前回は犬のワクチンについて説明したので、今回は猫のワクチンについて述べる。
●「たばる動物病院グループ」が運営している「夜間病院」に運び込まれる子猫の死因の上位には、目ヤニ・鼻汁・口内炎・下痢・嘔吐などの呼吸器症状や消化器症状を呈する個体が多い。※いわゆる「野良ネコ」で「顔が汚い」ネコちゃんは「ネコ風邪」や「ネコインフルエンザ」に罹患しているものがほとんどである。
●特に呼吸器症状を呈する個体に関しては、酷(ひど)く衰弱しており、道端や側溝に瀕死の状況で倒れ臥し、通りすがりの人が拾い上げて病院に直行するケースが多い。
●これらの疾患の原因は伝染病であることが殆どと考えられ、重要なものについてはワクチンが利用可能である。
●猫ワクチンの現状は、3種、4種、5種が接種されることが一般的で、猫白血病は単独の製品もあるが、猫エイズについては単身の製品しかない。
●3種は猫パルボウイルス感染症と猫伝染性鼻気管炎、それに猫カリシウイルス感染症の3つでる。
●4種は上記3種に猫白血病が加わったもので、5種はこの4種に結膜炎を惹起するクラミジア感染症が加わる。※クラミジア感染症は人獣共通感染症である。特に仔猫で問題となる。他の猫ワクチンに比べ流通していない(病院によっては使っていない)面がある。
●パルボウイルス感染症は犬パルボウイルス2型の亜種で、1タイプしかなく、イタチ科、アライグマ科には感染し発病させるが、犬には感染しない。別名、猫汎白血球減少症または猫伝染性腸炎ともいい、高熱、嘔吐、血便などの症状を示し、血液中の白血球数が著減する。脱水症状が持続すると衰弱し子猫では非常に高い死亡率となる。流産の原因にもなり、胎児の時期や生後4週齢までに感染すると、小脳形成不全を起こす。※犬パルボウイルスの2b型は猫にも感染し発病するが、猫3種ワクチンで予防可能(交差免疫あり)である。
●猫ウイルス性鼻気管炎は別称「ネコ風邪」とも言われ、猫ヘルペスウイルスによって起こる病気で、40℃前後の発熱と激しいクシャミ、咳を示し多量の鼻水や目ヤニが出る。伝染力が強く、また他のウイルスや細菌との混合感染を引き起こして、重篤な呼吸器症状を呈し死亡する。特に子猫ではかかりやすく、高い死亡率となる。※ヘルペスウイルスは人でも体力が弱ると頭をもたげてきて発症するように、猫でも他の病気に罹ると顕性となることが多い。※いわゆる「野良猫」(失敬、地域猫)が目ヤニと青鼻で顔が汚れているのは、ほとんどがこのウイルスに侵されていると考えてよい。
●猫カリシウイルス感染症は別称「ネコインフルエンザ」ともいい、猫ウイルス性鼻気管炎と類似の風邪症状を示すが、進行すると口の中や舌に水泡や潰瘍を呈する。一般的に鼻気管炎よりは軽い症状であるが、混合感染で重篤化する。関節炎を起こすこともあり。※猫の口内炎は「健康を脅かす疾病」の上位に位置する疾患である。口内炎の原因は猫エイズや猫白血病ウイルスが主体と思われがちだが、実際には約半数のウイルス検査が陰性である。ウイルス陰性の口内炎では、ヘルペスウイルスとカリシウイルスの潜在的感染の影響が考えらている。
●猫伝染性鼻気管炎と猫カリシウイルス感染症に関しては、初診時、徹底的に治療してウイルスを封じ込める(フリーにする)ことが極めて重要である。
●猫白血病ウイルス感染猫は、唾液や涙液などに血液と同等量のウイルスを含んでいるとされ、グルーミングや食餌の食器を介して口や鼻から容易に伝播・感染すると考えられている。症状は多岐にわたり、リンパ肉腫、白血病、などの腫瘍性疾患をはじめ貧血、汎白血球減少などの骨髄機能の低下、腎炎あるいは免疫不全のため他の感染症を併発する。※猫白血病に感染すると3分の1の猫の血中からウイルスが消失し、3分の1の猫はウイルスのキャリアーとなり、残りは発病するとされている。
●猫エイズ感染症は5病期に分けられる。急性期は発熱、倦怠感、下痢、全身性のリンパ節腫大などが見られることがあり、感染後数週間~数ヶ月間持続する。無症候キャリアー期は文字通り臨床症状なく、ウイルスも抗体も検出されるが、血中のウイルスレベルは低下する。免疫応答は正常に行われ、他のワクチンに対する反応も非感染猫と変わらない。平均的に5年間続く。持続性全身性リンパ節症期は全身のリンパ節が腫大する。特に目立つ臨床症状なない。数ヶ月持続する? AIDS(エイズ)関連症候群は口内炎や歯肉炎、上部気道感染症などが多く、一般に難治性である。消化器症状や皮膚疾患も見る。免疫異常が進行し、慢性感染症や慢性炎症性疾患を認める。血中ウイルス量も増す。数ヶ月から数年程度持続する。AIDS期はその前の病期症状に加え、顕著な削痩、体重減少や日和見感染症が見られる。日和見感染症の原因としては、クリプトコッカス、トキソプラズマ、ヘモバルトネラ、皮膚糸状菌、疥癬、ニキビダニ、常在細菌などがある。その他に汎白血球減少症、貧血、神経症状などが見られる。ウイルスレベルは高く、反対に末期では免疫機能が極端に低下し、抗体が検出限界以下になる。この5期では多くの症例が数ヶ月以内に死亡する。
●2008年3-10月に47都道府県の動物病院で実施された猫白血病と猫エイズに関する調査結果によると、前者では1,770頭中216頭(12.2%)が、後者では1,770頭411頭(23.2%)がウイルス陽性であった。両ウイルスが陽性のものは4.1%の73頭であった。注:調査対象は週に最低1回以上は外出する猫である。
※※※すべてに言える事であるが、何のウイルスであれ、感染が疑われる症例での該当ワクチンの接種は禁忌である。猫エイズと猫白血病の検査が陽性であればワクチンは無効である。3種ワクチンについては潜伏期に留意する。すなわち野良やペットショップから来て直ぐの接種は行わず、5~7日程度見合わせるのが原則である。風邪の症状があれば抗生剤などでその治療に集中し、完治してからの早めの接種が望ましい。
※※※ワクチン接種順は、先ず3種を行う。4種や白血病ワクチン、エイズワクチンに関しては、他の猫との隔離(最低1ヶ月)、去勢や避妊手術の予定などを考慮して計画を立てることが重要である。例外はあるが、先ずは白血病とエイズ検査が陰性であることを確認して接種しなければならない。
※※※3種ワクチンにかかわるウイルスは、直接の接触はもちろん、飛沫物や糞便でも感染するため、飼い主が戸外より持ち込む可能性がある(人がウイルスを運ぶ)。また、病院等での感染機会もあるため、家猫で単独飼いであっても、接種が必要である。これに対して白血病とエイズワクチンに関しては、隔離と屋内飼いで、必ずしも接種が必要でないことを知る必要がある。
※※※いろんな都合で屋内飼いが不可能であったり、完全な隔離ができないようであれば、全種のワクチン接種を行い、喧嘩などの機会を減らすための去勢や避妊手術をしなければならない。ワクチン接種には一定のルールがあるため、動物病院とよく話し合いベストの接種計画(ワクチンプログラム)を立てる。
※※※3種ワクチンにかかわるウイルスは、人がウイルスを運んだり、たとえば病院内での飛沫感染がある。猫白血病ウイルスは、グルーミングなどで簡単に感染する。多頭飼育では食餌の容器を別にすることが重要である。猫エイズは99%が喧嘩で感染する、・・・・・ここでも「ウイルスの顔」を知る必要がある。