4.遺伝子検査
●疾患の発症に関連することが報告されている遺伝子変異の有無を調べる検査
●国内では犬で45項目、猫で1項目検査可能(下表参照)
●少量の血液、口腔粘膜を使って検査可能
●遺伝子検査の解釈
・「変異がない」という結果が出た場合…:現時点で疾患の発症に関連することが報告されている遺伝子の変異箇所について、正常な遺伝子を保有していることが分かる。つまり、全ての遺伝子が正常というわけではなく、1箇所のみを調べている為、100%その病気に罹患しない訳ではない。現時点で特定されていない遺伝子変異が発症に影響することもある。
・「変異がある」という結果が出た場合…:100%その病気に罹患するという訳でもない。多くの場合、将来の発症リスクを知る為の検査で、交配させる場合など、次の世代への影響を調べる点で重要。
●その他の利用法
・MDR1遺伝子の変異を有する動物ではイベルメクチン(フィラリア予防薬、毛包虫・疥癬などの治療薬)の副作用が出やすい。好発犬種としてコリーとシェルティーが知られており、投薬前には検査が必要。
●遺伝性疾患に関する研究が精力的に実施されているが、現段階の遺伝子診断で遺伝子の変異が見つかったとしても直接遺伝子治療に結びつかないのが現状である。
5.遺伝性疾患をなくす為の対策
●遺伝性疾患のほとんどで治療法がない為、遺伝子変異を持つ個体を繁殖に供さないことが遺伝性疾患をなくす唯一の方法である。遺伝性疾患は若齢で発症するものから、一定期間(中高齢)してから発症する疾患も存在する。仔犬・仔猫を飼い始める場合の多くがブリーダーやペットショップを介して購入する為、信頼できる業者を選ぶことが重要である。
●JKCでは股関節形成不全・肘関節異形成症ついて、レントゲン撮影で診断した異常の有無や程度を血統書に記載している。
●動物愛護管理法改正案ではインターネットでの取引を規制するなど、日本でも遺伝性疾患に対する対策が講じられつつあるが、未だ先進国に比べ遅れをとっている。
●獣医療における遺伝病対策を進める為には、まず多くの人に遺伝性疾患を周知することが第一である。
●また、獣医師がブリーダーや研究者とネットワークを作り、遺伝性疾患の解明と発症の防止、治療の進展に対しての問題意識を共有する必要がある。
国内で検査可能な遺伝性疾患を表に示す。
文責:獣医師 藤﨑 由香