今回は前回の嗅覚に続き、「味覚」について述べる。
●まず始めに、犬や猫でも味を感じているのだろうか?
ご存知の通り、味には5つあり、甘味、酸味、苦味、塩味、旨味がある。これらが組み合わさって多様な味となるのだが、犬や猫でもこれらの味を感じとる能力はある。しかし、その感度はヒトより劣る場合が多い。
味覚は舌の表面にあるざらざらした「味蕾」で感じとられる。この味蕾の数がヒトに比べイヌやネコでは少なく、ヒトー約9000、イヌー約1700、仔ネコー約500となっているのだ。
●イヌやネコはどのような味が好きなのか?
結論から言うと、「体に必要なものを好む」ことが多い。好むものとしては、体内の環境を一定に保ち、体液に多く含まれる「塩」、エネルギー源となる「糖類=炭水化物」があげられる。逆に、「酸味」や「苦味」は拒否する傾向がある。
ただし、ライオン・トラ・ネコといったネコ科の動物では、「糖」に興味が弱いか、全く興味を示さない。分かりやすく言うと、砂糖水と水では嗜好性に差が見られないのである。
イヌやネコの味覚はヒトよりも劣っているのだが、優れている点もある。イヌやネコではヒトではわずかに苦い、酸っぱいと感じるアミノ酸を区別できる。ネコはヒトで甘味を感じるある種のアミノ酸に強い嗜好性を示す。
ネコにおける味覚も「体に必要なものを好む」という理論に当てはまっており、ネコは肉食動物であり、糖類も消化吸収できるのだが、主なエネルギー源としてアミノ酸(ヒトで甘味を感じるアミノ酸も含まれる)を利用している。そのため、糖類よりもアミノ酸に敏感な方が都合が良い。
●小さい頃から色々なフードやヒトの食べ物を与えても良いのか?
小さい頃に一種類のフードだけを食べていた場合、新しい慣れない食物や風味に対して拒否反応を示すケースが多い。こうなると、歳をとり、心疾患や腎疾患などに罹患した場合、療法食を食べてもらえない。イヌやネコでは多くの療法食が作られており非常に優れているのだが、それを利用することができないのだ。また、ドライフードのみを与えられ、好物(缶づめや人の食物)が無いというのも意外と飼い主を困らせることがある。薬を飲ませる、食欲がない、といった場合に好物があると非常に助かる。
ただし、食物を頻繁に変更しすぎるのも問題で、2歳までに食物をくるくる変えると新しいもの好きとなる。こうなると、イヌやネコは多少の空腹は我慢し、新しいフードが出されるのを待ち始め、飼い主は食べないイヌ・ネコが心配でついつい新しいフードを差し出してしまう。まさに悪循環である。加えて、子犬・子猫の時期に過度に色々な蛋白を食べていると食物アレルギーになりやすい、という傾向があるため、この点でも注意が必要である。
※人の食べ物を与える場合には、もちろん味付けは「無し」だが、イヌやネコに与えてはいけないものも多いため、以前述べているここでしっかり確認して与えよう。
●最後に、イヌやネコの「食」に関するプチ疑問について述べる。
★イヌが生ごみを食べるのは味蕾が少なくて味おんちだから?
イヌは分解中の動物組織に蓄積するある種のヌクレオチドを好む。つまり、分解の進んだ食物を好む性癖があるため、生ごみを好んで食べようとするのだ。味おんちだからではない。腹痛や中毒の原因になるため、イヌの居る家庭ではイヌの好物である生ごみの管理には細心の注意を払いたい。ちなみに、ネコにはそのような性癖は無い。
★イヌやネコが草を食べるのは何故?
よく知られているのが、ネコでは毛玉を吐くために葉の細長いイネ科の植物を食べる。細長い葉で胃壁をチクチク刺激する、あるいは葉の成分により吐くといわれている。それに加え、植物には赤血球生産に欠かせない栄養素である「葉酸」という成分が含まれているためとも言われている。
また、イヌでは単に味わいや食感(舌ざわり)が好きという説もある。
ネコはたいていは選択してイネ科の植物を食べるのだが、退屈したり植物を非常に欲しがっている場合には観葉植物を食べてしまうこともある。観葉植物のなかには胃腸障害や中毒を引き起こすものもあるため、ここでチェックしよう。
文責:獣医師 棚多 瞳