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今週の症例(2014年1月11日)No.31:冬の「猫の下部尿路疾患(尿閉)」に要注意!

[症例]:4歳の雑種猫、去勢雄。虚脱と昏睡を主訴に昼休みの緊急来院。4日前から元気食欲が低下していた。来院時意識レベルが低下しており、膀胱は尿の貯留でパンパンに拡張していた。
[診断と治療]:血液検査ではクレアチニンが16.3mg/dl(正常値0.8~1.8mg/dl)、カリウムが10.1meq/l(正常値3.4~4.6mEq/l)といずれも致死的な高値を呈しており、高カリウム血症による徐脈や心室性期外収縮などの不整脈も見られた。尿道閉塞とそれに伴う(腎後性)急性腎不全と診断し、スタッフ総出の甚急処置を開始した。尿道閉塞を解除後、膀胱内にカテーテルを留置。同時に静脈ル―トの確保し、高カリウム血症の緊急是正のためGI(グルコース・インスリン)治療を実施した。また、利尿剤(フロセミド)、メイロン(重炭酸水素ナトリウム・代謝性アシドーシスの補正是正)、カルシウム剤の投与や酸素マスク、保温など必要な処置を同時並行で実施した。その甲斐あって、夕方までにはすべての検査値が致命的な異常域から脱し、意識も鮮明となり、不整脈も消失した。この日は膀胱カテーテルを留置したまま点滴ポンプを自宅に持ち帰り、飼い主が看病した。翌日の午前にはクレアチニンが2.0mg/dl、カリウムが3.7meq/lと正常値まで改善した。その後は4日間の皮下点滴を行い、膀胱カテーテルも4日目に抜去した。現在は内服により膀胱炎の治療を実施中だが経過は良好である。

[ワンポイント講義]
膀胱・尿道炎症状を示す疾患を総称して「猫の下部尿路疾患」と呼ぶ。症状はトイレ以外の場所での排尿、排尿困難、頻尿、血尿、排尿痛、尿道閉塞などがみられる。
「猫の下部尿路疾患」の30~40%は、解剖学的形態異常、感染症、腫瘍、結石、神経機能異常などが起因であり、その原因は尿検査などの諸検査で特定される。残りの60~70%は通常の臨床検査で原因が特定されない疾患とされ、「特発性出血性膀胱炎」といわれる。ヒトの間質性膀胱炎と類似していて、粘膜下織に肥満細胞浸潤がみられることが多いと報告されている。「特発性出血性膀胱炎」は犬にも見れれ、その病理は猫や人に類似するとされるが希である。
症例はペニスの先端から3センチの尿道が硬くやや膨れており、この部位における塞栓子の存在が示唆された。先ず、同部位をマッサージしてカテーテルを挿入し、生食水でフラッシュをすると白色のフィブリン様栓子が排泄された。その後カテーテルを異膀胱内に挿入し、膀胱洗浄を十分に実施してカテーテルを留置した。
血中カリウム値が6.5meq/lを超えると致死的とされるため、早急な是正が必要である。カリウムを含まない輸液剤や利尿剤の投与、メイロン投与によるアシドーシスの是正、カルシウムの投与などの選択肢がある。本症例ではそれらに加え、確実で即効性のあるインスリンの微量持続点滴を実施した。
腎不全のなかでも腎後性腎不全(高窒素血症)は原因を取り除くことで、比較的速やかな回復が期待できる。今回のように昏睡に陥っている症例でも早急に適切な治療を施すことで救命が可能である。
気温が低く冷え込む冬場は飲水量が減ったり、トイレを我慢する傾向にあるため、猫の下部尿路疾患が増加する。大寒を控え、寒波が襲来する時節、人間のインフルエンザ対策も重要ですが猫の泌尿器疾患にも気を注いであげましょう。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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