アメリカ合衆国では、ペットの24~30%が肥満と言われる。この数字はアメリカの獣医師が1人当たり840頭の肥満ペットを病院で診ている。そのくらいに、肥満ペットが多いことになる。肥満は簡単に言うと、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることによる。甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、インスリノーマの病気でも起こる。これらの内分泌病においても減量プログラムを導入しないと減量できない。
※2005年のペットフード工業会調査によると、日本国内の犬飼養頭数は約1300万頭、猫は約1200万頭に達するとされ、国民一人あたり0.1~0.2頭の犬、猫を飼育している。外国ではアメリカで犬が5000~6000万頭、猫が6000万頭飼養されており、国民一人あたり0.4~0.5頭を飼っている計算になる(1999年)。カナダでは犬が300万頭、イギリス、ドイツ、フランスでは犬が500~800万頭、猫が600~800万頭、イタリアでは犬が500~800万頭飼育されていると推定されている。
※国際連合経済社会局人口部の作成した「世界の人口推計2008年版」のデータによる2009年の推計人口によると、世界の人口は6,829,360,438人、中国が1,353,311,033人、インドが1,198,003,272人、アメリカ合衆国が319,o81,833人、インドネシアが229,964,723人、ブラジルが193,773,895人、パキスタンが180,808,096人、バングラデシュが162,220,762人、ナイジェリアが154,728,892人、ロシアが140,873,647人、日本が127,156,225、メキシコが109,610,036人(以上1億人を超す人口の国)である。ドイツは16位の82,166,671人、フランスは21位で62,342,668人、イギリスは22位で62,032,247人、イタリアは23位で59,870,123人である。
※ここでは余談であるが、愛玩用の小鳥類は、日本国内全世帯の3~4%が、観賞用魚類は15%が飼育しているとの報告有り。
[病気へのリスク]
犬、猫の長期研究でいくつかのリスクが証明されている。極度の肥満は歩行障害や、外傷性や変性性の整形(骨・関節)疾患の頻度を増す。仔犬の肥満も整形疾患(例えばゴールデン・リトリバーなどの大型犬の股関節形成不全)を惹起し、臨床症状を呈するようになる。犬の1歳時の肥満は後の乳癌リスクを大きくあげる。また、肥満犬では嚢胞性移行性細胞癌の発生リスクを高める。肥満動物は活動の低下、熱耐性の低下(熱中症に注意)、見た目が実年齢より高齢に見える。その他、呼吸困難、鬱血性心不全、難産、非アレルギー性皮膚疾患(膿皮症等)、糖尿病などがある。げっ歯類や犬の研究から、痩せたものや適正な体重のペットは肥満のものより平均で1~2歳長生きすることが分かっている。ウエイトコントロールは生活の質の向上ばかりでなく、平均寿命の延長にもなる。
[ボディーコンディションスコア=Body Condition Scoring=BCS]
●骨格に対する体脂肪量を計算するのに有用なツールである。BCSには5段階と9段階評価法がある。外見と触知で判定する。(獣医師がカルテに記載する場合、当然ではあるが、9ポイントの方が5ポイント評価法よりも利用されている)
●BCS1は「痩せ衰えた=削痩」感じで、体脂肪率は5%以下、体重は理想体重の85%以下、肋骨は脂肪に覆われず容易に触知でき、骨格(肋骨)腰部は皮下脂肪がなく骨格構造(特に肋骨)が浮き出て見える。
●BCS4-5(猫では5)は理想体重であり、体脂肪率は15~24%、体重は理想体重の95~106%、肋骨はわずかに脂肪に覆われ触知可能、腰部はなだらかな輪郭またはやや厚みのある外見で、薄い皮下脂肪の下に骨格構造が触知可能、腹部は腹部ヒダがあり適度な腰のくびれがある。猫では、腹部はごく薄い脂肪層に覆われる。
●BCS9は体脂肪率が35%以上で、体重は理想の123%以上、肋骨は厚い脂肪に覆われ触知が非常に困難、腰部は厚みのある外見で骨格構造は触知困難、腹部は張り出して下垂し、腰のくびれはなく背面は顕著に広がった状態で、背柱周囲が盛り上がると溝を形成することがある。猫での腰部は、過剰な脂肪の沈着によって膨満し、腰のくびれがなくなり、脂肪は腰部、顔、あるいは四肢に蓄積することもある。
●中には40%以上の体脂肪率があるペットもいる。たとえば骨格で10ポンド相当の猫が20ポンドの体重であれば、10ポンドが体脂肪ということになる。猫では下腹部(左右の鼠径の間)にFat pad(脂肪が貯まり隆起した状態)が見られる。
●同じ犬種で同じ環境と同じ食餌で生活をした場合、BCSスコアーが4~5の個体は、スコアーが6~7の個体よりも15%長生きできる。体脂肪率は25%の個体は年齢にかかわらず「減量作戦」の対象となる。
[管理]
●減量計画を立てる前に単なる肥満なのか、内分泌疾患の2次的なものかを鑑別する。内分泌疾患の治療を開始しても自然に体重が戻ることはない。治療開始後も減量食を続ける必要がある。
●減量開始に先立って、心・血管疾患や胃腸障害、肝・膵疾患、腎・泌尿器系、筋・骨格系など全身のチェックが必要である。
●スコアーが6以上のペットの飼い主の多くは自由採食にしており、先ずは1日に2回に分けて給餌させる。
●カロリー摂取の制限には数種の方法が用いられる(後述)。
[短期の絶食]
●特に猫では絶食によって「肝リピドーシス」が起こるため行うべきでない。
●犬では絶食を行うことがあるが、栄養素の欠乏を招く恐れがある。
●水溶性のビタミンや微量元素は体内の蓄積が無いかほとんど無いため、代謝上、毎日の摂取が必須である。
●体重減量のゴールは他の体組織や代謝を維持しながら、体脂肪を減らすことである。
[体重減少のプロトコール]
●減量プログラムには以下の方法が主に考えられている。最後の計算式が無理なく減量できる方法として推奨されている。
●現在の体重の1日維持量の50%で計算する。
●目標体重の維持量の40~60%で計算する。
●最近、フードメーカーや専門家が推奨している計算法(以下)である。
●以下の記述は獣医師の棚多による。
まずは脂肪に覆われ肋骨に触ることが難しくなったかわいい我が家のおデブちゃん、いったい何キロが理想体重なのでしょう?
別表(下表)に、左より現在の体重、理想体重をスコア別(5段階評価の4と5)に示しています。肋骨をまだ少しでも触知可能な場合は左側(BCS4)、肋骨が何処にあるのか触れない場合は右側(BCS5)の表で調べて下さい。
理想体重が分かったら、電卓を用意し、一日に必要なカロリーを出します。犬の場合、
1)体重を3回かけます。
2)√を2回押します。
3)70をかけます。(猫ではこれにさらに0.8をかけます。)
これが一日に必要なカロリーです。フードの袋にはカロリー表示がしてありますのでそれぞれのフードによって量は変わります。
次に、どれくらいの期間で痩せるのでしょう?
4)(現在の体重ー目標体重)×7700
5)3で計算した数字に1.6をかけます。(猫では1.2をかけます。)
6)5-3
7)4÷6
例えば、今6キロの犬で理想体重が5.2キロの犬の場合(BCS4)では、
1)5.2×5.2×5.2=140.608
2)√を1回押すと11.857‥ 。√の2回目を押すと3.44‥。
3)3.44×70=240.8
一日に必要なカロリーは240.8kcalとなる。
4)6-5.2=0.8 0.8×7700=6160
5)240.8×1.6=385.28
6)385.28-240.8=144.48
7)6160÷144.48=42.63‥
約43日でやせれるということになる。
これに適度な運動(散歩)を加え、間食を無くせば、今年中にはスマートな体で年越しできることでしょう。
*おやつを与えたくなったら、野菜を湯がくか、細かく切ってあげましょう。大量に与えると胃もたれやお腹をこわすので、体重を考え、トッピング程度の量で与えてください。
注):現在BCSの表が拡大して見れない状況です。しばらくお待ちください。急がれる方は病院までお問い合わせ下さい。