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ペット豆知識No.62-ワクチンの副作用はなぜ起こるのか・その1「原因となる物質」-MRT「ペット・ラジオ診察室」3月4日放送分

 先般の新型インフルエンザの流行でワクチンの接種意義をはじめ、製法、副作用についての報道が頻繁になされ、われわれ獣医師としてはワクチン接種に際して、説明の点から恩恵を受けている。

●ワクチン接種の意義はウイルスや細菌などの病原体に対して、あらかじめ体内に抗体を産生させ、病原体侵入時に抗原・抗体反応によって、それらを中和し病原性を喪失させる。これで、感染と発症を制御するか、もし感染してもその発症を抑制したり、症状を緩和させる。

●季節性インフルエンザワクチンについて米国の専門家委員会は「健康成人に対する有効率は70~90%」と評価している。これは、接種しない集団の発症率が10%だった場合、接種していれば発症率を1~3%に抑えられるという意味である。

●季節性インフルエンザワクチンでは、入院相当の副作用の発生率は07年度で100万人に3人、08年度は100万人に2人。接種と因果関係が疑われる死亡例はなかったが、呼吸困難などの過敏反応を起すアナフィラキシーは10万人に1人程度の割合で起こるとされている。新型インフルエンザワクチンでは疲労(46%)や注射局所の腫脹や疼痛(68%)などの見られる。

●新型インフルエンザの輸入ワクチンが国産と異なる点は、効果を高めるための免疫補助剤「アジュバント」が使われていることだ。鶏卵で培養したワクチン原液に、接種直前にアジュバントを加える。主成分はサメの肝臓からとれる脂質とビタミンEである。アジュバントは免疫細胞の一つ、樹状細胞を刺激する。

●他の外国メーカーも上記のアジュバンドを使うが、ウイルスの増殖に、鶏卵ではなくイヌの腎臓の細胞から作り出した増殖力の強い「MDCK細胞」を使う。細胞培養法は国内でも日本脳炎ワクチンなどに利用されている。細胞培養法は鶏卵培養とは比較にならないほど生産効率が高い。また、卵アレルギーの人も安全に接種される。

●ワクチン接種後のアレルギー反応はどの位の頻度で発生しているのか。英国で1995~1999年に行われた疫学調査では、10,000回のワクチン接種につき、アナフィラキシーが0.018回、過敏反応が0.028回、蕁麻疹が0.007回であったと報告。最近米国で行われた大規模な(1,226,159頭)疫学調査では、10,000頭の犬に対するワクチン接種につき、アレルギー反応が12.1頭、アナフィラキシーが0.65頭、蕁麻疹が0.26頭であった。日本では、米国の報告よりも高率でアレルギー反応が起こっているのではないかとの見方が強い

●東京大学獣医内科学教室が2001~2002年にかけて約1年間、50ヵ所の開業動物病院の協力で、混合ワクチン接種後24時間以内にアレルギー反応と考えられる犬85頭の情報を解析した。85頭のうち83頭が純粋種、2頭が雑種であった。ミニチュアダックスフントが31頭と多く、全体の36%を占めた。英国での調査では、ミニチュアダックスフントにアレルギー反応が起こり易い傾向は認められていない。

●ワクチンに含まれるウイルス(レプトスピラは細菌)の種類が多い(多種)混合ワクチン接種群にアナフィラキシーの発生率が高いことが、東京大学内科学教室の解析で判明した。英国でも同じことが報告されている。

●同上のアレルギー反応を示した85頭の犬のワクチン接種歴をみると、16頭が1回目24頭が2回目40頭が3回目、残る5頭が不明であった。ワクチン接種が1回目なのに、どうしてアレルギー反応を起すかについては、ワクチン接種前にワクチン成分中の何らかのアレルゲンに対して感作されていた可能性が示唆される。人においてはワクチンの安定剤として使用されているゼラチンがワクチン成分中のアレルゲンとして同定されている。

●東京大学内科学教室が解析したワクチンアレルギーを呈した85頭のうち、即時型反応を起した犬10頭においてワクチンに対する血清中IgE抗体を測定した結果、8頭においてワクチン特異的IgE抗体が検出された。さらにワクチン中のアレルゲン成分について調べると、8頭中7頭においてワクチンに含まれる牛胎子血清(FCS)に対するIgE抗体が検出され、1頭において安定剤としてワクチンに含まれるゼラチンおよびカゼインに対するIgE抗体が検出された。

●また、市販の犬用ワクチン中には、FCS中のタンパク質成分の1つであるBSAが多量(50mg~5mg/ドーズ)に含まれていることが明らかとなった。人用ワクチンではワクチン中のBSA量を50ng/dose以下にすることがWHOの基準として定められているが、犬用ワクチンにはこの基準をはるかに上回るBSAが含有されていることも判明した。

※以上の記述で犬に関して参考にした文献:大森啓太郎、阪口雅弘、辻本元.犬におけるワクチン接種後アレルギー反応の発生メカニズム.JSAVA No.46(2006.3)

●当院で接種している犬用9種ワクチンを製造しているメーカーの添付説明書の成分によれば、①鶏腎細胞培養弱毒イヌジステンパーウイルス、②豚腎細胞培養弱毒イヌアデノウイルス2型、③鶏胚線維芽細胞培養弱毒パラインフルエンザ5型ウイルス、④猫腎細胞培養弱毒イヌパルボウイルス、⑤猫腎継代(CRFK)細胞培養弱毒イヌコロナウイルス、⑥液体培地培養レプトスピラ・カニコーラ、⑦同レプトスピラ・コペンハーゲニー、⑧同レプトスピラ・へブドマディスとあり、その他の添加物質として、スクロース・ラクトース一水和物・L(+)-アルギニン塩酸塩・ポリビニルピロリドンK-90・チメロサールの記載がある。

●当院使用の猫用3種ワクチンの添付書によれば、①弱毒猫カリシウイルス、②弱毒猫ウイルス性鼻気管炎ウイルス、③弱毒猫汎白血球減少症ウイルス株を猫腎臓由来の株化細胞で増殖させて得たウイルス液の混合液に安定剤を加えた。弱毒ウイルス以外の添加物として、カゼイン酵素分解物ゼラチン白糖硫酸ゲンタマイシンが記載されている。

●同じく猫用4種ワクチンの添付書によれば、①猫ウイルス性鼻気管炎ウイルス、②猫カリシウイルス及び、③猫汎白血球減少症ウイルスをそれぞれ猫の腎臓由来株化(CRFK)細胞で増殖させて得たウイルス液又は感染細胞の可溶化部分精製した抗原にホルマリンを加えて不活化(②と③)したものと、④猫白血病ウイルスサブグループ遺伝子を大腸菌に組み込んでエンベロープ抗原を発現させ精製したものを混合、調整した。その他の添加物として、ホルマリンアジュバンドとして無水マンニトール・オレイン酸エステル加スクワラン液を含む。

以上のことからウイルスを増殖させる異種由来の培養細胞や、その培地に含まれる異種タンパク質、安定剤、不活化のためのホルマリン、アジュバンドなど、ワクチンに含まれるアレルゲンの成分(必ずしもタンパクでなくても、血中のアルブミンと結合することで、アレルゲンと認識される)は少なくないことが判明した。また人のワクチンに比べてBSAが格段に多量であることなども明らかにされた。今後は、アレルギー反応にかかわる機序の詳細をさらに分析するとともに、精製法などの技術面の向上を図り、少しでもワクチンによる事故が減少するよう努めるべきである

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