今回のテーマは犬で最も大切と言っても過言ではない「フィラリア予防」についてである。フィラリアはどのような病気なのか? フィラリアを過去の病気だと思っていませんか?
フィラリアは腸内に住みつく寄生虫とは異なり、右心や肺動脈に寄生する。そのため、予防が行われていなかった時代には寿命に大きく関わっていたが、予防法が確立され予防が普及したことにより、フィラリア症は激減した。しかし、決して過去の病気ではないのだ。 室内飼いの増加などにより、予防しない場合も多く、たばる動物病院では逆にフィラリア症は増加している。具体的には本院のみで2007年は7頭、2008年は10頭、2009年は20頭となっており、今年もすでに1頭が来院している。
フィラリアは予防薬の投与により100%予防できる病気である。予防のポイントは以下の通りである。
●蚊が媒介する病気である。
●蚊の体内でフィラリアが成長し、犬に感染可能な幼虫に成長する。成長可能な温度(気温)は「約16℃以上」である。
●感染後約1ヶ月のフィラリアに駆虫効果があるため、毎月投与する。
これらのことを注意して確実な予防を心がけたい。
フィラリアについては以前詳しく述べているため、詳しくはここをクリック。
●また、時々聞かれるのだが、猫にはフィラリアは感染しないのだろうか?
結論から言うと、猫にもフィラリアは感染する。ただし、右心・肺移行率が低く、犬の1/100以下である。ある報告では、フィラリア発生率が犬で32.7%の地区において、猫の発生率は2.2%と低率であり、寄生数も少なかった。しかし一方で、肺動脈・肺に発生する異常所見は犬よりも激しく、罹患症例では犬よりも一般に激しい症状を示すものが多く、フィラリアに対するアレルギー反応による喘息様の発咳が特徴とされる。
※ちなみに、フィラリアは人にも感染する。ただし、非適応宿主であるため、感染しても幼虫あるいは未成熟虫の段階で死滅する。この死滅した未成熟虫が肺動脈塞栓を引き起こす。肺に形成される病変は2×1.5cm前後の球形の腫瘤となる。患者に自覚症状はほとんどなく、咳、痰、胸痛がある程度であり、胸部X線検査やCT検査で偶然発見されることが多い。
●成虫は心臓や肺に寄生し、様々な症状を引き起こすが、ミクロフィラリア(フィラリアの赤ちゃん虫)は犬に無害なのか?
ミクロフィラリアは活発な運動性を持ち、血流に乗って全身を循環し、体内に広く分布している。ただし、血液脳関門と胎盤は通過しない。ミクロフィラリアの寿命は1~2年(長いものでは3年)であり、このように長く生存しうるのは、体表を宿主の血清アルブミンでおおい隠すことで、宿主からの免疫的攻撃を回避しているためと考えられる。
ミクロフィラリアは体内に広く分布しているが、末梢血液には少なく、内部臓器に多い。(特に肺に多い。)正常なミクロフィラリアは毛細血管もスムーズに通過しており、臓器・組織に病変を生ずることはほとんどないが、腎臓の糸球体や尿細管にはミクロフィラリアの物理的刺激と考えられる損傷病変が見られる(院長の大学時代の研究)。(自然死ではミクロフィラリアは徐々に死ぬため、限局性の組織病変は生ずるが、病態発生には至らない。)
ただし、駆虫によってミクロフィラリアが急激に死滅した場合は、個体によっては激しい病変を生じ、症状を現わすことがある。一般に認められる症状は発熱、沈うつ、食欲不振、嘔吐であるが、ときに肝不全(黄疸)、粘膜蒼白、軟・頻脈、浅呼吸などのショック症状をみることもある。これらの症状は多くが投薬後5~8時間以内に発生する。予防薬投与前にはフィラリアに感染していないか、病院でのしっかりしたチェックを受けよう。
●蚊の吸血行動と蚊体内でのミクロフィラリアの成長は、気温が16度以上で始まる。近くに藪などが有る場合には、温度が2~3度高いから注意を要する。
●多くの予防薬は、犬の体内に入った1ヶ月目のミクロフィラリアを死滅させる。このため、予防薬は蚊がいなくなっても1ヶ月後まで服用させることが重要である。
●シェルティやコリー種では、予防薬の成分であるアイボメクチンが血液脳関門を通過し易いため、神経症状を呈して死亡する例もある。これらの犬種に関しては、成分を確認する必要がある。
●フィラリア症は犬の寿命を約半分にすると言っても過言で無い「疫病神」である。予防薬はフィラリア成虫は殺さないが、ミクロフィラリアは簡単に死滅させるため、感染している犬では予防薬の投与が禁忌とされている。投薬の前には血液検査で感染の有無を必ず確認する必要がある。
文責:獣医師 棚多 瞳