5.胃腸の疾患(炎症性腸疾患)
①トイ・プードルは嘔吐・下痢などの症状が見られる胃腸疾患が多い。下痢・嘔吐を引き起こす原因は非常に多様で、胃腸疾患はもちろん、感染症、腎不全、肝不全、膵炎、腫瘍、内分泌系疾患、毒血症、薬、中毒…などがあげられる。トイ・プードルでは、悪玉菌の増加(食べ物の変更、ストレス、抵抗力の低下などが原因となる)、食物アレルギーが原因となる場合が多い。
②上記のように、下痢・嘔吐を引き起こす疾患は非常に多様だが、慢性の胃腸障害の原因として忘れてはならないのが、炎症性腸疾患である。
③炎症性腸疾患とは、慢性の胃腸障害と腸の炎症を特徴とする疾患である。
④症状としては、慢性の嘔吐・下痢の他、重症例では出血、体重減少、食欲低下、低蛋白血症、食後の痛みが認められる。
⑤その病態は完全には明らかになっていないが、原因として腸管免疫調節の変化、腸透過性の亢進、腸内環境因子(腸内細菌、食物抗原)などが関与すると考えられている。そのため、抗菌薬、食事の変更により症状が軽減することがある。
⑥診断は除外診断、治療の反応性、糞便検査時のプラズマ細胞等の検出、病理組織検査などを総合して診断する。
⑦治療は免疫抑制剤、抗菌剤の投与や食事の変更により行う。長期間何らかの治療が必要となる場合も少なくない。
6.アジソン病(副腎皮質機能低下症)
①これは成書にはトイ・プードルに多い疾患とする記述はないが、当院では数頭が治療中である。
②この疾患は副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンが不足することで起こる疾患である。ステロイドホルモンにはミネラルコルチコイドとグルココルチコイドがあり、ミネラルコルチコイドは血中ナトリウムの増加、カリウムの減少、血液量増加など、グルココルチコイドは多様な作用があり、糖新生促進、細胞の糖の取り込みを抑制、蛋白分解、血漿タンパクの合成、抗炎症などの作用がある。
一般にアジソン病ではその両方(ミネラルコルチコイドとグルココルチコイド)が不足し、低Na、高K、再生不良性貧血、高窒素血症、尿比重低下などが認められる。
③症状は、虚弱、食欲不振、嘔吐、下痢、低体温、振せんなどがある。副腎皮質の85%以上が機能しなくなったときに症状が現れる。また、この疾患で大切なことは、ストレスが加わると、体内のグルココルチコイド要求量が増加するため、症状が現れやすくなることである。アジソン病ではストレスは厳禁である。
血液量減少によるショックが見られることもあり、その場合、輸液、ステロイドの投与などの適切な治療が望まれる。
④原発性副腎皮質機能低下症が多く、その原因は、特発性(自己免疫)、感染症、アミロイドーシス、出血性梗塞、腫瘍などにより副腎皮質が破壊されることにより生じるが、免疫介在性副腎炎によるものが最も多いと考えられている。
⑤適切な投薬(ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)が行われる限り、寿命を全うできることが多い。
※嘔吐・下痢には多様な疾患が関わってくる。なかなか治らない場合には、精査を行い他の疾患を疑うことも大切である。
7.鼻涙管閉塞
①涙の大部分は鼻涙管を通って排泄される。涙の排泄器官は、上涙点および下涙点(内眼角から約3~4mmのところに存在する)→上涙小管および下涙小管→涙嚢→鼻涙管より構成され、鼻涙管開口部は鼻涙口と言う。鼻涙口は鼻腔内に存在する。
鼻涙管は短頭種以外では長く、狭い。一方、短頭種ではより短く、より広く、蛇行した鼻涙管を持ち、鼻涙口の位置もまちまちである。
②その鼻涙管が閉塞することにより生じるのが流涙症であり、毛が茶色に染まる「涙やけ」が特徴的である。原因として、炎症、異物、腫瘍があるが、炎症によるものが多い。
③診断はフルオレセイン染色液を結膜嚢に点眼し、同側の鼻孔からフルオレセインの染料が出現するまでの時間を測定する。正常では、4分以内に鼻孔に観察される。(ただし、短頭種や猫では尾側鼻腔内へ排泄されることが多く、鼻孔内では染料が観察されず、舌が染まる。)
④治療は鼻涙管の還流により鼻涙管の還流・点眼薬により行うが、治療をできるだけ早期に行うことで症状の改善が望める。ただし、皮膚炎に気をつけていれば、鼻涙管閉塞の問題点は外見上の問題(涙やけ)のみである。
※その他、小型犬に多い心臓病である「僧帽弁閉鎖不全」も多く見られる。加齢とともに進行する疾患であるため、僧帽弁閉鎖不全症の場合には定期的な心臓チェックが望まれる。その上で、フードの変更、運動制限、投薬の開始など、段階に応じた治療を行う。
文責:獣医師 棚多 瞳