はじめに
1.犬のてんかんの原因は様々だが、ここでは特発性てんかんについて述べる。
2.犬・猫のてんかんの発症率は0.3~0.6%と言われ、当院でも約50症例が現在治療中である。猫での発生は稀である。
3.特発性てんかんは脳実質に病理学的病変や画像的異常を認めない。
4.異常脳波(てんかん脳波)の検出は可能だが、検査自体は一般化していない。抗てんかん薬の投与による診断的治療が行われる。
●てんかん発作の大別
てんかん:大脳皮質における異常かつ過剰な、および過剰同期化したニューロン活動の臨床症状。異常ニューロン活動の位置と範囲によって発作の臨床像が決定される。
1.焦点性発作(大発作):脳全体の過剰興奮によって起り、意識消失や全身性の痙攣などが見られる。
2.全般性発作(小発作):脳の部分的な過剰興奮によって起り、体の一部の痙攣や行動異常などが見られる。
●てんかんのタイプ
1.症候性てんかん(二次性てんかん):脳腫瘍や脳炎など、脳内に構造的病変が存在に起因する。
2.反応性てんかん:一過性の中毒、代謝性疾患(低血糖や低カルシウム血症、門脈体循環シャントなど)等に起因する。
3.特発性てんかん(真性てんかん):脳内に構造的病変が存在しないにも関わらず起る。
●特発性てんかん(真性てんかん)とは???
1.犬では一般的、猫では少ない。
2.1~5歳で最初の痙攣発作を経験(6カ月齢未満、10歳以上での発症報告もある)する。
3.遺伝性素因が疑われる犬種:ビーグル、ダックスフンド、シェパード、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバーなど
4.発作は一度きりの場合や定期的に繰り返すケースがある。
5.発作後数分から数時間後には消散へと進む全身性運動失調、異常行動および盲目を含め一過性発作後障害が存在する可能性があるが、この期間以外は正常である。(持続性神経障害が認められる場合は器質的神経病変の存在を示唆する。)
●特発性てんかんの診断
特発性てんかんは、典型的な発症年齢、持続性神経障害の欠如および可能性のある原因の排除に基づいて診断される。
●特発性てんかんの治療
1・発作の頻度が月に1回以上見られる、重度の発作が起こる、発作の頻度が増加傾向である場合には投薬が必要となる。
2.治療の目的は発作が起こらないようにすることではなく、発作の回数や程度を抑えることを目標とする。
3.作用機序の異なる薬品を組み合わせて投与することによって相加相乗効果を狙う。
4.抗てんかん薬は動物用に開発されたものがない為、人の治療薬を使用する。しかし、半減期が短かったり肝毒性が強い為、使用できない薬品も多い。
●動物の特発性てんかんに使用される薬剤
○フェノバルビタール
1.安価で長期投与可能である。
2.作用機序:神経の脱分極閾値を上昇させることで異常興奮の広がりを抑制する。
3.副作用:鎮静作用、多飲多尿、多食、体重増加、運動失調、肝不全など。
○臭化カリウム
1.腎臓から排泄されるため、肝疾患症例にも適用が可能である。
2.猫では有効性が低く、特異体質の症例ではアレルギー性間質性肺炎を引き起こす。
○ゾニサミド
1.日本で開発された抗痙攣薬である。
2.犬・猫においての副作用の報告例はない。
3.難治性てんかんの症例でも有効である。
4.欠点:フェノバルビタール、臭化カリウムと比較して高価である。
5.作用機序:脱分極する際に働くチャネルをブロックする。
●治療薬使用のポイント
1.フェノバルビタールと臭化カリウムによる治療が一般的であるが、肝酵素上昇した場合や発作がコントロールできない場合にはゾニサミドが有効になる。3剤併用しながら、徐々にフェノバルビタールを減量し、可能ならフェノバルビタールをゼロにする。
2.発作がうまくコントロールできた場合には臭化カリウムも減量可能なこともある。
3.一般に投薬は長期間となる。
4.急に休薬すると発作を誘発するため、治療計画等について予め獣医師とよく話し合うことが必要である。
●特発性てんかんの予後
1.中央生存期間は約7年との報告がある。
2.発作がうまくコントロールできている症例では正常な動物と同じような寿命を全うできることも多い。
3.重積:通常発作は1~2分で治まるが、持続性の発作が20分以上続くと永久的な神経障害を引き起こす。重積の症例では速やかな発作の制御が必要となる。家庭ではジアゼパムの経腸投与で重積による神経障害を防ぐことができる。※重積:5分以上持続する発作活動あるいは発作活動の間欠期に正常状態に戻らない反復性発作。
●おわりに
1.特発性てんかんは適切な治療薬の使用によってコントロール可能である。
2.投薬は長期に渡る場合が多いが、天寿を全うできるケースが多い。
文責:獣医師 藤﨑 由香