<シラミ注意報>
●最近、仔猫・仔犬のシラミ感染が数例有り。犬には、イヌハジラミ(咬むシラミ)とイヌシラミ(吸血するシラミ)の2種類が感染し、猫にはネコハジラミ(咬むシラミ)だけが感染する。子猫や仔犬、健康状態の悪い個体に寄生する。シラミは、宿主から離れて生活することはできない。成虫になるまでに、通常2~3週間を要する。動物同士の直接接触あるいは汚染されたブラシや櫛を介して感染する。人への寄生の恐れはない。
<きょうのワンコ>
●6歳の雑種犬で、体重は34.0kg。H22・8/22、午前10時ころ散歩中に左後肢をマムシに咬まれたのではないかと、12時に来院。同犬は昨年のH21・6/7に夜7時半頃、河川敷を散歩中に急に跛行し、帰宅後腫脹に気づいて2時間後の9時30分に来院。ステロイド剤・抗生剤・局所消毒で治癒。
<ニホンマムシ咬傷(毒)>
●本州に棲息する毒蛇はニホンマムシとヤマカガシの2種である。沖縄諸島・奄美諸島に分布する攻撃性が強いハブよりも毒性が強い。ハブの方が恐れられるのは、毒液の量的問題である。
●ニホンマムシ毒の主な成分と作用
①アルギニンエステル水酸化酵素:ブラジキニンが遊離されて末梢血管透過性がを亢進させ、またヒスタミン遊離も促し、局所の腫脹→循環血液量減少→ショック→腎乏血。
②エンドペプチターゼ(プロティナーゼ)・アリルアシダーゼの蛋白分解酵素:筋壊死(全身骨格筋の変性・壊死、筋線維の断裂・空胞化、Compartment Syndrome、横紋筋融解症)。
③筋壊死(心筋運動抑制、心筋障害、心筋変性)。
④眼症状(神経筋接合部前シナプス膜からのアセチルコリン遊離障害)。
⑤ホスホリパーゼA2:溶血作用、細胞膜溶解。
⑥出血因子HR-Ⅰ(消化管出血)、HR-Ⅱ(皮下出血)、ヒアルロニダーゼ:出血。
⑦組織トロンボプラスチン・PTの破壊→フィブリン消費・AC-グロブリンの不活性化・抗トロンビン。
⑧トロンビン様酵素:血液凝固→DIC(播種性血管内凝固症候群)・腎障害(尿細管上皮細胞変性・急性腎皮質出血壊死・増殖性腎炎?)→MOF(多臓器不全)
⑨その他、直接の毒作用:小細胞壁でのリソゾーム増加→凝固壊死・細部に浸出性血管炎。
●犬のマムシ咬傷の特長
①人間では現在でも年間2000~3000例の咬傷被害があり、10人程度の死亡例がある。しかし、マムシ咬傷では犬は死に至らない。
②人では、牙跡は通常2か所(1~4か所の場合もある)とされるが、犬では来院までの時間経過が長い症例も少なくなく、牙跡を確認できないことが多い。
③咬傷部位は肢端や口回りがほとんど。
④その多くは咬傷部位からの出血や腫脹で来院する。
⑤診断は、病変が特徴的であるため比較的容易であり、咬傷短時間で咬傷部の皮膚が赤褐色~紫色に出血・壊死(かつ、比較的早期であれば水胞形成)し、その周囲が腫脹している。変色した部位を圧迫すると、牙跡から赤褐色の浸出液が出る。
●犬のマムシ咬傷の治療
①人医では、マムシウマ抗血清、セファランチン(ツヅラフジ科の植物・タマサキツヅラフジから抽出したアルカロイドで、生態膜の安定化や抗アレルギー作用、免疫機構へのさまざまな関与が知られる)、ステロイド剤(メチルプレドニゾロンなど)、抗ヒスタミン剤、輸液、血液浄化療法などを行う。
②「犬は、マムシ毒では死亡しない」というのが通説であるため、局所の消毒や抗生物質の投与で特に問題なく治癒する。咬傷後短時間で来院した症例では、消炎を期待してステロイド剤を使用することがある。
③人では、マムシに2度咬まれた場合、初回にマムシウマ抗血清が投与されている症例ではアナフィラキシーショックに厳重に考慮する必要がある。しかし、実際の症例では、逆にマムシ毒に対する抗体が産生されていて、症状が軽度であるとの見解もある。
④今回の「きょうのワンコ」は2度マムシに咬まれたことが推測されたが、飼い主によれば2度目の方が軽度であったようだ(しかし、毒量にもよるので一概には断じきれない)。⑤アナフィラキシーは初回の咬傷で産生されたIgE抗体と毒素(2回目の咬傷)が結合し、好塩基球に働いてヒスタミンを分泌させるのがそのメカニズムである。一方で毒素を中和させるIgM、IgG抗体が産生される結果、2度目の咬傷の症状が軽度となるメカニズムである。スズメバチに刺されて死亡する原因はIgE産生によるアナフィラキシー・ショックと考えられているが、2度目でも死亡しないケースも存在し、人によって免疫応答が異なる。