●「今日のワンコ」。12歳、雄のゴールデン・レトリバーの○ン○君。「1ヶ月前、走っていて急に立てなくなった。病院に行き、背骨が悪いと言われたが、一向に(少しも)良くならない」との主訴で来院。レントゲン撮影では異常を認めず。趾端の甲の部分を地面(床)に着けても踏み直らない(踏み直り反射の欠如)。趾骨を指の爪で抓むと痛みを訴える(痛覚反応有り)。発生が急性であり、運動中であることなどの状況から、「線維軟骨性脊髄梗塞症」を疑った。本症は「過度の運動衝撃で椎間板物質(髄核・線維輪)の一部が脊髄内の血管(動・静脈)に入る」というもので、グレートデンやラブラドール・レトリバーなど大型で活発な運動をする犬種に見られ、それほど稀ではない。確定診断は脊髄液検査やMRI、CT検査で行うが、発生状況から容易に推察できることも多い。発症直後であれば琥珀酸メチルプレドニゾロンの投与が有効とされるが、その他の治療法はない。本例は徹底的なリハビリを実践し、2週間で歩けるまでに改善した。
●「今回のテーマ」は「リハビリテーション」である。
●最近、人では「ニューロ・リハビリテーション」という言葉が流行っている。
●神経は脳と脊髄の中枢神経と、頭蓋骨から出る脳神経と脊髄から出る神経とを末梢神経と呼んでいる。
●中枢神経は切断されたり重度の障害を受けた場合、回復が不可能である。
●神経には「可塑性」という用語がある。これは仮に10本の神経線維の束のうち5本が切れたかあるいは不可逆的な障害を受けた場合、残りの5本が機能を増大させるか、あるいは同様な機能を司る神経細胞がバイパス的に作用して、元の機能を回復させようとする現象を意味する。リハビリを行うことで「可塑性」が増強される。
●末梢神経は仮に切断されても神経鞘のみを縫合すれば1日に1mmの長さで神経線維(細胞)が再生する。
●末梢神経が再生されてもその作用点である筋肉が委縮(「廃用委縮」という)してしまうと、その後いくらリハビリを実施しても改善は見込めない。
●「リハビリテーション」の意義は神経の「可塑性」を高め、同時に筋肉の委縮を阻止することにある。
●「具体的なリハビリ法」を以下に述べる。
●患肢1肢につき、1回200回の「屈伸運動」を1日最低3回行う。これは飼い主が用手で強制的に行うものである。
●後肢であれが股に、前肢であれば両脇に”タスキ”を掛けるように犬を吊るして立たせ、負重させたり、屈曲させて筋肉運動を強制する。1日4~5回、1回につき20分行う。
●浴槽やプールなどでの水泳や遊泳運動も効果的である。