眼球を体軸で切る(縦断面)と、「ぶどう 」を輪切りにしたときの様な色彩の構造が見れる。この「紫色の構造物」をぶどう膜という。「ぶどう膜炎」は、さまざまな原因によって起こる、この部位の炎症を指す。
<ぶどう膜>
●ぶどう膜は「虹彩」、「毛様体」、「脈絡膜」の3つの組織から成る。
●ぶどう膜は、組織学的に近似しており、血管とメラニンを多く含有する色素細胞(メラノサイト)が豊富である。このため、紫色のぶどうの皮のように見える。
●「虹彩」はその収縮と拡大によって散瞳と縮瞳を形成し、「瞳」を通過し、レンズ(水晶体)を介して網膜に到達する「光量」を調節」する。
●「毛様体」はレンズや角膜、虹彩などに水分と栄養を供給する「眼房水の産生」を司る。かつ、チン小体や括約筋が関与してレンズの凹凸を産み、「ピント調整」を司る。
●「脈絡膜」は眼底の「網膜」と「強膜」の間に位置し、両者への「栄養補給」を行う。
<ぶどう膜炎の原因>
●ぶどう膜炎の原因はさまざまであるが、外因性と感染症などの内因性に分かれる。
●外因性では、外傷や角膜炎・角膜潰瘍など角膜表面の疾患から波及して起こる。
●内因性では、犬のブルセラ病やライム病などの細菌感染、犬伝染性肝炎や猫のウイルス疾患(白血病、エイズ、伝染性腹膜炎)などのウイルス感染、真菌、トキソプラズマなどがある。内因性のその他として、「糖尿病」や「子宮蓄膿症」、秋田犬の「フォクト-小柳-原田症候群」、リンパ腫などの「腫瘍」が挙げられる。
●子宮蓄膿症によるぶどう膜炎は「全身性炎症反応症候群」で産生された炎症物質が原因する。
●フォクト-小柳-原田症候群のぶどう膜炎は、自己免疫性疾患に因る。
●しかし、原因が特定できない場合が半数以上(50~60%)である。
<ぶどう膜炎の症状>
●ぶどう膜炎の症状は痛み(疼痛)、赤目、房水フレア、縮瞳、眼圧低下、水晶体前嚢への虹彩色素上皮の付着や虹彩後癒着、虹彩の充血や腫脹等がある。
●疼痛は羞明感、流涙、眼瞼痙攣として認知される。
●赤目は角膜周囲の結膜充血、強膜充血、角膜深部の血管新生のために見られる。結膜や強膜の血管がぶどう膜へ延長分布するため、ぶどう膜の炎症の血流増加で怒張する。
●房水フレアはBAB(blood-aqueous barrier)の破壊による房水内へ蛋白粒子が出現することで起こる。
●眼圧低下は炎症によって毛様体機能が破壊され眼房水の産生が低下することで起こる。
●その他、前房内にフィブリン析出、前房出血・蓄膿(虹彩・毛様体からの出血や遊走白血球など)、角膜後面沈着物などが見られる。前出のフレアとともに濁りや浮遊物によって、人では、視野欠損し、霧視(かすみ)や飛蚊症(虫や糸くず、さらに大きなものが見える、という)を呈する。
<ぶどう膜炎の診断>
●ぶどう膜炎の診断は上記の症状の把握で比較的容易に診断できる。眼圧計(トノペン)での眼圧測定が望ましい。
●原因となる疾患の探求に努めるが、50~60%は原因が特定できない特発性である。そうは言うものの、綿密な眼検査を行い、原因となるような原発性眼疾患がないか調べる。
●子宮蓄膿症や歯根膿瘍などの細菌感染症、ウイルス疾患、真菌、腫瘍、免疫疾患などの全身性疾患の有無を、血液検査やレントゲン検査、エコー検査などで確認する。
●犬猫のぶどう膜炎は前部の方が多いが、前部ぶどう膜炎が後部の毛様体や脈絡膜に波及する場合があるため、眼底鏡での眼底検査によって、脈絡膜炎や脈絡ぶどう膜炎の有無を調べる。
<ぶどう膜炎の治療>
●ぶどう膜炎の治療は、子宮蓄膿症や猫白血病など原因が特定されれば、原因療法を積極的に実施する。
●角膜や前房の外傷や感染があれば、これも原因療法に徹する。
●ぶどう膜炎は特発性の場合が多く、それらのケースでは対症療法が主体となる。
●対症療法は炎症の抑制である。ステロイド剤の局所や全身投与、時に結膜下注射を行う。角膜・前房内に損傷や外傷のある場合、全身性の感染症が存在するケースでは非ステロイド系消炎剤の使用を考慮する。
●虹彩の癒着を予防するため、毛様体筋麻痺剤(散瞳剤)を点眼(眼軟膏を含む)する。
●患眼の物理的刺激を避けるため、エリザベスカラーを装着する。
ぶどう膜炎は稀な病気ではない。放置すれば眼球内感染症や緑内障などを続発し、失明するケースも少なくない。何度も言うが、眼の病気は「緊急疾患」である。「ウインク」など、異常を感じたら、病院へ直行である。手元にエリザベスカラーが有れば、その場で装着して、病院へ。