(藤﨑):今日は犬猫の高血圧についてお話します。
(戸高アナ):高血圧というと生活習慣病といった感じがしますよね。人では多いですよね。
(藤﨑):そうですね、人の高血圧は収縮期血圧(上)140、拡張期血圧(下)90mmhg以上の場合ですが、平成24年度厚生労働省のデータによると20歳以上で収縮期血圧が140を超えている人は男性で35.7%、女性で25.5%にものぼることが分かっています。また、高齢者の医療費トップも高血圧で32.6%を占めるとのデータもあります。生活習慣で高血圧を予防することが重要とされています。
(戸高アナ):犬猫でも高血圧はありますか?
(藤﨑):犬猫でも高血圧はあります。人は特発性高血圧、本態性高血圧という原因疾患がない、または不明(特定できない)高血圧が約90%と言われます。これらは遺伝の可能性が示唆されています。一方犬猫は多くが他の基礎疾患や全身状態の異常によって起こる続発性高血圧、二次性高血圧がほとんどといわれています。
(戸高アナ):犬猫の場合は他の(基礎)患があって高血圧になることが多いということですが、どういった疾患で高血圧になりますか?
(藤﨑):多いのは腎疾患です。腎臓の機能を評価をする際にクレアチニンという値を一般的に使いますが、そのクレアチニン値とは関連がなくステージ1の初期の段階でも起こりうるとの報告があります。他にも副腎皮質機能亢進症、副腎腫瘍、糖尿病、甲状腺機能亢進症などでも起こります。
(戸高アナ):どういった症状がみられますか?
(藤﨑):高血圧は無症候性、症状がない場合が多いです。それだけで生命を脅かすリスクは低いですが、高血圧が持続すると合併症を引き起こします。高血圧の合併症として分かりやすいのは眼の症状です。突然の失明、出血、網膜剥離、緑内障などの症状が見られ気付くこともあります。また心臓への影響も出てると心雑音や不整脈、左心肥大などが見られたり、脳への症状が見られると運動失調や抑うつ、痙攣発作などの高血圧性脳症の症状がみられることもあります。また腎臓は高血圧の原因にもなりますが、高血圧によってダメージを受けやすい臓器でもあります。慢性腎不全の犬では高血圧の症例ほど急性憎悪(腎臓の機能が急激に低下すること)を引き起こしやすいとの報告があります。
(戸高アナ):診断はどうするのでしょうか?
(藤﨑):診断は血圧を測ればいいので人では簡単なのですが、犬猫ではそうはいかないところがあります。人では家庭用の血圧計が安くで販売されているくらい簡単なのですが、獣医療では日常的な検査ではありません。人でも白衣性高血圧といって病院にくると緊張して高血圧になる場合がありますが、特に犬猫ではストレス、興奮、脅(おび)えなどにより誘発される高血圧と本当の高血圧の鑑別が難しくなります。測定方法も一番正確に測定できるのは動脈にカテーテルを入れて測定する方法ですが痛みを伴う侵襲的な検査になるため、一般的ではありません。人での測定でよく用いられるのがオシロメトリック法とよばれる血管の振動を圧センサーで感知する方法ですが、犬猫でこの方法を用いて測定しても誤差が大きいとの報告があります。そこで犬猫で測定するときにはドプラ法といって血流音をドプラ増幅器で聴取しながら測定する方法が用いられます。当院でもこの方法を用いて血圧測定を行います。この方法では収縮期血圧のみの測定ですが、犬猫で問題になるのは収縮期血圧なのでこの方法で十分です。
(戸高アナ):人では収縮期血圧140、拡張期血圧90が正常でしたよね? では犬猫はどうですか?
(藤﨑):犬猫では収縮期血圧150以上が高血圧になります。しかし、一番重要なのは症状があるかどうか、また血圧が高くなるような基礎疾患があるかどうかということになります。ない場合には血圧を定期的に測定し、一応目安として血圧が160以上の場合に降圧剤投与を考慮します。
(戸高アナ):犬猫で血圧測定ってあまり見かけたり聞いたりしませんが、高血圧は犬猫にもあるのですね。
(藤﨑):そうですね。本態性高血圧が犬猫ではほとんどないのであまり一般的な検査ではありませんが、血圧を測定することはできますし、高血圧もあります。気になるところがある方はお近くの動物病院で相談してみてください。
文責:獣医師 藤﨑 由香