犬・猫にとってのノミ、ダニは只痛痒いだけではない。多数が長期間寄生すると貧血を起こすこと以外に、条虫(サナダ虫=犬条虫)の感染、ノミアレルギー性皮膚炎、猫のヘモバルトネラ症、人の猫ひっかき病やノミ刺咬傷、Dipetalonema reconditum(糸状虫)、発疹チフス、人獣共通伝染病と届出伝染病である野兎病の伝播に関与する。今回はノミの生態とノミが伝播する主な疾病について述べる。
●ノミは節足動物の中の昆虫綱でシラミの仲間である(昆虫綱ノミ目)。同じ節足動物のマダニは蜘蛛綱で蜘蛛の仲間である。
●世界で2,200種以上、日本では約70種ある。
●獣医学上の重要種はネコノミとイヌノミである。
●ライフサイクルは完全変態で、卵→幼虫→蛹→成虫の順で生活史を形成する。
●ネコノミのライフサイクルは最長約180日で、成ノミは動物(ネコ)に寄生後24~48時間で産卵を開始する。産み出された卵(長さ0.5mm・乳白色平滑・湿度50%未満、92%で死滅・卵内で発育し、殻を破るためにキチン質の”卵歯”を使い1~6日で孵化する)は床へ落ちて、カーペットなどの奥へ潜り込む。
※記載によっては、卵から成虫になるまでの1世代の期間が、好適な条件下で2~3週間、不適条件下で1年以上になる、とある。
※成ノミ(ノミの成虫)の寿命は2~4週間とされる。
●幼虫は全長2~5mm、被毛は疎らで、負の走光成(光は嫌い)と正の走地性(下方移動が好き)を持ち、熱や乾燥に非常に弱い性質がある。カーペット、家具の下、ペットの寝床などに潜む。餌は環境中のノミの糞が入った有機堆積物とし、2回脱皮する。その間5~11日。2回の脱皮後は糸を吐き繭を作って蛹化する。
●繭は環境中のゴミに覆われる。その間7~14日。物理的圧力やCO2、震動、熱により、かつ適当な宿主が現われてから孵化が起こる。また一度に孵化しない(蛹期のウインドウ効果)。
●成虫(成ノミ)は向日性で寄生後数分で吸血する。その際唾液に抗凝固物質を注入し、この唾液がアレルゲンとなる。雌ノミは吸血と交尾の24~48時間後まで産卵できない。1日に20~50個、一生で2,000個以上を産卵する。これは毎日体重の2倍産卵し、血液が必須である。
●ノミの一生は通常3~4週間、最短で12~14日、最長で約180日である。
●卵から成ノミになるまでの期間は、温度や湿度の環境要因によって大きく変わる。夏が過ぎると成ノミになるまでの期間は長くなり、ノミの数も少なくなる。
●犬・猫の体に成ノミが5匹居れば、蛹が10個、幼虫が35匹、卵が50個の比率で生存している。
●ノミは低温と高温に弱い。温度が35℃だと約10日間で50%が死ぬ。3℃では数日しか生きられない。13℃辺りがノミにとっての適温である。したがって冬でもノミは寄生する。
●ノミは犬・猫の疾患媒介動物として重要である。
●貧血は寄生数が著しい場合や、犬・猫が幼若であったり、衰弱している時に問題となる。
●猫のヘモバルトネラ症(Haemobartonella felis)はマイコプラズマの一種(最近までリケッチアと考えられていたが、遺伝子研究でマイコプラズマと確定)で、赤血球を溶血させ貧血の原因となる。ノミが媒体するとも考えられているが、猫同士の咬傷が主である(?)。猫エイズや猫白血病罹患ネコのように、免疫が低下している個体で頻発する(?)。
※犬のヘモバルトネラ症(Haemobartonella canis)は、猫と別の病原体で主にダニが媒介するとされる。
●イヌノミとネコノミは瓜実条虫(Dipylidium caninum=犬条虫)の中間宿主で、条虫は犬、猫そして小児の腸管に寄生する。片節の一部が切り離され糞便と共に排泄される。片節内に条虫の虫卵が存在する。その卵をノミの幼虫が食した後、犬や猫がグルーミングによってそのノミを摂取することで感染が成立する。駆虫薬が有る。
※猫条虫の中間宿主は鼠で、虫卵が食物や水とともに鼠に経口摂取され、その鼠を猫が捕食することで生活史が成立する。よってネコノミやイヌノミは全く関係しない。
●ノミアレルギー性皮膚炎はノミが犬・猫を刺咬する際に出す(抗凝固の為)ノミの唾液成分が抗原(アレルゲン)となり、ノミへの接触が2~3年以上経過するとアレルギー体質(抗体=IgE)を獲得し、発症する。診断は激しい痒みや腰背部を中心とした粟粒性皮膚炎を呈する。同時にノミ成虫やノミ糞の確認を行う。細菌の二次感染も通常見られる。
●猫引っ掻き病は保菌動物である猫には無症状であるが、ヒトが猫に引っ掻かれると発症する。原因菌はノミの中の血液やノミの糞中に存在するBartonella henselaeである。ノミ糞中の菌を猫がグルーミングで歯牙」と爪に付着され、ヒトが引っ掻かれたり、咬まれることで感染する。人獣共通感染症の一つである。
※ノミやミミダニに感染している猫ではBartonella henselaeが血清陽性との報告がある。これは両者が媒体として関連していることを示唆している。
※人の本症感染の一部でダニも原因とされている。
●実際の人の症例では、接触のみやネコノミに刺されただけの場合も少なくない。
●猫引っ掻き病の定型では、受傷後1~3週間で発症し、丘疹や水ほう、化膿、そして疼痛を伴うリンパ節腫脹がその症状である。非定型の症状は発熱、食欲低下、視力低下、パリノー症候群、脳炎、骨融解、心内膜炎、肉芽腫性肝炎、血小板性紫斑、細菌性血管肉腫(HIV、癌治療患者、臓器移植者)などがある。
●猫引っ掻き病の病原体を保有している飼育猫の陽性率は8.4%(128/1,447)であった。猫エイズは9.8%(107/1,088)、猫白血病は2.9%(32/1,088)、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)が5.4%(78/1,088)であった。(2003年、日本大学・丸山ら)
※※※ノミの予防薬は成ノミを殺滅させる製剤、成ノミが犬猫の血液を摂取することで、後の蛹が孵化しない仕組みの製剤が普及している。スプレータイプもあるが、スポットオンタイプが主流である。
※※※「蚤の夫婦」と言われるように、ノミは雌が大きい。ノミを見つけたら爪などで潰さないこと大切である。卵を環境中に振り撒くことになる。
※※※「ノミ・ダニ取りシャンプー」の使用は避ける。刺激が強いため、シャンプー後に皮膚炎を起し易い。