(藤﨑):今日は『犬猫の肛門嚢』についてお話します。
(戸高アナ):肛門嚢って家で絞らないといけないとは聞きますが、なかなかできないんですよね…
(藤﨑):嫌がるという子は確かに多いです。しかし、肛門嚢の場所や絞り方のコツさえ掴めれば家庭でできます。
(戸高アナ):まず、肛門嚢について教えてください。
(藤﨑):肛門嚢(肛門腺)とは肛門の脇、左右1つずつ4時と8時の方向に位置した球状の嚢で、中にはご存知のとおり、液状~糊状の臭いにおいのする分泌物が入っています。食肉目の動物で見られ、特にイタチ科の動物では発達しています。スカンクは危険を感じると肛門嚢から分泌物を噴射して敵を撃退しています。フェレットも肛門嚢があり、ペットショップで販売されているフェレットは肛門嚢摘出手術を受けてから販売されています。
(戸高アナ):スカンクの話は聞いたことがあります。では、犬猫では肛門嚢はどんな役割をしているのですか?
(藤﨑):肛門嚢は個体識別に重要な役割を果たします。また日によっても量、色、匂いが微妙に変化すると言われ、その日の体調まで分かるのかもしれません。
(戸高アナ):なるほど、散歩の時に他の子と出会うとお尻の匂いを嗅いでいるのは肛門嚢の匂いを嗅いでいるのですね。
(藤﨑):そうです、お互いお尻の匂いを嗅ぎあうことが犬同士の挨拶なのですね。この肛門嚢は排便時や興奮時に自然と排泄されることが多いです。しかし溜まりすぎてしまうとお尻を地面にこすりつけたり、お尻を舐めたり、気にするような仕草が認められます。
(戸高アナ):そういった仕草があった場合は絞ってあげるといいわけですね。
(藤﨑):肛門嚢が溜まっていると肛門の脇、4時と8時方向に小さな嚢が触れます。出口は肛門すぐ近くにそれぞれあるので親指と人差し指で挟み、肛門外側から肛門に向かってグッと押します。この時尻尾を上に持ち上げ、できれば腰を落とさないように1人がお腹を支えてもらうと絞りやすくなります。飛び散ると匂いがキツイ為、ティッシュなどで覆いながら行ってください。
(戸高アナ):溜まりすぎると何か問題がありますか?
(藤﨑):溜まりすぎると感染や炎症を起こしてしまうことがあります。お尻を異常に気にする仕草が認められ、肛門嚢内容物は膿や血混じりに変化します。それでも内容物が出せない状態が続くと膿が嚢を破り、皮下へと漏れます。こうなると激しい炎症を起こし、自壊といって皮膚が壊死して穴があいてしまいます。痛い思いをするし、洗浄も大変なのでこうなる前に定期的に絞ってあげる必要があります。
(戸高アナ):やはり予防が重要なのですね。
(藤﨑):お尻を気にする仕草が肛門嚢を絞っているのに改善されないという場合には他の病気の可能性があります。犬では肛門周囲腺腫や腺癌というお尻周りに多くできる腫瘍も比較的よく見られます。去勢していない雄で多く、雌でも認められることがあります。また、犬と猫で肛門嚢腺癌という悪性腫瘍も認められることがあります。成書では皮膚の腫瘤のうち犬で2%、猫で1%以下の発生ということで、珍しい腫瘍ではありません。お尻付近はなかなかじっくり見たり触れる機会がなく、毛で覆われていて分かり辛いため気付きにくいですが、地面にこすっていたりしきりに気にする様子があれば何か以上のサインかもしれません。
(戸高アナ):家ではなかなか難しいという方は一度動物病院でしっかり教えてもらうといいかもしれませんね。
文責:獣医医師 藤﨑 由香