コンテンツへスキップ

今週の症例(2013年2月13日)No.4:ゴールデン・レトリバーの髄外性形質細胞腫

[症例]:11歳のゴールデンレトリーバー、避妊雌。
[主訴]:右大腿部の腫脹と跛行(ほとんど挙上)を主訴に来院。特に事故など外傷を受けるような機会はなかった。
[診断]:レントゲン検査(近近掲載)を実施したところ、右大腿骨近位端の斜骨折と大腿骨皮質の菲薄化、大腿骨骨頚部辺縁不明瞭像が認められた。
・大型犬の大腿骨が骨折するには、通常相当な外力が加わらない限り骨折しないのもかかわらず本症例は骨折している。また、レントゲン検査で皮質骨の顕著な菲薄化が認められていることから「病的骨折」が強く疑われた。
・病的骨折の原因としては、多発性骨髄腫(形質細胞性骨髄腫)、骨腫瘍(骨肉腫、線維肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫など)、その他の腫瘍の骨転移、骨粗鬆症などが考えられる。
本症例は全身麻酔下での大腿骨骨折部位の骨ならびにその周囲の軟部組織の直接生検による病理組織学的検査において、形質細胞腫もしくは多発性骨髄腫と診断された。追加検査として、血清蛋白電気泳動にて単クローン性高ガンマグロブリン血症、尿中ベンスジョーンズ蛋白の有無を検査したが、いずれも検出されなかった

[ワンポイント講義・その1]:(髄外性)形質細胞腫とは・・・・・・
①髄外性形質細胞腫は骨髄以外の部位に発生する形質細胞の腫瘍に用いられる。
②皮膚に発生する場合を皮膚形質細胞腫、骨に単一病変として発生する場合を孤立性骨形質細胞腫、それ以外の場合を髄外性形質細胞腫という場合もある。皮膚、骨以外の髄外性形質細胞腫で典型的なものは胃腸管に発生する。一般に皮膚に発生する形質細胞腫の生物的挙動は良好であるが、消化管に発生する形質細胞腫は悪性の挙動を示すことがある。
孤立性骨形質細胞腫は最終的に多発性骨髄腫にまで発展するが、無病期間は比較的長い。
診断は組織学的検査が必要になる。局所性腫瘍の場合は血清グロブリン濃度は正常であることが多い。多発性骨髄腫同様に高齢動物でみられ、エアデールテリア、コッカースパニエル、スタンダードプードルが好発犬種。治療は外科的切除が第一選択であるが、切除不可能な場合には化学療法、放射線療法を実施する

④治療は下記の多発性骨髄腫に準ずる。

[ワンポイント講義・その2]:多発性骨髄腫とは・・・・・・
骨髄において形質細胞が腫瘍性に増殖する疾患を多発性骨髄腫といい、犬における多発性骨髄腫の診断は以下の項目のうち2つ以上が検出されることが条件である。1.単クローン性高ガンマグロブリン血症 2.骨融解像 3.ベンス・ジョーンズ蛋白尿 4.骨髄における腫瘍性形質細胞の出現または形質細胞増多症。 厳密な定義では多発性骨髄腫は単クローンのIgGあるいはIgA、L鎖が産生されている場合であり、IgMが産生される場合はワルデンストレームマクログロブリン血症と定義される。診断は1~4を検出すればよいが、他に血液中のM蛋白は血清の粘稠性を増加させ過粘稠度症候群を惹起する。IgMは分子量が大きいためワルデンストレームマクログロブリン血症の場合によく認められる
②症状は嗜眠、跛行、麻痺、痛み、出血傾向、多飲多尿など。
③ジャーマンシェパードが好発犬種。中齢から高齢動物に多い。
④治療は局所の形質細胞腫の場合は外科的な切除が治療の第一選択肢になるが、完全な切除が難しい場合や多発性骨髄腫の場合には抗癌剤による化学療法で生存期間の延長が期待できる。緩和療法としてステロイド療法のみを実施した場合の生存中央値が220日であるのに対して、メルファランとステロイドの併用を行った場合では多くの症例で完全あるいは部分寛解が得られ、生存中央値は540日である。

[本症例の最終診断と治療ならびに経過]
上記の諸検査結果より、現時点では孤立性の形質細胞腫と診断したが、原発が大腿骨骨髄であるのか、あるいは大腿骨を含むその周囲の組織由来であるかについては不明である。
他の部位の骨髄への(転移)病変が証明されるなら、その時点で多発性骨髄腫と診断すべき症例であろう。
食欲・元気など一般臨床症状が良好であるため、また肺野などへの転移所見も確認できないことから、投薬などは一切行っていない。しかし、定期的なレントゲン撮影や血液検査を実施しており、いずれは化学療法の実施が予期される。

文責:獣医師 藤﨑 由香

先頭へ

電話受付