<猫の口内炎>
○「猫の口内炎」は昔も今もよく見られる疾患である。
○危険因子は猫白血病・猫エイズ・カリシウイルス・ヘルペスウイルスが関連している。猫エイズとカリシウイルス感染では重症になり易い。
○同義語はリンパ球形質細胞性歯肉炎。ウイルスに対する免疫反応が疑われている。
○症状は流涎(炎症と痛みが酷い)・疼痛(特に採食餌・塩分で染む)・削痩(体重減少)など。
○猫では破歯吸収病変もあるので歯自体も良く観察する。
○治療は抗生剤やステロイド・シクロスポリンなどの免疫抑制剤、インターフェロンの投与、レーザー治療など・・・。
○内科療法などが奏効しない場合には過激的と思われるが「犬歯より奥歯(前臼歯と後臼歯)」を上下とも全抜歯する。
<文献>(日獣会誌Vol55、95-98pp、2002)
○歯肉口内炎のため採食時の疼痛が著明で、内科療法を行っていた猫14頭に対して臼歯部全抜歯。
○結果、肉眼的に口腔内の炎症が消失したものは14頭中5頭(35.7%)。
○採食時の疼痛が消失したもの14頭中6頭(42.9%)。
○症状の改善傾向は14頭中10頭(71.4%)で改善あり。
○採食時の疼痛は14頭中9頭(64.3%)で効果あり。
○抜歯前に歯肉口内炎が重度であるほど効果が低い。
○猫白血病や猫エイズが陽性の個体ほど効果が低い。
<抜歯の効果の実際>
○術後に点滴や栄養剤の投与を行うことで8~9割以上に明らかな改善が認められる。上記の文献よりも成績が良い。
○若い猫の場合、余命が長いため、断続的な内科療法は経済的負担が嵩むため、早めの抜歯が望まれる。内科療法は効果が一時的なケースが多く、かつ部分的である。
○高齢やウイルス感染症のある猫、ヘモバルトネラ症、腎不全、心臓肥大などの症例では抜歯の是非を慎重に検討する。しかし、放置すれば体重が減少し死に至るため、いずれは抜歯に踏み切らざるを得ないケースが少なくない。
<まとめ>
内科療法に反応の悪い症例や若齢の症例では早めの抜歯を検討すべきである。術後は抗生剤投与や輸液、栄養補給など、総合的に治療することが重要である。麻酔や抜歯の全身的影響を最小限にすれば、ほとんどの症例で治癒あるいは明らかな改善がみられ、予後は良好である。ただの「抜きっぱなし」は御法度。