硬いもの(ドライフードなど)を噛むという行動は、猫本来の欲求を満たしていると言えます。
また、猫の舌の表面には非常に硬くて鋭いトゲのようなもので覆われています。この舌を使って骨についた肉を剥ぎ取って食べるのです。この舌も柔らかいものを舐めるにはあまり向いていないので、缶詰を嫌う子がいるのです。(Dr.藤吉)
●ずばり、猫にしつけはできるのか!? (難易度★★★☆☆)
基本的に猫は幼少時より必ず決められたトイレで排泄をし、食餌も量、回数ともに決められたとおりに出来ます。しつけが必要なのは、問題行動を起こさないためなのです。(たとえば、テーブルの上に乗るとか、家具や壁で爪とぎをするなど)小さいころから「いけないこと」「いいこと」を繰り返し教えれば、ズバリしつけはできます。また、環境を変えることで満足が得られれば、しつけをしなくても済むこともあるようです。(Dr.藤吉)
●犬と猫の肥満は寿命を縮める? (難易度★★☆☆☆)
肥満によって病状が悪化するか、あるいは病気が誘発される疾患としては、心臓病(特に犬の僧帽弁閉鎖不全症)、気管虚脱、軟口蓋過長症(呼吸器系に弱点のある短頭種)、糖尿病、膵炎、椎間板ヘルニア、骨・関節疾患・・・・・等が挙げられます。また、原発(基礎)疾患が肥満をもたらす場合としては、クッシング症候群(副腎皮質亢進症)、甲状腺機能低下症、避妊・去勢手術・・・等が考えられます。
解答はもちろんYESです。しかし、肥っていることがプラスに働くこともあるように思うことがあります。例えば膵炎などの病気で、点滴だけでは十分な栄養補給が不可能な場合には肥満の蓄積脂肪がエネルギー源となり、長期の治療に耐えうるケースがあります。また、車の下敷きになるような交通事故に遭っても、分厚い皮下脂肪や内臓脂肪がクッションとなり、死なずにすむ症例もあるように思えます。(Dr.田原)
●犬と猫はどうしてし心・脳血管疾患が少ないのか? (難易度★★★★★)
人の心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血の原因である動脈硬化症は高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧、加齢、喫煙(ニコチン)、遺伝、糖尿病、肥満、ストレスなどの要因が関わっているとされています。特に高コレステロール血症(悪玉コレステロール=LDLの増加)、喫煙、高血圧を3大危険因子と言います。
解答は以下の通りです。犬と猫のコレステロールは悪玉1に対して善玉コレステロール(HDL)が10と善玉が圧倒的に多く存在します。人は1:2~2:3で悪玉が優位です。ペットはタバコも吸いません。腎不全や副腎髄質の腫瘍(褐色細胞腫、アドレナリンやノルアドレナリン分泌)で二次性高血圧が起こり得ますが、人のように遺伝が関与する本態性高血圧症は発見されていません。動脈硬化は老齢犬や甲状腺機能低下症の犬、ミニチュア・シュナウザーの特発性高リポ蛋白血症(idiopathic hyperlipoproteinemia)で見られるとの報告があります。
最近では、特に都市部のペットは高蛋白・高脂肪食に加え、運動不足、糖尿病、副腎皮質亢進症など「動脈硬化」を発生させる素地が育まれています。「突然死」の症例も少なくないと考えられるようになっています。症例報告もありますので参照下さい(下の写真)。(Dr.田原)
写真左;Textbook of Veterinary Internal Medicine(fifth edition, W.B.Saunders Company, 2000, p972). 甲状腺機能低下症による重度(650mg/dl以上)の高コレステロール血症犬に見られた「冠動脈硬化」(文字と矢印の所)の心臓。
写真中;Platt SR, et al. Canine cerebrovascular disease: Do dogs have strokes? J Am Anim Hosp Assoc 2003;39:337-342. 非対称性の中枢性前庭症状と小脳症状を呈した12歳のラフ・コリーのMRI像。 突然(急性)の発症で小脳に梗塞(矢印)が認められた。
写真右;写真中と同じ文献より引用。12歳のジャック・ラッセル・テリア。突然の認知障害(dementia)、旋回運動(circling)、片側の視覚障害(asymmetrical blindness)を呈した脳内出血(矢印)のMRI像。
いかがでしたでしょうか。それぞれ個性を生かした面白い内容に仕上がったと思います。明日から使える豆知識。お散歩仲間のマダムたちに思う存分講義しちゃってください。新たな愚問、質問もお待ちしています。遠慮せず病院で尋ねてみてください。では。
つづく。