○前回は犬猫の尿管結石について、そして一部腎結石の手術法について述べた。
○今回はそれより下方の膀胱結石の手術(膀胱切開)の要点について述べる。
○雌では膀胱結石が大きく数が少ないので摘出が比較的容易。
○一方、雄では結石が小さく小粒(砂状)で、数が多いのが特徴。
○アプローチは犬猫、♂♀に限らず、腹部正中切開。
○切開部位は膀胱三角からなるべく遠ざけるように心掛ける。これは、縫合時の尿管開口部の縫い込みなどの損傷を避けるためである。
○結石が膀胱三角(尿管が膀胱に開口する部位で膀胱と尿道の境界付近)や尿道への出口に潜り込んだり、あるいは粘膜に食い込んでいる場合もあるので、レントゲン写真と数量を合わせることが重要。
○特に、全身麻酔の影響で、膀胱三角や尿道内への結石の移動が生じる。
○薬匙やピンセットなどで隠れた結石を丹念に探す。
○雄では、小さな結石が尿道を閉塞している場合も少なくないため、経ペニスあるいは切開した膀胱から経膀胱的に尿道にカテーテルを挿入し、フラッシュ洗浄して、1個、1粒たりとも結石を残さない手術を心掛ける。
○但し、雄猫の場合、ペニスの解剖学的位置から、ペニスからのカテーテル挿入は衛生的に問題があるため、膀胱三角や尿道内の結石確認は膀胱の切開創からのフラッシュ洗浄の繰り返しで丹念に行う。念を入れて膀胱からペニス方向にカテーテルを挿入して通過を確認する。
○膀胱壁の縫合は、教科書的にはクッシング縫合とされるが、本法は縫合が粘膜面まで達しないため、創面の左右の粘膜同士の接着(密着)が乏しい。このため、粘膜まで縫合針を架け、切開創スレスレで針を抜く手法で連続縫合する方が適当であろう。この手法では縫合糸が粘膜面から隠れ、縫合糸が膀胱内の尿に直接触れる可能性は低い。
○膀胱壁の縫合法にこだわる理由は、クッシング縫合は縫合後も粘膜がヒラヒラの状態になる可能性があり、これは粘膜の癒合遅延を招き、また粘膜下での細菌の増殖を惹起し得る。延いては慢性の膀胱炎や出血の原因となり得る。
○基本は、連続の一層縫合でも問題ないとされるが、念のため、2層縫合を行う場合が多い。特に、慢性の症例で膀胱壁の分厚い場合には、2層あるいは3層縫合を行う。
○膀胱壁を縫合したら、膀胱内にリンゲル液もしくは生食水を注入して漏れが存在しないか確認する。
○リンゲル液もしくは生食水にて丹念に腹腔内洗浄を行う。
○ルーチンで閉腹する。
○最低3日間の輸液実施で尿の希釈を図り、縫合部の癒合を妨げない。輸液は術後の膀胱炎発症の抑制にも有効である。
○抗生剤は膀胱炎を抑えるため2週間程度服用する。