<今日のワンコ・ニャンコ>
症例1:13歳のチワワ、雌。乳腺の腫れと元気食欲の低下を主訴に来院。来院時気にして舐める様子があり、一部自潰。傷口の消毒と抗生剤内服による治療で一旦改善するが、再度腫脹。僧帽弁閉鎖不全症があるため、抗生剤と消炎剤の投与で治癒。
症例2:1歳の雑種猫、雌。約2週間前に出産。母乳で子猫を育てていたが、腹部の皮膚が裂けたとの主訴で来院。来院時乳腺の一部が壊死、裂開。傷口の洗浄と抗生剤内服で治癒。
<乳腺炎>
○症状
・乳腺の熱感、腫脹、硬結、疼痛。
・発熱、活動性の低下、食欲不振。
・乳腺からの化膿性もしくは変色した乳汁分泌。
・新生児への授乳拒否。
○病態
・分娩後の乳腺炎が一般的。哺乳時の外傷から乳腺への細菌感染が起こる。乳腺を哺乳などの物理的刺激により、乳頭管が開口し、乳腺も拡張するので感染のリスクが高まる。
・偽妊娠中(下記の※)の雌に起こる場合もある。
・ 体の他の部位からの感染。
○治療
・抗生剤の投与(授乳中の場合は新生子への影響を考慮する必要)。
・乳房を清潔に保つ。
・壊死組織がある場合は外科的処置を行う。
・必要に応じて新生子を隔離する場合もある。
○予防
・年齢の進んだ歯のある子犬、子猫の哺乳は乳頭の外傷の原因になるため、親が子供から逃れられる場所を作る。離乳食を食べ始めたら授乳時間を減らし、親の栄養摂取量も大幅に減少させる。
※偽妊娠:主に犬で見られ、猫では稀である。妊娠していない場合でも犬では排卵後も約2ヶ月間黄体機能が維持されるため、軽度な乳腺の腫大がみられることがある(生理的偽妊娠)。しかし、妊娠していないのに著しい乳腺の腫大、乳汁分泌、巣作り行動などを示す場合を臨床的偽妊娠といい、臨床で偽妊娠という場合、通常後者を指す。時間の経過とともに乳腺は次第に退行するため、特別な治療を必要としないことが多いが、舐めるなどの刺激によってプロラクチン分泌が持続するような場合には乳汁分泌が持続し、乳腺炎のリスク要因となる。偽妊娠中は乳腺を刺激しないように注意する。発情ごとに偽妊娠を繰り返す場合には避妊手術を行う。
文責:獣医師 藤﨑 由香