<はじめに>
●最近、ペットの老齢化や遺伝的背景などで、様々な眼の病気を患って視力を喪失する「失明」が年々増加している。
●人での情報入手の第一手段が視覚であるのに対し、犬では嗅覚と聴覚が視覚を上回っている。
●そうは言っても、視覚があるのに越したことは無く、失明することは動物にとって正しくハンディキャップの生じることである。
●ペットの失明に関する情報提供は飼い主にとって利益となる。
<犬の失明が増加している理由>
●高齢化に伴う白内障の増加や、ミニチュアダックスフントやトイ・プードルなどの人気犬種には遺伝的に網膜疾患や緑内障の素因をもつ個体が多い。
●短頭種(シーズー、パグなど)の角膜疾患(角膜炎・角膜損傷・角膜潰瘍・色素性角膜炎など)。
※仔猫の猫風邪に起因するよる角膜損傷(角膜炎・角膜穿孔・葡萄膜炎・緑内障)。
<最近の研究調査>
●酪農学園大学獣医学部獣医学科伴侶動物医療教育群の内田佳子氏らの論文。
●「視覚を喪失した犬15例の経時的行動変化と飼い主の意識調査・2011年」。
●2009年3月~7月の4ヶ月間に視覚異常を主訴として来院し、両眼視覚喪失と診断された15頭。年齢は2~10歳齢。♂8頭、雌7頭。ミニチュアダックスフントが12頭、アメリカンコッカースパニエル・北海道犬・ミニチュアシュナウザーが各1頭。
●診断は突発性網膜変性が6頭、進行性網膜委縮が8頭、網膜変性が1頭。
<視覚を喪失した犬の行動の変化、またその原因と対策法>
●増加した行動
①家族への攻撃行動(唸る・咬む)/40.0%→慣れと時間の経過で減少。
②家族の傍にいる時間/73.3%←不安。
③音への反応性/60.0←視覚に代わるもの。
④臭いかぎ/80.0%←視覚に代わるもの。
⑤排泄の失敗/46.7%→トイレの数を増やす・臭いを残す・排泄の命令を教える。
⑥物や人へのぶつかり/100%→人工触覚により物を捉えることができる帽子を作成し着用させる。荷造り用の気泡緩衝シート等の安価で軽い保護材で危険個所を全て被う。フリーズ(動作の中止)を教える。
⑦寝ている・じっとしている時間/93.3%→肥満に注意。
●減少した行動
①家族への吠え/60.0%。
②来客への吠え/40.0%。
③散歩への関心/75.0%。
<視覚喪失犬との生活で困ることの推移>
●診断時・1ヶ月後・2ヶ月後・3ヶ月後
①ぶつかる/53.3%→93.3%→73.3%→53.3%。
②段差でつまずく/20.0%→53.3%→60.0%→20.0%。
③散歩がうまくできない/26.7%→33.3%→20.0%→6.7%。
④その他さほど困らないこと(15頭中0~2頭)
排泄の失敗・他犬との接触・世話時間の増加(通して同じくらいの6.7%)・性格の変化・経済的負担・食餌がうまくできない・他人との接触・相談相手がいない・コミュニケーションがうまく取れない。
<まとめ>
●視覚を喪失した失明犬もその飼い主も比較的早期に「目が見えない」ことに慣れる。
●失明と診断されても、冷静に受け止める事が重要。
●かえって犬とのコミュニケーションが増える。