(藤崎):今日は犬の認知機能についてお話します。
(戸高アナ):犬って賢いですよね。うちのぶひちゃんもかなり言葉が理解できると思っていますが…親ばかでしょうか(笑)
(藤崎):いえ、人の3歳児程度の知能はあるといわれています。どの程度単語を学習できるのかどうか、ボーダーコリーを用いた実験があります。例えば『ボール』など、「名称」を指示しそれを選んで持ってこさせるというものです。すでに理解しているものでの成功率は93%で指示どおりのものを持ってくることができます。
(戸高アナ):成功率93%というとなかなかですよね。人の3歳児よりも賢いかもしれませんね。
(藤崎):次に名前を知らないもの(初めて見せたもの)をひとつだけ混ぜます。例えばその犬が『メガネ』を知らなかったとします。『メガネ』と指示された場合、成功率70%で正しいものを選ぶことができました。つまりこれは初めて聞く単語=初めて見るものと関連性を理解することができたと解釈できます。さらに4週間後に理解しているものを4つ、初めて見るものを4つの中に前回学習した『メガネ』を入れます。この9つの中からメガネを成功率50%で持ってきたそうです。このデータによると4週間前に学習した単語を半分は覚えているということになりますね。
(戸高):4週間覚えているというとすごいですよね。記憶力もあるんですね。
(藤崎):また犬は言葉だけでなく人間のジェスチャーも理解しているといわれます。2つの容器の片方にえさを隠し、人のジェスチャー(視線・指差し・叩く)を手がかりに探すという実験です。犬は嗅覚で探すことはできるであろうにもかかわらず、餌が入っていないほうを人が指さすと79%の犬はそちらを選んでしまうという結果が得られました。これは小さいころ人との接触があってもなくても同じ結果が得られることから、犬を家畜化していく過程で得られた生得的能力と考えられています。
(戸高):なるほど、嗅覚で分かるにもかかわらず、つい人が指差したほうを思わず選んでしまうのでしょうかね。
(藤崎):この実験では餌を隠す場面を見せておいて、その後こっそり餌を入れ替えると犬は88%もの犬が初めに餌のあった方を選ぶということも分かりました。嗅覚よりも視覚や記憶を優先させているということになります。また隠す場面を見せておいて、人が餌の入っていないほうを指さすと51%もの犬は人が指さした何も入っていないほうを選ぶということも分かりました。嗅覚、視覚、記憶よりも人のジェスチャーを信じる犬が半分もいるということになります。人と生活するにつれて犬たちは人とコミュニケーションをとる能力を獲得していったのではないでしょうか。この指さしを理解できるのは犬や猫、オランウータンやゴリラ、面白いことにイルカやアザラシにもこの能力があります。
(戸高アナ):犬たちは人の行動をよく見ているということですよね。
(藤崎):もうひとつ。盲導犬が賢いというのはみなさんもよくご存知かと思いますが、盲導犬はオーナーの命令に従い目的地まで誘導します。交差点にさしかかるとオーナーは周りの音で判断し、交差点を渡る指示を出します。信号機の色は盲導犬には判断できません。しかし、信号が赤で車がたくさん走っているのにもかかわらずオーナーが「進め」と命令しても決して従いません。不服従訓練という訓練を受けているそうですが、危険を伴うような場合にはオーナーの命令でも従わない。応用力と的確な判断が必要とされる盲導犬になるための最終的な訓練の1つですが、犬の認知機能が高い証拠ですよね。
文責:獣医師 藤崎由香