今回は近年増加傾向にある「猫の尿管結石」について述べた。
<今日のにゃんこ(実際の症例より)>※レントゲン写真参照
10月半ば、アメリカンショートヘア(7歳)の猫ちゃんが来院した。元気や食欲はいつもと変わらないのだが、血尿があるとのことだった。腹部超音波検査にて尿管の拡張を認め、血液検査にて血清クレアチニン値の上昇(3.2mg/dl)が認められ、腎不全を呈していた。また、腹部レントゲン検査にて両側の尿管に結石を認め、また片方の腎盂にも腎結石が存在した。輸液と利尿薬投与といった内科的治療によって経過観察としたが、尿管結石は全く移動せず、血清クレアチニン値は更に上昇した。そのため、両側尿管切開により尿管と腎盂の結石を摘出した。現在、尿管・腎盂の拡張は消失し、血清クレアチニン値も正常値である。
※※尿管結石は腎不全に陥り命を落とすこともある疾患であり、早期発見、早期治療が大切となる。
●では、具体的にはどのような症状が見られるのだろうか?
食欲不振、嘔吐、元気がない、体重減少、多尿・多飲、有痛性排尿、血尿、腹痛、失禁、流涎、尿道閉塞などが挙げられる。ただし、血尿や腹痛といった尿管結石を疑う症状が必ずしもあるとは限らず、食欲不振、嘔吐、元気消失など特徴に欠く症状のみの場合も多い。
●罹患しやすい年齢や性別はあるのか?
尿管結石は若齢でも老齢でも、また、雄でも雌でも起こり得る。具体的には、麻布大学の調べによると、罹患動物の年齢は生後7ヶ月~12歳であり、海外の報告では8ヶ月~16歳であった。つまり、どの猫でも起こり得る、ということになる。また、麻布大学の調べでは、アメリカンショートヘアーが好発種である可能性が示唆された。
●診断はどのように行うのか?
主に超音波検査とレントゲン検査によって診断する。アメリカの論文では、手術や解剖で尿管結石が見つかった猫のうち、事前に超音波検査とレントゲン検査で尿管結石を確認できていた症例はそのうちの90%であった。超音波検査では尿管結石そのものは見つけることが不可能であっても、拡張した腎盂や尿管を描出し得たら、尿管結石を疑う必要がある。また、アメリカの論文では、尿管結石の猫のうち83%において腎機能値の上昇が認められた。つまり、腎不全に陥っていたことになる。
●治療にはどのような方法があるのか?
○内科的治療と外科的治療がある。
○内科的治療には輸液や利尿薬の投与などがある。内科的治療により尿管にあった結石が膀胱に流れていくケースもあるが、その可能性は低い。
○外科的治療には、尿管切開、尿管の部分切除とその後の尿管吻合、尿管膀胱吻合といった手技がある。
※診断時には慢性腎不全を呈しているケースが多く、治療後も腎不全が改善されない場合も少なくない。アメリカの論文では、治療後の1年生存率は66~91%であり、不幸にも1年以内に死亡した症例の死因は尿管結石の再発や慢性腎不全の進行であった。
※ちなみに、膀胱結石とは異なり、猫の尿管結石は麻布大学の報告では100%、アメリカの論文では98%がシュウ酸カルシウム結石であった。残念ながら、シュウ酸カルシウム結石は食事で溶解することのできない種類である。
●早期発見するために気をつけることは?
尿管結石は年々増加傾向にある。血尿や腹痛が認められた場合はもちろんだが、慢性の非特異的な症状(食欲不振、嘔吐、元気がないなど)を示す場合や急性/慢性腎不全の場合にも腹部画像診断(超音波検査、レントゲン検査など)を行うことが大切となる。特に、アメリカンショートヘア、同腹や兄弟姉妹猫に尿管結石が認められた症例の場合には要注意である。当病院でも兄弟が尿管結石を発症したというケース(いずれも同居していた)に1年間で2組遭遇している。
●予防法はあるの???
これについては次回述べる。
文責:獣医師 棚多 瞳