現在の獣医療では、人医療同様に、さまざまな経路(ルート)で薬物を投与するが、代謝(解毒)されて、体外に排泄される。今回は「薬物代謝」について述べる。
●薬物の主な投与法には、経口・静脈内・皮下・筋肉内・皮膚(塗布)・直腸内(座薬)がある。時に腹腔内や脊髄(硬膜外・蜘蛛膜下)、稀に動脈内や眼球内、脳室内、骨髄内投与がある。
●代謝は体内から薬物を消失・排泄するための重要な過程である。薬物代謝酵素は全身の多くの組織に分布しているが、特に肝臓に多い。
●薬物代謝酵素は、ミクロソーム系酵素と非ミクロソーム系酵素に大別される。ミクロソームは、実際には細胞内の小胞体を指すが、薬物代謝酵素はリボソームのもたない滑面小胞体の中に多く含有され、これらの酵素を総称してミクロソーム系酵素という。シトクロムcytochrome P450とグルクロン酸転移酵素がこれに含まれる。
●脂溶性の高い薬物は、腎臓の腎糸球体で濾過されても尿細管で再吸収され、尿中にはほとんど排泄されない性質がある。この種の薬物は代謝されて脂溶性が低下すると、再吸収が抑制され、尿中に排泄される。脂溶性薬物の多くは2段階で代謝される。第Ⅰ相反応では、薬は酸化、還元あるいは加水分解を受け、官能基(水酸基、カルボキシル基など)を増し、その後の第Ⅱ相反応(抱合)を受けやすい代謝物に変わる。
●第Ⅰ相反応である酸化反応には、芳香族水酸化・脂肪族水酸化・酸化的脱アルキル化・N-酸化・S-酸化・二重結合のエポキシ化・脱アミノ化・脱硫化のシトクロムP450依存性酸化反応と、MAOによるアミン酸化・脱水素化のシトクロムP450非依存性酸化反応とがある。還元反応(シトクロムP450依存性)にはアゾ還元・ニトロ還元・カルボニル還元・脱ハロゲン化がある。加水分解反応にはエステル・アミド反応がある。第Ⅰ相反応では、肝ミクロソーム酵素系のシトクロムP450による酸化が重要である。
●第Ⅱ相反応である抱合はミクロソームでのグルクロン酸抱合と非ミクロソームでのアセチル化抱合(細胞質)・メチル化抱合(細胞質)・硫酸抱合(細胞質)・グリシン抱合(ミトコンドリア)・グルタチオン抱合(細胞質)がある。
●第Ⅱ相反応の抱合能には、質的にも量的にも動物種差が存在し、猫にはグルクロン酸抱合能がなく、犬にはアセチル化抱合能を持たない。豚は硫酸抱合能がない。牛や山羊・緬羊などの反芻獣ではこれらの抱合能が高い。
●教科書に記載されるようなグルクロン酸抱合の代表薬物はモルヒネ・アセトアミノフェン・クロラムフェニコール(抗生物質)・ジアゼパム等がある。これらの薬物について、猫では投与自体や投与量を減らす必要がある。特にアセトアミノフェンは解熱・鎮痛の大衆薬であり、猫での誤食には要注意である。猫は犬の4分の1のアセトアミノフェンで中毒症状(50~60mg/kg)を呈する。抵痙攣剤・向精神剤(鎮静剤)であるジアゼパム(犬では頻用)の猫での使用や投与量についても注意を要する。
●犬で問題となるアセチル化抱合で代謝される薬物には、イソニアジド・プロカインアミド・ダプソン・ヒドララジン・アリルアミンなどがある。
●まとめとして、①「猫と犬では薬物代謝が異なる」、②「家族が服用中の薬の管理(保管)に注意する」、③「薬は主に肝臓で代謝(解毒)され、腎臓(一部胆汁)から排泄されるため、自分のペットの肝・腎機能や薬物の種類を承知しておく必要がある」。