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5月5日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬猫の不明熱」です。その1.「犬の不明熱」。

犬の不明熱

Julie Flood
Web Supplement:
Fever of Unknown Origin in Dogs

Compendium: Continuing Education for Veterinarians® | January 2009 | CompendiumVet.com

犬の不明熱(FUO)の原因を特定することは,診断における大きな難題である。その診断過程で、特に様々な検査を行っても最終診断にたどり着けない場合には、獣医師ならびに飼い主にフラストレーションがたまる。最終的にほとんどの場合で不明熱の原因を特定することができ、治療も成功する。本稿では、犬の不明熱の診断に将来見込みのある技術の最新情報について述べる。
発熱の原因となる薬物および毒性物質
どんな薬物でも犬で発熱を引き起こす可能性があるが、以下の薬物は発熱を起こすことが知られている。
≫アルブテロール
≫アムホテリシン
≫抗ヒスタミン剤
≫アトロピン
≫バルビツール酸塩
≫ブレオマイシン
≫シメチジン
≫コルヒチン
≫重金属
≫ニトロフラントイン
≫ペニシリン
≫プロカインアミド
≫サリチル酸塩(高用量)
≫サルファ剤
≫テトラサイクリン
診断検査
しばしば、診断の手掛かりは身体検査ですぐに明らかにはならないため、繰り返し詳細な身体検査を行うことが重要である(できれば複数の臨床医によって)。
血液培養
交差反応を引き起こして、PCRを妨げることが知られているバックグラウンドのヒトDNAを除去することができる新たなDNA分離キットの開発により、人間の医療では細菌や真菌(カンジダ属)の迅速な検出と同定のために新たなPCR技術が使用できるようになった。
一つの調査では、後に汚染によるものとわかった血液培養検査での陽性結果全てが、PCR検査で陰性と判明した。陰性だった血液培養サンプル83検体中、6検体はPCR検査で陽性だった。犬で使用する場合、この技術は、特に重症患者や成長の遅い病原体の感染による不明熱の血液培養の補助的手段となるだろう。
滑液培養
人間の敗血症性関節炎患者から分離された細菌の、迅速な検出と分類のために最近開発されたPCRを基礎とした検査も、利用可能である。この検査は、人間の敗血症性関節炎の診断に信頼性が高く、他のPCRを基礎とした検査に比べ、迅速で正確である。この結果は有望で、利用できるようになれば、このような検査は犬の不明熱で非常に価値があるものとなる。
C反応性蛋白と赤血球沈降速度
C反応性蛋白(CRP)は、人間の患者では一般的に測定されている急性期反応蛋白の一つで、犬においても測定されることが増えてきている。血清CRPは、非特異的な炎症反応のマーカーで、炎症の存在と広がり(限局性か全身性か、神経学的か関節炎か)を示すことで、不明熱やその他の伝染性・炎症性疾患の診断に役立つ可能性がある。
一つの研究では、CRP濃度は椎間板突出の犬では増加がみられなかった。執筆者らは、跛行のみられる犬で、脊髄や脳の疾患と関節炎とを区別するのに役立つかもしれないと結論付けている。同じ研究で、CRPは炎症や組織の損傷がみられる多くの疾患、特に腫瘍や免疫介在性疾患で、顕著な増加がみられることが示されている。
人間の医療では、しばしば赤血球沈降速度(ESR)がCRPと共に測定される。血中のフィブリノゲンの量とESRには直接相関関係がある。人間でESRは、特異的な診断といくつかの疾患、例えば側頭動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、慢性関節リウマチなどのモニタリングに役に立つ。また、ホジキン病患者の再発の予測にも役立つ可能性がある。一つの研究によれば、ESRの顕著な増加の主要な原因は感染で、次いで膠原血管病と転移性悪性腫瘍が挙げられる。
犬のCRP測定はより重要となってきており、炎症性の障害や感染、免疫介在性疾患の存在ならびに治療への反応に関して診断情報を提供することが分かっている。ダンとダンによる1998年の後向き研究で、フィブリノゲン濃度は、犬の免疫介在性疾患で著しく増加することが報告された。残念ながら、CRPは測定されなかった。これらの急性相蛋白質(フィブリノゲンやCRP)の役割は、まだ調査中である。しかしながら、不明熱の犬で疾患の診断や局所化に役立つ可能性がある。
■先端的な画像診断
CTやMRIは、診断がいまだにつかない場合や、他の検査でみつかった状態をより明確にするために役立てるべきである。人のFUOでは、ガリウム67、テクネチウム(Tc)99mまたはインジウムによって標識された白血球による核シンチグラフィーが、しばしばCTで見逃される炎症性病変と腫瘍性変化を発見するために、一般的に行われている。獣医学領域でも核シンチグラフィーが行われることが増えてきている。甲状腺疾患、リンパ脈管構造、胃内容排出、糸球体濾過率、門脈体循環シャント、リバース動脈管開存症、および膵炎の評価に犬と猫での使用報告がある。潜在性炎症や感染(膿瘍)の原発を見つける為に、FUOの検査で、放射性同位元素で標識された白血球や抗生物質を用いてを調査することは有益な手段であるかもしれない。
人のFUOの検査に用いられている最新の画像診断法の一つが、画像融合(image fusion)または共同登録(coregistration)と呼ばれるものである。それは、PET(陽電子放射断層撮影)とCTを結合したもので、異常な組織のCT画像と、異常な細胞(感染や腫瘍)による小さい代謝の変化を映し出すPET画像とを同時に一つの連続体として解析することができる。PETで一般的に用いられる、グルコース代謝の増加の非特異的なトレーサーは、18F-フッ化デオキシグルコース(FDG)と呼ばれ、腫瘍細胞や活性化した炎症細胞に蓄積する。これらの細胞による解糖系活性の増加が、炎症部位や感染部位での18F-FDGの取り込みを増加させる。基本的に、共同登録(coregistration)は、PETで小さな病変や腫瘍を発見し、CTで正確な位置付けをする。PETは、発熱の炎症による原因を除外する際に高い陰性適中率を示すと、人の医学文献には述べられている。
一つの文献では、CRPとESRが共に増加している場合に特に有用であると述べられている。PET/CTで取り込み領域の増加がみられなければ、人間では感染を除外できる可能性がある。
 PET/CTの使用に関する犬の3つの症例報告が、この画像診断法が獣医学でも画像診断に重要な役割を果たすことを示している。また最近の報告で、健康な犬の胸部および腹部臓器で取り込まれる放射線トレーサーの基準値となる正常値の確立が試みられている。
先端画像技術の解釈に関する一つの問題点は、確認された異常が発熱の原因であるという証拠が得られないことである。PET/CTは非侵襲性の診断技術として有望であるが、人での使用も限られている段階で、小動物について結論を出すにはまだ早すぎる。

BOX 1 犬の不明熱の原因
≫細菌感染(局所または全身):菌血症、感染性心内膜炎、敗血症性関節炎、骨髄炎、椎間板脊椎炎、敗血症性髄膜炎、膿胸、腎盂腎炎、前立腺炎、子宮断端蓄膿症、腹膜炎、深層性膿皮症、膿瘍

≫細菌性疾患:ブルセラ病、バルトネラ感染症、ボレリア症、レプトスピラ病、マイコプラズマ病(血栄養性と非血栄養性)、結核および他のマイコバクテリウム疾患、L型菌による疾患(蜂窩織炎、関節滑膜炎など)

≫ウイルス:犬ジステンパー、パルボウイルス

≫リケッチア:エールリヒア症、アナプラズマ症、ロッキー山紅斑熱、サケ中毒

≫原虫:トキソプラズマ症、ネオスポラ症、バベシア症、トリパノソーマ症、ヘパトゾーン感染症、リーシュマニア症

≫免疫介在性疾患:免疫介在性溶血性貧血、多発関節炎、全身エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、脈管炎、髄膜炎、ステロイド反応性好中球減少および発熱

≫腫瘍:リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、悪性組織球症、壊死性充実性腫瘍

≫非感染性疾患:リンパ節炎、皮下脂肪織炎、pansteatitis(黄色脂肪症)、汎骨炎、膵炎、肉芽腫症

≫その他:門脈体循環シャント、薬物反応、中毒物質、シャーペイ熱、代謝性骨疾患、原因不明

BOX 2  犬の不明熱への段階的な診断アプローチ
ステージ1
≫詳細なヒストリーの聴取
≫薬物性の発熱を除外するために、すべての薬物を中止する。
≫眼底検査や神経学的検査を含む非常に注意深い身体検査を行う。
≫CBC、血液塗抹、血清生化学的検査のためにサンプルを採取する。
≫血清学または他の検査のために血清を保存しておく。
≫尿検査と尿培養のために尿サンプルを採取する。
≫蛋白尿や不活性沈殿物がみられるなら、尿蛋白/クレアチニン比のためのサンプルを検査施設に提出する。
≫必要であれば、糞便の遠心分離と糞便の細胞診を実施する。
≫胸部と腹部のX線写真撮影を検討する。
≫細菌感染が疑われる場合は、抗生物質の試験投与を検討する。(例えば、エールリヒア症が疑われるならばドキシサイクリン)。
≫必要なら、ステージ2へ進む。

ステージ2
≫必要なステージ1の検査を繰り返す。
≫ステージ1で明らかにならなければ、胸部と腹部のX線写真撮影を行う。
≫必要な、腹部その他の超音波検査を行う。
≫心雑音が存在するならば、心エコー検査法を行う。
≫必要ならば、犬糸状虫検査を実施する。
≫必要であれば、腫瘤、リンパ節、貯留液(シスト、胸膜、腹膜、前立腺洗浄液)の細胞診のためのFNAを実施する。
≫血液培養を行う。
≫関節穿刺を行う。
≫必要ならば、糞便培養を行う。
≫CBC検査結果により妥当ならば、骨髄穿刺を実施する。
≫感染症のために血清学検査を行う。
≫長骨と関節のX線撮影を行う。
≫必要ならば、蛋白質電気泳動を行う。
≫必要ならば、免疫パネル(フローサイト)を行う。
≫必要なら、ステージ3へ進む

ステージ3

≫必要なステージ1、2の検査を繰り返す。
≫心雑音がなくても、心エコー検査を行う。
≫経食道心エコー検査を実施する。
≫CBC検査結果が正常でも、骨髄穿刺を実施する。
≫必要な生検を実施する。
≫必要ならば、気管支鏡および気管支肺胞洗浄を実施する。
≫脳脊髄液検査を行う。
≫歯のX線撮影を行う。
≫CT、MRI、放射性映像、PET(ポジトロンCT)を検討する。
≫必要な腹腔鏡検査または胸腔鏡検査を実施する。
≫試験開腹を検討する。
≫抗生物質または抗真菌剤の試験投与を行う。

(翻訳:街なか犬猫クリニック/獣医師 沖田浩二)

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