<今日のワンコ・ニャンコ>
<症例1>
14歳のパピヨン、雌。交通事故に遭い立ち上がれない、事故以降、1日以上排尿がないという主訴で来院。レントゲン検査にて骨盤骨折があり、尿道損傷の有無を確認するため尿道造影を実施。全身麻酔下で栄養カテーテルを膀胱内に挿入し、造影剤を注入した後カテーテルを抜去し、下記の順行性尿道造影法(用手にて圧迫排尿)を実施。本症例では、尿道損傷は認められず、3日間膀胱内にカテーテルを留置し、その後自力排尿を確認した。
<症例2>
6歳の雑種猫、去勢雄。尿がポタポタとしか出ないという主訴で来院。以前から尿路結石があり、他院にて複数回尿道閉塞を繰り返しているため、尿道を会陰部に新たに開口する手術を計画。尿道の評価の為に尿道造影を実施。本症例では尿道の先端が閉鎖し、その直ぐ傍に瘻管が形成されてそこより排尿が行われていた。麻酔下にて瘻管より3.5Fの栄養カテーテルを挿入し、下記の逆行性尿道造影(狭窄部までカテーテルを進め、ペニスの先端を用手にて塞いで造影剤を注入)を実施。膜性部尿道に損傷が見られないことを確認。計画通り、会陰部尿道造設術を実施した。
●尿道の解剖
尿道は、雄では膀胱頸部から陰茎先端に、雌では膣前庭までの管腔構造で、正常ではレントゲン検査で観察できない。そのため、尿道を観察する必要がある場合には尿道造影を実施する。尿道造影には2つの方法がある。
①逆行性尿道造影:鎮静下で遠位尿道内にバルーンカテーテルを挿入するか、雄では普通の栄養カテーテルを尿道に2~3センチ挿入し、造影剤が漏れないようにペニスの先端を指で押さえたまま水溶性の有機ヨード系造影剤を注入。注入時にレントゲン撮影する。※尿道が短い雌や猫では実施が難しい。
②順行性(排尿性)尿道造影:カテーテルで膀胱に造影剤を注入し、外部(通常は用手にようる圧迫排尿)からの圧力により排尿させる際にレントゲン撮影する。麻酔下や鎮静下が望ましい。
●尿道造影検査で分かること
・尿道断裂:腹腔内または骨盤腔、会陰領域に造影剤が漏出する。
・尿道閉塞または狭窄:閉塞では造影剤がそれ以上入らないか出ない。狭窄ではその部位の尿道での造影剤の充満が欠けて細い。
・尿道結石:X線不透過性の結石の場合は単純X線で分かるが、X線透過性の結石の場合は造影剤欠損像として描出される。
・尿道の腫瘍:尿道粘膜の不整、尿道の狭窄所見が見られる。
・尿道炎または尿道損傷:尿道粘膜の不整が見られる。
●最後に
1日以上排尿が見られない場合には、尿毒症などで生命への危険性が高まる。今回の症例のように交通事故に因る骨盤骨折や雄猫での度々のカテーテル手技に原因する尿道狭窄については、手術の是非や術式を選択する場合、尿道の状態を正確に把握することが極めて重要である。尿道造影はそれほどテクニックを必要としないため、躊躇のない実行が望まれる。
文責:獣医師 藤﨑 由香