○はじめに-リンパ腫の顔?–
・犬の造血器系腫瘍の90%以上はリンパ腫であり、腫瘍全体で3番目に多いと言われる。
・抗ガン剤に対する反応が最もよい腫瘍の1つである。
・発生部位で、多中心型(リンパ腫の約80%)、消化器型(約7%)、皮膚型(約6%)、縦隔型(約3%)、節外型(約3%)に分類される。
・リンパ球の成熟度や細胞型により、幼若なリンパ球が腫瘍化した場合はHigh gradeリンパ腫、ある程度成熟したリンパ球が腫瘍化した場合はLow gradeリンパ腫に分類される。また免疫表現型によってT細胞型とB細胞型に分けられる。
・予後は分類により異なる。
・High gradeリンパ腫 < Low gradeリンパ腫(5~10%)
・サブステージb < サブステージa
・T細胞型 < B細胞型 (74~83%)
・縦隔型、消化器型、皮膚型 < 多中心型
○症状は?
・最も共通してみられる症状はリンパ節の腫脹である。
・その他元気消失や消化器症状など他の疾患と同様の症状を呈する。
・リンパ腫でしばしば認められる腫瘍随伴症候群として高カルシウム血症がみられることがある。
・多飲多尿などがみられることもある。
・皮膚型では紅斑や結節、鱗屑など様々な皮膚症状を示す。
○診断は?
・確定診断には生検が必要である。
・細針吸引(FNA)で診断ができることも多い。
・Low gradeリンパ腫ではFNAで診断がつかないことが多く、コア生検またはクローン性解析が必要になる。
<犬のリンパ腫における臨床ステージ分類(WHO)>
ステージ1:単一のリンパ節または臓器のリンパ組織に限局した浸潤を認める。
ステージ2:領域内の複数のリンパ節に浸潤を認める。
ステージ3:全身のリンパ節も浸潤を認める。
ステージ4:肝臓あるいは脾臓に浸潤を認める。
ステージ5:血液、骨髄あるいは他の臓器への浸潤を認める。
サブステージa:全身症状なし。
サブステージb:全身症状あり。
・WHOステージと予後の関係については明確にされていないが、一般的にステージ5については予後が悪い。また、サブステージbの方が予後が悪い。
<免疫表現型>
・犬ではB細胞型リンパ腫に比べてT細胞型リンパ腫の方が治療抵抗性であることが多い。
・免疫表現型を調べるにはリンパ球クローン性解析または免疫組織化学染色を行う必要がある。
・リンパ球は外部からの異物(抗原)に対して免疫応答を行う細胞であり、細胞表面に受容体(レセプター)を持つ。このレセプターの種類によってT細胞とB細胞に分類される。
・リンパ球はある特定の抗原のみに反応するため、T細胞であればT細胞レセプターの先端の形が、B細胞であれば免疫グロブリンレセプターの形が異なっている(可変領域)。
・正常なリンパ球集団は多様な抗原に対応するように様々な可変領域を持つ細胞から成るが、リンパ系の腫瘍の場合は同じ可変領域を持つ細胞のみ増殖する(クローン化)。
・免疫組織化学染色では現在CD3(B細胞)CD79a(T細胞)が広く利用可能であるが、組織の採材のため生検が必要となる。
・クローン性解析では可変領域をPCR法で増幅し、電気泳動することで増殖細胞が腫瘍であるかどうかのみならず、T細胞型またはB細胞型を評価することができる。クローン解析の検出感度は細胞診、病理組織学的検査など他の検査法より検出感度が高く、少量の材料でも検査可能であることが多い。しかし、陰性であってもリンパ系腫瘍を否定することはできない。また、強い免疫刺激が原因となる場合では陽性でもリンパ系腫瘍でない場合もある。そのため、他の検査所見と合わせて評価すべきである。リンパ腫(Low gradeリンパ腫を含む)、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、多発性骨髄腫、形質細胞腫で有用である。
・近年獣医領域で注目されているリンパ腫の分類として新Kiel分類がある。核形態、核小体、細胞質の量と染色性によって細胞形態を分類することによって、免疫表現型を推定できる。
文責:獣医師 藤﨑 由香