日南市の38歳・女性、ラジオネーム「あんちもん」さんからの質問。
「毎週、お話を参考にさせてもらっています。我が家の猫の事で相談があります。雑種のメス猫で現在8歳、避妊手術済みです。仮死状態で子猫の時に保護し、ここまで無事に成長し持病もなく健康に過ごしていますが、以前、動物病院で処方された、虫下しの錠剤で、泡みたいな唾液を出し、嫌がったので飲ませるのを止めました。今後、また何かしらの病気で薬を飲ませると思いますが、人と同じでアレルギーとかあるんですか?調べる方法や対処法などあったら教えて下さい。お願いします。」
Ans.1
薬物アレルギーはもちろん動物にも有ります。人間同様にその頻度は低くなく、死に至る重篤な場合もある。アレルギーにはⅠ~Ⅴのタイプがあり、その免疫学的機序は極めて複雑である。分かりやすい定義は「薬物または薬物の生体内代謝物が抗原となって生体が感作され、再度その薬物(抗原)が体内に侵入したときに発生する免疫応答(抗原抗体反応)をいう。しかし、実際にはアレルギー類似反応も含めて薬物過敏反応と同義に用いられることが多い。・・・・・なお、薬物アレルギーを誘発する代表的薬剤にペニシリンがあり、ペニシリンアレルギーの劇症型(全身性アナフィラキシー)がペニシリンショックである。経口投与でもみられることがあるが通常は注射の場合で、アトピー体質者の発生頻度が高い。アナフィラキシーの発生初期(15分以内)に急性循環不全と気道狭窄に対する救急処置を行うことがもっとも重要であり、・・・」(YAHOO!百科事典)
臨床的に分かりやすい表現は、薬物アレルギーには「即時型アレルギー」(アナフィラキシーショック)と「遅延型アレルギー」がある。前者は注射後、数分(重症例は1~2分以内)~15分以内に発症する。血圧低下・徐脈(急性循環不全)・呼吸困難(気管浮腫)・虚脱・蕁麻疹などでショック状態に陥る。後者の「遅延型アレルギー」は数時間から1~2日後に見られる。
動物薬でのアレルギーで有名なのはワクチンである。犬の混合ワクチンの場合、約2万頭に1頭の割合で「アナフィラキシーショック」が発現する。400~500頭に1頭の割合で「顔面腫脹」を主症状とした副作用(アレルギー)も起こる。これは接種後2~3時間から1日以内に起こる場合がほとんどである。その他約100頭に1頭の割合で、接種後1~2日で「発熱」が見られる。猫でのワクチン接種の副作用(薬物反応)は20~30頭に1頭の割合で「熱発」が見られる。
ワクチン以外には「マイシリンショック」を記憶しておく必要がある。「マイシリン」は商品名で「ペニシリン」とストレプトマイシンの合剤(注射薬)である。注射後間もなく、大きめの丘疹が全身の皮膚に現われる。
Ans.2
人間では薬物アレルギーを誘発し易いある種の抗生物質や造影剤などに関しては、投薬前に皮内反応を実施することも少なくない。微量の薬物を皮下に接種して15分後に判定するか、少量を静脈内注射して異常が発現しないかを確認する。しかし、獣医療の分野では一部(造影剤と一部の抗癌剤)を除き、事前に薬物反応の有無を確認することはしない。
しかし、薬物投与後は慎重な観察を行い、少しでも異常が発現すれば適切な対処を行う。具体的には、ワクチン接種の場合、接種後最低15~30分は院内に留まってもらい、正常であることを確認して帰宅してもらう。運悪くアナフィラキシーショックが起こった場合には、酸素吸入・ステロイド剤の投与・血管確保して急速点滴・昇圧剤(エピネフリン)投与などでの救急処置を行う。院内でのアナフィラキシー発現は、多くのケースで救命可能である。犬での顔面腫脹や発熱はステロイドの投与で改善する。猫の発熱は、当院の場合、「解熱剤」の投与で解決している。
いずれにしても、投薬後の「十分な経過観察」と異常を発見したら「早急な受診と適切な処置」が救命を左右する。
Ans.3
「あんちもん」さんの質問にある「虫下し」は、実際胃まで達していない可能性が高いものと考えられる。猫での経口投与は薬の「苦み」からか、困難を伴うケースが多々ある。院内で投与してもらうのも一法だが、駆虫薬の副作用に嘔吐があり、車での帰宅途中に薬を吐いてしまうことも多々ある。
犬猫の駆虫薬は現在8社から販売されており、剤型も錠剤、注射液、滴下式とある。経口投与が困難な場合には、病院と相談し、他の剤型を選択するとよい。
当院でよく使用する駆虫剤は「ドロンタール」と「ドロンシット」(マンソン裂頭条虫)であるが、これらの薬剤に関する副作用事例は14例報告されている(下述の副作用データベースによる・平成17年12月~平成21年10月)。14例中10例が死亡の転帰を取っている。因果関係の不明な症例も多いようだが、投与後1時間未満で死亡したケースもあり、アナフィラキシーショックの可能性も否定できない。
Ans.4
動物薬の使用で「副作用」が発現した場合、獣医師は製造元の製薬会社にその旨報告し、製薬会社は獣医師に対してさらに詳しく聴取した後、農林水産省に届け出なければならない。内容は以下のホームページ上で閲覧できる仕組みになっている。
動物薬の副作用情報に関しては、「農林水産省」のホームページに掲載されている。「動物医薬品検査所(ココをクリック)」で「検索」し、「副作用情報データベース(ココをクリック)」を「クリック」して出た画面で、薬の「品名」や「成分名」を入力すれば、過去数年分の事例内容を知ることが出来る。「あんちもん」さん、是非、調べてみて下さい。