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ペット豆知識No.33・その1-低コスト・高情報な健康診断とは?-MRT「ペット・ラジオ診察室」・8月6日放送分

<8月6日放送分>

 物言わぬペットの場合の健康診断はどうあるべきなのであろうか。今や、人の場合の健康診断というとカメラは飲まされるし、CTも撮られる。犬、猫でも内視鏡もあればCTも無いわけではないが、動物では全身麻酔が必須である。健康診断は思い当たる検査を全て実施すれば良いとは考えられない。何よりも重要なことは、生命により直結する項目が優先されなければならない。最小限の項目で最大限の情報が得られ、かつ最小限の費用が望ましい。

●健康診断とは、現在健康なのだが何か異常はないだろうか・・・・・と受診するもの。
●早期発見あるいは予防の為のスクリーニング(ふるい分け)検査で、異常が見つかれば精密検査をする。「健診」の代表的なものが「人間ドック」である。
●それ故、全身隈無く検査しなければならない。
●動物は”物言わぬ”が為、自身で視たり触ったりして異常を知ることができない。腹腔や胸腔内、頭蓋内に至っては、(動物は自覚症状が有るに違いないが)飼い主が見てわかるような他覚症状を呈するようだと、かなり進行した状態にある。
●犬、猫の健康診断には聴診や触診など身体的検査、血液検査、超音波検査、レントゲン撮影、尿検査がある。
●当院で推奨している健康診断開始年齢は5~6歳以上である。これには根拠があり、猫や小型犬では6歳が人間の40歳に当るためである。中型犬や大型犬は老いるのが早いため5歳としている。
●犬、猫の加齢現象にも個体差があるが、一応ヒトと同様に人間でいう40歳を超えると細胞レベルでの老化が始まる年齢である。
●身体検査は視診、聴診、触診などがある。歯石はもちろん、犬では口腔内腫瘍、猫では口内炎が少なくないので、口を開けて奥まで観察することが重要である。乳腺腫瘍をはじめ、犬、猫では体表の腫瘍が多いため、病院だけでなく家での飼い主による日常的な触診が必要である。
●小型犬の僧帽弁閉鎖不全症と猫の肥大型心筋症では心雑音が聴取できる。小型犬の気管虚脱などの呼吸器疾患では咳の鑑別診断(乾性か湿性かの区別など)が必要である。
●健康診断の場合、血液検査は必須である。臨床症状が何ら無い場合の検査項目はそれほど多くなくて済む。それこそ「肝腎」な項目である。「たばる動物病院グループ」では4歳以下の場合には通常、一般血液検査に加え、肝臓が1項目、腎臓が1項目、血糖の3項目を、5歳以上の場合にはこの3項目に、肝臓が1項目、腎臓が1項目、それにコレステロールの3項目を加えて計6項目としている。
●人での健診では血液検査だけでも20~30項目を検査する。保険のきかない動物では経済的負担を軽減するため、生命やQOL(生活の質の向上)を低下させることなく、検査項目を厳選して減らすことが要求される。
●「低コスト・高情報」をモットー(motto)に、必ずしも必要でない検査は避けるべきである。
●一般血液検査は赤血球数、白血球数、血小板数をいう。貧血や感染の有無、腫瘍や自己免疫性疾患などの診断に有益である。
●最近、自己免疫異常が関連する溶血性貧血や特発性血小板減少症の症例が増加傾向にあると感じる。
●腎臓の機能が侵される原因は不明な点が多いが、人のようにネフローゼなどの免疫が関与した糸球体腎炎は犬、猫では少ないと考えられる。
●血液での一般的な腎機能の指標である血中尿素窒素(BUN)とクレアチニンは腎機能の75~80%にダメージが及ばなければ上昇しない(異常値にならない)。
●血中尿素窒素は腎機能以外に食餌の内容(高蛋白)や腎臓の血流量に影響される。腎血流量は、脱水や心機能(心不全)で低下する。クレアチニンはそれらの影響を受けないので、逆に信頼性が高い。
●幸いなことに、特に猫の腎不全は食餌療法に比較的よく反応する。
●さらに言及すると、高齢や猫白血病、猫エイズウイルスを保有する動物では、ある年齢に達したら、腎機能が低下しているものと想定し、食餌療法を開始すべきである。
●GPTは肝臓実質の障害(機能低下)の指標であり、アルカリフォスファターゼ(ALP)は胆管などの胆道系の異常に有益である。
●犬では胆嚢の「砂粒症」が多いことから、超音波検査も併用すべきである。
●コレステロール値は犬で見られる甲状腺機能低下と、猫の甲状腺機能亢進症を念頭に入れた検査でる。
●コレステロールが高ければ善玉(HDL)か悪玉(LDL)が多いかを調べる。シュナウザーなど原発性高コレステロール血症を呈するものでは重要となる。
●血液検査に供される血液は血漿と言って、遠心機で血球とに分離されたものである。この血漿は通常透明に近いが、高脂(高トリグリセライド)血症では「乳ビ」と言われる白色を呈する。この場合は中性脂肪(トリグリセライド)の測定も行う。高脂血症は「サラサラ」とは反対の「ドロドロ」血の原因の一つである。
●血糖は肥満の動物で「糖尿病」予備軍でないか、クッシング症候群がないかをチェックする。
●コレステロールは犬で見られる甲状腺機能低下症と猫の甲状腺機能亢進症を念頭にいれての検査である。
●ナトリウムやクロール、カリウム、カルシウムなどの電解質や、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの測定は一般の健診では実施しない。
●ナトリウムとカリウムの異常は下痢や嘔吐、腎不全などで見られる。まれに副腎クリーゼ(副腎皮質機能低下症)でも異常値を示す。カルシウムは上皮小体(副甲状腺)機能亢進症や悪性腫瘍などで上昇する。これらの項目は病気で来院した時に鑑別診断(ルールアウト)のため検査するが、通常の健診では行わない。
●決して馬鹿にしてはならぬのが「腹部触診」である。例えば人間の小児科で、腹部触診を疎(おろそ)かにする医者は信用が持てない。”物言わぬ”小児とペット診療は、腹部触診が重要で、例えば腸閉塞や腸重積などそれだけで確定診断がついて、早急な対処で救命できるケースも多い。
●小型犬と猫では肋骨に隠れる胃と肝臓、膵臓、十二指腸以外は触知可能である。腫瘍や腎臓腫大と委縮、膀胱結石、前立腺肥大など、動物が極端に肥満していない限り、2~3センチ以上の腫瘍や異物であれば診断できる。中型犬でも多くは触知できるが、大型になるに従い困難となる。
●超音波検査は存じの通り魚群探知機から派生して進歩を遂げてきた。医学では婦人科の胎児診断に始まり、獣医学では犬のフィラリア症の診断が最初であった。
●超音波の特性は水が良く通し、空気を最も通過しにくい。したがって心臓や血管、膀胱など水分そのものである箇所、肝臓や腎臓、脾臓など血流の多い臓器でその威力が発揮される。大泉門が離解して(開いて)いる場合には脳(頭蓋)内も観察できる。
●小型犬の僧帽弁閉鎖不全症、心臓腫瘍(ゴールデンリトリバーに多い)、肝臓腫瘍、胆嚢炎や胆嚢の砂粒症、腎結石、腎盂腎炎、水腎症、腎嚢胞、尿管結石、腎腫瘍、脾腫、脾腫瘍、膀胱結石、膀胱炎、膀胱腫瘍、前立腺肥大、前立腺嚢胞、前立腺膿瘍、腸重責などの診断に有益である。腹水や胸水などの液体貯留の有無にも当然役立つ。
●犬、猫では人に比べ肺癌の症例が少ないため、胸部レントゲン撮影は発咳が有る症例や、気管虚脱や肺炎などが疑われる場合、全身麻酔の術前検査以外には通常実施しない。
●「たばる動物病院グループ」では、椎間板ヘルニアの多発するダックスフント、股関節形成不全や骨・関節炎の多発犬種であるゴールデンやラブラドールリトリバーなどでは歩様異常などの症状がなくても高齢であればレントゲン撮影を勧めている。レントゲン上で石灰化した椎間板や関節の変形、関節の棘が確認されれば、肥満や激しい運動、飛び降りなどにに注意を払えるからである。
●特に高齢の、どの犬種でも起こる変形性脊椎症や脊柱管狭窄症の有無を確認することが重要と考えている。
●尿検査は人ほど重要でない。理由は犬、猫の場合、ネフローゼなどの免疫複合体-関連性の糸球体腎炎が少ないことによる。低蛋白血症が存在し、かつ蛋白尿があれば尿中の蛋白定量を行うことで、糸球体腎炎の診断補助となる。
●猫やシーズーなどの尿石症が多発する犬種であれば、鏡検(顕微鏡で見ること)によって結晶の有無を確認する。結晶が存在すれば食餌療法を開始する。
●膀胱炎での細菌の確認、腎炎での各種円柱の有無を調べることも重要である。
●正確な診断にはカテーテルによる採尿(導尿)が求められる。導尿に原因する医原性の細菌性膀胱炎を防ぐため、処置後は抗生剤を内服する。
●膀胱結石の有無の判定に迷う場合や、膀胱腫瘍が疑われる場合、尿道や膀胱の破裂などを確定するために尿路造影が必要とされる場合以外は、検査目的での安易な導尿は避けるべきであると考える。

 25年間の臨床経験が長いか短いか、十人十色で異論もあろうが、思いつくところをいろいろと書いてみた。とどのつまりは、我が家の犬、猫に行う健康診断と同じである。病気を未病の状態で早期に発見し、適切な対処と治療がなされなければならない。留守番も良くしてくれて、癒しもしてくれる「献身的」なペットに、年1~2回の健診を行い、天寿を全うさせてあげたいものである。

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