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今週の症例(2013年2月6日)No.3:コーギーの関節リウマチ

[症例]:4歳のW.コーギー、去勢雄。前肢跛行を主訴に来院。
[主訴]:小さい時から「べた足」で歩き方がおかしかった。
[診断]:触診で手根関節に痛み有り。レントゲン検査にて手根関節の骨糜爛(びらん)と変形が認められた。犬リウマチ因子は陰性であった(陽性率20~70%と非特異的である)。これらの所見から関節リウマチと診断。
[治療と経過]:痛みを訴える時のNSAIDs服用を指示して経過観察中。3週間でレントゲン所見の進行(悪化)を認める。
[ワンポイント講義]
:関節リウマチとは…
①関節リウマチは免疫介在性多発性関節炎の一つ。骨糜爛(軟骨下骨の虫食い様不連続像)が特徴的な関節炎は、関節リウマチ(主に犬)または骨膜増殖性多発性関節炎(主に猫)だけである。
②自己免疫疾患でⅢ型とⅣ型のアレルギーが関与する。炎症細胞および滑膜細胞から蛋白分解酵素やサイトカインが放出され関節軟骨の変性、滑膜の増生およびフィブリン沈着を起こす。
③中年齢の小型犬で多く発生する。
④症状は緩徐に進行する多発性四肢跛行(起き上がるときに跛行が増悪)。「べた足」とよばれるリウマチの典型的な姿勢。発熱、食欲不振、嗜眠など
⑤早期発見はきわめて困難な為、発症時には関節病変が存在する。治療の目的は炎症を抑制して疼痛を緩和することと関節破壊の進行を予防することである。獣医療ではステロイド剤の使用が一般的であり、抗リウマチ薬が有効であるとの報告は今のところない。

[その他の必要基礎知識]
○免疫介在性関節炎には糜蘭性と非糜蘭性があり、前者はリウマチ性関節炎と骨膜増殖性多発性関節炎があり、後者にはSLE、多発性関節炎・髄膜炎症候群、シェーグレン症候群、家族性チャイニーズシャ―ペイ熱、若齢秋田犬の多発性関節炎、結節性多発動脈炎・多発性関節炎、薬物誘発性関節炎、ワクチン反応性、特発性多発性関節炎に分類される。が、正確に臨床診断するには困難を要する場合が多々ある。
○リウマチ性関節炎
・犬(猫)共にあるが種特異性なし。小型犬に多い。
・成熟動物が発症するが年齢はさまざまだが5~6歳が多い。
・角張った変形は主に手根関節に起こる。関節の靭帯損傷(破壊)の結果として。
・レントゲン所見の特長:軟骨下の骨融解像(subchondral bone destruction)、関節面の不整、パンチアウト(糜爛)、さらに進行すると過度の骨破壊所見を認め、甚だしい関節変形を呈する。
・その他の所見:骨端の骨質の全般的(広範な)喪失(脱灰化)、関節周囲の腫脹、関節内浸出液の増加、関節周囲軟部組織の石灰化、早期の症例では骨破壊病変を認めない場合があり病気が6ヶ月以上持続すれば骨病変が出現する。
・犬の糜爛性関節症では最も一般的だが非糜爛性関節症に比べたら稀である。多発性関節炎の1%程度である。
・非糜爛型よりも潜行性であり、発熱や倦怠、関節腫脹、跛行が見られる。
・非糜爛性多発性関節症の50%以上で腎臓障害によるタンパク尿で低蛋白血症が見られる。
・リウマチ性関節炎の犬ではリウマチ因子が周期的に陽性を呈したり陰転する。リウマチ性関節炎でない症例でもリウマチ因子が陽性の場合あり。
・変性した自己IgGに対するIgM自己抗体がリウマチ因子である。関節リウマチの症例ではリウマチ因子の他に関節コラーゲンに対する自己抗体、熱ショック蛋白に対する抗体が検出される。
・関節リウマチは自己免疫疾患であり、環境因子と遺伝因子が関与すると考えられている。関節リウマチには免疫複合体が関与するⅢ型アレルギーとT細胞が関与するⅣ型アレルギーが存在する。
・診断には関節のレントゲン検査、関節穿刺および滑液の検査、リウマチ因子測定、滑膜の生検を行う。関節のレントゲン検査では前述のレントゲン所見が認められる。滑液検査は関節液の炎症像の検出に有用である。また、関節液の細菌培養検査を実施し無菌性であることを確認する。リウマチ因子は診断の補助になるが確定診断はできない。滑膜生検を行い、パンヌスの存在を証明できると確定診断となるが、実際の症例で実施することは困難な場合が多い。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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