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ペット豆知識No.31・その2-リスナーからの質問・犬のワクチンの種類について・MRT「ペット・ラジオ診察室」7/9放送分。

 <7月9日放送分>

 <リスナーからの相談・質問から>
 犬を飼い始めて、やっと1年経ちました。予防接種なども、きちんと受けさせていますが、予防の内容(病気・感染症)について具体的によくわかっていません。5種とか7種とかいろいろなワクチンの種類があるようですが、どんな病気に対する予防で、それにかかるとどうなるのか等、詳しく教えて頂けると有難いです。

 <回答>
 先月、宮崎市のある動物施設でのパルボウイルス感染症の発生がテレビや新聞で報道されました。現在は終息宣言がなされたようですが、ペットの生死は然(さ)ることながら、一旦発生するとその環境からウイルスをフリーにすることは、精神的にも肉体的にも多大の負担を伴います。繁殖を手掛けるブリーダーさんにとってのウイルス感染症の発生は正しく死活問題です。環境からのウイルス撲滅には、一般の方には想像もできない辛苦を強いられます。

1.現在市販されている混合ワクチンで最も多くの病気をターゲットにしているものは、9種ワクチンです。どの病気も重要ですが、特に致死率の高いものはジステンパーとパルボウイルスで、パルボウイルス単独の1種ワクチンと、パルボとジステンパーの2つのウイルスをターゲットにした2種ワクチンがあり、以下に示すウイルスや細菌の組み合わせによって、3種、5種、6種、8種、9種ワクチンが製造・販売されています(犬では4種ワクチンはありません)。

2・使い分けは、ブリーダーさんなどで多頭飼育の場合、生まれた子犬に対して早期のワクチン接種が必要な事態(周りや関係先で伝染病が流行している場合など)に遭遇することが少なくありません。そうした状況では1種や2種、3種(ジステンパー、伝染性肝炎、伝染性喉頭気管炎=後述)のワクチンを選択します。5種以上の病気をターゲットにしたワクチンは、一般の家庭で飼われるようになった生後50日以後の犬に接種されます。しかし、最近では仔犬販売の前に5種やそれ以上のワクチン接種を受けるケースが増えています。獣医師法により、獣医師以外は注射できませんので、仔犬を購入する場合、獣医師発行のワクチン証明書を受け取る必要があります。

3.ジステンパーは犬の感染症で最も伝播性と致死率の高い疾患です。日本中で季節を問わず発生が見られますが、14~15年前には宮崎でも今から考えても恐ろしいくらいに大流行しました。症状別に、 呼吸器型、消化器型、硬ショ型(パッドが硬くなる)、神経型があり、飛沫中や糞便のウイルスで伝染します。仔犬に感染した場合、20頭に1頭程しか救命できない脅威のウイルスです。成犬では軽い風邪や下痢などで来院し、その場は治まりますが、1ヶ月後にチックや歩様異常、痙攣(癲癇)などの神経症状を呈する場合があります。

4.パルボウイルス感染症は嘔吐と血便を主徴とし、血液検査で顕著な白血球減少が見られます。簡易診断キットがあり、迅速診断が可能です。カプシド蛋白質に対するモノクローナル抗体により2(旧型)、2a、2b、2cなどの抗原型別があります。2aと2c型は現在日本には発生が見られないと言われています。現在は2b型が野外の主流で、今回の宮崎でのウイルスはこの2bタイプです。海外ではこの株をターゲットにしたワクチンが主流化しつつあり、日本のある製薬会社からも販売されていますが、そうでない他社のワクチンも2b株にクロス(交差免疫)して効果があり、現在流通しているワクチンで予防できるため、心配無用です。※仔犬が感染すると、極めて重篤となり、病院で治療してもその救命率は低い。成犬での不顕性感染も多く、下痢・嘔吐で実際に来院する症例は数分の1とされる。

5.5種混合ワクチンはジステンパーウイルスとパルボウイルスの2種に、アデノウイルスの1型と2型、それにパラインフルエンザの3つを加えたものです。アデノウイルス1型は犬伝染性肝炎の原因ですが、以前、この弱毒性生ワクチンは、尿中にウイルスの排泄があり、軽度の間質性肺炎や間質性腎炎を起こしたり、角膜混濁(ブルーアイ)が見られました。しかし、犬伝染性喉頭気管炎の原因であるアデノウイルス2型により、1型に対しても交差免疫が成立することが判明し、現在では2型弱毒生ワクチンで両者の予防が可能となっています。犬パラインフルエンザウイルス感染症は犬パラインフルエンザ5型ウイルスが原因で起こり、単独では軽い呼吸器症状を示す程度ですが、伝染性喉頭気管炎と同様に、混合感染やボルデテラ菌などの2次感染で重度肺炎を惹起し死に至らしめます。これが、いわゆる「ケンネル・コーフ」であります。※ケンネル・コーフは仔犬では珍しい病気ではありません。初診時、徹底的に抗生剤などでたたく必要があります。こじれると、慢性気管支・肺炎となり、成犬になっても慢性発咳などの問題を引きずります。

6.6種混合ワクチンは一部のワクチンメーカーから発売されており、上記5種に犬コロナウイルス感染症が加わったものです。成犬ではほとんど不顕性感染ですが、パルボウイルスやロタウイルス等との混合感染により重篤となります。仔犬は単独でも注意を要しますが、「ミニ・パルボ」と考えて差し支えないでしょう。

7.5種混合もしくは6種混合ワクチンにレプトスピラの2種あるいは3種が加わると、7種、8種、そして9種ワクチンとなります。レプトスピラは他と違って細菌であり、かつ人獣共通感染症です。日本で確認されているレプトスピラの血清型は10型あり、そのうち本州、四国、九州では6つです。実際のワクチンに入っているものはレプトスピラ・カニコーラ()、レプトスピラ・コペンハーゲニー(イクテロヘモラジーとの交差免疫あり)、レプトスピラ・へブドマディス(秋病B)の3種です。基本はキャリアーであるネズミの尿の経口摂取で感染しますが、感染して回復した犬の尿中には数カ月から数年に亘り菌の排泄が起こります。人には、台風の直後など大水により、ネズミが溝(どぶ)や側溝から締め出された時に、たとえば畑仕事で手足の傷から菌が体内に入り感染します。獣医師が入院中の患犬から感染した例もあります。まだトラクターが無い、牛馬が活躍していた時代、裸足で農作業をしていた時代には全国でかなりの死者があったようです。※2006年8~9月の台風被害時、県北で8人の患者が発生、その年の全国が27名なので、宮崎など南九州の風土病とも言われる所以です。※現在人の感染で死亡することは稀ですが、犬では治療しても2~3頭に1頭は死亡します。※レプトスピラ症のうち7つは家畜伝染病予防法で71ある届け出伝染病の1つです。※猫は不顕性感染で、発症することは無いとされています。

8.ワクチンは人間同様に小さい時が特に大切です。親から胎盤や授乳を介して受け取る移行抗体は日ごとに減少します。一般には生後2カ月で移行抗体の約50%が消失し、3か月では75%、5か月齢では95%以上が血中よりなくなります。親からもらった抗体は右肩下がりで直線的に低下しますが、この移行抗体が残っている間は、ワクチン接種を受けても中和されて抗体が産生されません。移行抗体の消失を確認してからのワクチン接種が望ましいのですが、抗体価測定は価格面などから、これも人同様に実際的ではありません。親からもらった抗体は減る一方ですが、ワクチン接種で造られる抗体は基本的に1年間の維持が可能です。ワクチン接種でもう一つ重要な概念は、初回のワクチン接種を受けた後、1ヵ月後もしくは1年毎に追加の注射を打つと、抗体の産生が急速に増大する免疫機構が知られています。これを「ブースター効果」と呼んでいます。※特にパルボウイルスの移行抗体は生後5~6ヶ月間血中に残存することがあります。この場合は3ヶ月齢での予防注射は、効いていないことになります。この理由から、最終接種は生後5ヶ月齢が推奨されます。

9.ワクチン接種による感染防御の確立は100%でないことを知っておくことも重要です。移行抗体の問題は上述しましたが、そのほかに接種時の健康状態や潜在疾患の問題もあり、一般的には免疫獲得率は80~90%と考えられています。また、抗体の持続期間に関して、血中の抗体濃度が1年以上持続するとの研究・報告も散見されますが、これまた抗体価を測定してからの接種も現実的でありません。人のインフルエンザワクチンも毎年、あまり何も考えずに病院で注射を打ってもらっているのと同じです。「打(射)っていても罹った」というケースも少なくないようですが、これもそのまま動物に当てはまります。さらに、不顕性感染や、下痢や嘔吐が1~2回軽くあっただけで、自力で回復する例も相当に多いと考えられています。新型インフルエンザについても現在、ある学校での抗体価測定を実施を考えているようですが、抗体価が上昇していれば、感染があったことの証明ですから、これは正(まさ)しく「不顕性感染」ということになります。※ヒト新型インフルエンザに関して、高齢者の4割が既に抗体を保有していることが判明し、さらに年齢別での調査が行われている。

10.要は、犬の場合、50~60日齢で家族の一員となりますが、仔犬の時は最低3回のワクチン接種を受けること、そして1歳からは毎年1回の定期的追加接種を受けることが望ましいとされています。避妊や去勢でも、ワクチン接種がなされていない場合、接種してからの手術となります。ペットホテルやシャンプー・カットでも、基本はワクチン接種がきちんとなされているものに限ります。病院やペットホテルなどでは施設内感染を最も嫌うからです。特に病気を院内感染させることは、もっとも恥ずべきことなのです。

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