ある肥満なワンコの話。歳は6歳4カ月、去勢♂のトイ・プードル。体重は7キロ前後で推移しているが、BCSは4.5で標準3の理想的体重は5.7kg。飼い主は、「このところの暑さで家の中でもハ―ハ―と呼吸が苦しそうだ」と訴えている。確かに胸部レントゲン撮影で中等度の気管虚脱(狭窄)を認められる。2、3度は内服薬を処方したが、一向に減量しようとしない。堪り兼ねて、「このままだと早く死にますよ・・・」と憤慨して諭してはみたが・・・。
Q.肥満が大敵なのはどうして?
Ans.肥満でリスクが増す疾患を列挙してみよう。
①肝疾患(脂肪肝)、②骨関節疾患(肥満犬の24%)、③糖尿病、④高脂血症、⑤心疾患(呼吸効率の低下、過剰な脂肪組織への血液潅流増加のため心臓負荷が増す)、⑥呼吸困難(呼吸器周囲への脂肪沈着→咽喉頭の狭窄)、⑦皮膚病など感染症、⑧尿石症(運動量が低下し、結果飲水量が減ることに因る)、⑨発癌性(例えば、1歳の時点で肥満の状態にある犬は乳腺腫瘍に罹患しやすい)、などのリスクを高めることが明らかになっている。
Q.トイ・プードルにはそもそもどんな好発疾患があった?
Ans.この番組でも「トイ・プードルに見られる好発疾患」について何回か話しているが、改めて列挙してみよう。
①僧帽弁閉鎖不全症、②膝外骨脱臼症、③遺伝性の網膜疾患(進行性網膜委縮など)や緑内障、④前腕骨骨折、⑤環軸椎亜脱臼、⑥炎症性胃腸炎、⑦アジソン病(副腎皮質機能低下症)、⑧鼻涙管閉鎖(小涙点)、⑨大腿骨頭壊死、⑩てんかん、⑪先天性水頭症・・・そして⑫気管虚脱(狭窄)である。
Q.気管虚脱ではどうしてダイエットが重要なの?
Ans.
①咽喉頭などの呼吸組織に脂肪が沈着するとその部位での狭窄を招く。
②呼吸に係る胸部や横隔膜、あるいは腹部臓器や皮下組織での脂肪沈着が増すと容積(呼気時の胸郭の脹らみなど)をはじめ呼吸効率の低下を招く。
③過剰な脂肪組織への血液潅流増加を来すため、結果心臓負荷が増す。
Q.大敵な肥満への具体的な対処法?
Ans.「可愛い子には旅をさせろ」に習って、「鬼になって減量」しかその解決策はない。病院で理想体重(BCS3)に到達できるフードの量を計算してもらえばおよそ70~100日で減量可能。
※肥満の余談議※
最近、「30代にしか見えない56才医師が伝授する若返り3原則」(女性セブン2012年5月10・17日号)なる若返り法がマスコミで注目を浴びた。日本で唯一の乳房専門『ナグモクリニック』総院長・南雲吉則医師の著書『「空腹」が人を健康にする』(サンマーク出版)はミリオンセラーで大反響。その中身は・・・
①腹が空くまで食べない、②丸ごと食べる、③夜更かししない・・・とのこと。さらに、④運動しない:「ほ乳類が生涯に打つ心拍数は約20~30億回と決まっていて、人間の場合、1分間に50拍なら、約80年間で心臓は停止するといわれています。つまり、激しい運動をして心拍数を上げすぎると命を縮めることに。だから、脂肪を燃焼させるには、日常生活で行う動きで充分!」、⑤温めない、⑥(水を)飲み過ぎない、⑦考えない・・・と加える。
ここで気になることは、「生涯心拍数」。小生も立派な焼酎くれ。前夜アルコール抜きの翌朝の心拍数と血圧は、66回/107mmHg/74mmHg。ところが、呑み過ぎの翌朝のそれらの値はそれぞれに10~15は高い。人間の生涯の心拍数は20~30億回とする説があり、賛否両論だが・・・我が身にもとあって、週刊紙に持て囃される風説として聞き流すか、否か???
犬や猫にも当てはまる可能性がある。今回紹介したトイ・プードルの肥満が悪循環的に気管虚脱の状態を悪化させ、心拍数も増加して寿命を短くしていると想像したら、ダイエットへの道(説得)として威力十分ではなかろうか。