コンテンツへスキップ

1月26日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬のレプトスピラ症」でした。

レプトスピラ症とは? 
・人獣共通感染症の一つである。 
・感染症予防法では4類感染症に分類されている。
・家畜伝染病予防法届出伝染病でもあり、診断・治療した獣医師には最寄りの家畜保健衛生所に文書報告する義務が生じる。
・2008年の報告数は、全国でヒトで43件、イヌで42件である(動物衛生研究所ホームページ)。
・イヌ42件のうち5件が宮崎県での発生であった。
・しかし、確定診断が難しい疾患なので、実際は届け出されていない症例が多く存在すると思われる。
・日本では秋疫病、ワイル病として知られ、1960年代中旬までは毎年100人以上の死亡例があった。その原因として裸足での農作業などが挙げられる。
・現在では、海外渡航者の増加とともに、流行地からの輸入感染例増加など散発的な発生が報告されている。
・250以上の血清型が存在する。 
・ネコでは実験感染の報告のみであり、臨床上では犬の病気である。

病原体や感染経路は? 
・原因菌はLeptospira interrogansであり、細菌学的分類ではスピロヘータ属である。
・げっ歯類をはじめとする野生動物が保菌者(キャリアー)である。
・発病している動物ばかりでなく、症状の無い不顕性感染の動物の尿が感染源となる。
・臨床的にレプトスピラ症が治癒した犬の尿中には6~12ヶ月間、病原体が排泄されるという報告もある。
・尿中に排出されたレプトスピラ菌はそれに汚染された水や土壌を介して経皮的あるいは経口的に感染する。
・農業、畜産業従事者への感染が多くみられる。実際、宮崎での感染例は台風直後に畑仕事をした人であった。これは台風の大水で溝(どぶ)から追われた鼠が周囲に排尿したことに因ると推測されている。また、獣医師も感染犬の排尿処理で手の傷から経皮的に感染したとの実例もある。
・台風や洪水後の集団発生例があり、特に台風時は注意を擁する。
・レプトスピラ菌は高温多湿な環境を好むので夏~秋にかけて発生が多い。しかし、先月宮崎市内でも犬で発生!!
・国内で見つかったレプトスピラ血清型
Leptospira borgpetersenii serovar Castellonis
L.borgpetersenii serovar Javanica
L.borgpetersenii serovar Poi
L.interrogans serovar Australis
L.interrogans serovar Autumnalis
L.interrogans serovar Bataviae
L.interrogans serovar Canicola
L.interrogans serovar Copenhageni
L.interrogans serovar Hebdomadis
L.interrogans serovar Icterohaemorrhagiae
L.interrogans serovar Kremastos
L.interrogans serovar Pomona
L.interrogans serovar Pyrogenes
L.interrogans serovar Rachmati
L.interrogans serovar Grippotyphosa

どんな症状? 
・ヒトでは発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛など風邪と似た症状がみられ、重症例では黄疸、出血、肝不全、腎不全に陥り入院・治療しても死亡する場合がある。致死率は5~50%とされている。
・イヌでも不顕性感染から黄疸、肝不全、腎不全、出血傾向など重篤な症状を呈する症例まで様々。発症すると致死率は高い。

診断法は?
・血液または尿を検体としてレプトスピラ菌を分離培養し、病原体を検出する。培地にはコルトフ培地、EMJH培地が用いられ、培養には数日~1ヶ月程度時間を要する。
・PCR法により病原体遺伝子を血液もしくは尿から検出することができる。発症後4日が経過すると菌血症はなくなり、菌は腎盂、尿中に移行していると考えられるため、病期により、適切な検体を用いて検査することが大事である。
・MAT(顕微鏡による生菌凝集試験)によって抗体価を測定する。急性期と回復期のペア血清で4倍以上の抗体価の上昇がみられた場合陽性と判断する。ワクチン接種によって上昇した抗体価も検出するため、ワクチン接種犬ではその判定に慎重を要する。各血清型についてそれぞれ検査を実施する必要がある。
・ELISA
※確定診断が難しく、さらに検査結果が出るまでに時間を要する為、確定診断まで至らないケースも多い。

どのような治療があるのか? 
・抗生剤(ペニシリン・アモキシリン)の投与が推奨されている。
・対症療法として脱水回避のための輸液、腎不全進展回避のための利尿剤の投与、肝臓の保護剤の投与、尿毒症性胃炎に対しての胃酸分泌抑制剤の投与、さらにDIC予防などを考慮する。

予防法は? 
・犬ではワクチン(レプトスピラが混合ワクチンに含まれているものも)の予防接種をする。しかし、すべての血清型に有効ではないので、ワクチンを打っていても注意が必要である。
・ ワクチンに含まれている血清型はL.icterohaemorrhagiae、L.canicola、L.hebdomadis、L.grippotyphosaであるが、ワクチン製造メーカーによって含有の菌種や菌数が異なる。
・ワクチン以外で気を付けることとして、①水辺など、不用意に犬を連れて行かない(特に台風や洪水などの増水時)、②水たまりの水を飲ませない、③他のイヌの尿に近づかせない・・・などである。
   
○台風や洪水の後、または河川に行った後に黄疸が見られた場合にはレプトスピラ症を疑う。
○動物病院に連れていくのはもちろん、ヒトにも感染する可能性があるので注意が必要!!
○消毒(加熱、乾燥、消毒薬で簡単に死滅)をていねいに!!
○素手で患畜、特に罹患犬の排泄した尿には触れない!!! 

文責:獣医師 藤﨑 由香

先頭へ

電話受付