<今日のワンコ>
3歳チワワの雄。右前肢および後肢の跛行を主訴に来院。神経学的検査から頚部脊髄疾患または頭蓋内疾患を疑い、ステロイドによる治療およびケージレストで経過観察を実施。治療に反応して症状は改善するものの、休薬すると症状が再びみられるため、MRIによる画像診断が必要と判断して鹿児島大学付属動物医療センターを紹介。鹿児島大学にて壊死性髄膜脳炎と診断される。現在、ステロイドと免疫抑制剤で治療し、経過観察中(約6ヶ月)。経過は良好である。
壊死性髄膜脳炎(NME)
●好発犬種
・パグ、ペキニーズ、シーズー、マルチーズ、チワワ、ポメラニアン、パピヨンなど。
・以前はパグに非常に多くみられたため「パグ脳炎」とも呼ばれる。
●病態
・原因は不明である。
・大脳皮質(灰白質)に急性のリンパ球性炎症が起こり、数日かけて軟化および壊死が進行する。この時てんかん発作、運動失調、視覚障害などの症状がみられる。進行すると広範囲の大脳皮質が冒され意識障害、さらに進行すると小脳、脳幹が冒され、旋回運動、斜傾、昏睡、摂食障害、遊泳運動などの症状がみられる。
●診断
・MRIの実施。
・脳脊髄液検査におけるグリア線維性産生蛋白(GFAP)に対する自己抗体(抗アストロサイト抗体)を検査する。
・剖検にて病理組織学的検査を実施する。
●治療
○急性期
・免疫抑制量のプレドニゾロン投与。
・発作がある場合は発作の管理を行う。
・意識障害がある場合は脳圧の降圧治療を行う。
○慢性期
・抗炎症量までプレドニゾロン漸減する。
・その他の免疫抑制剤を投与する。
・予後不良なことが多い。しかし、急性期を越えた症例では数か月~4年以上生存できる。
●まとめ
・CT、MRIは全身麻酔が必要になるため麻酔のリスクも考えなければならないが、今回の症例のように診断に不可欠な場合もある。
・獣医療においても大学病院で二次診療を受けられるように紹介するシステムが整っているので、詳しい検査を希望される場合は近くの動物病院へ相談する。
文責:藤﨑 由香