(藤﨑):今日は「犬による癌の診断」ついてお話します。
(戸高アナ):犬による癌の診断ということは…?
(藤﨑):そうなんです。今日は犬の癌の話ではなくて、犬が人間の癌を見つけた!という話です。最初のちゃんとした報告は1989年医学界で権威ある医学雑誌のひとつである「ランセット」に飼い犬が飼い主の皮膚がんを発見したという報告が掲載されています。それ以後、犬が癌を発見することができるのかさまざまな研究者が研究を行っています。
(戸高アナ):麻薬検知犬や警察犬など犬の嗅覚を使って検査するというのはすでに実現していますよね。犬の嗅覚は人の嗅覚よりも優れているのでしたよね?
(藤﨑):そうです、犬の脳は匂いから情報を得ることを重視していて、犬の脳のうち匂いに関連する部分が人と比較すると比率が約40倍。嗅細胞とよばれる匂いを感じる細胞の数を比較すると人の約1000~10000倍優れていると推定されています。匂いの種類にもよりますが、汗の成分である酪酸は一立方メートルの空気中に500万分の1グラムでも嗅ぎ分けることができるそうです。
(戸高アナ):人ではまったく分からない匂いでも犬たちは分かる可能性があるわけですね。でははたして偶然ではなくてほんとに癌を発見することができるのでしょうか?
(藤﨑):1996年フロリダの研究者は検査のために切除した組織を用いた実験を行っています。メラノーマ、悪性黒色腫とよばれる癌の中でも悪いタイプの腫瘍があります。正常な組織の中からこのメラノーマの組織を選ぶという訓練を行い、実際に試験してみると99%とかなりの確率でメラノーマを当てることができました。
(戸高アナ):99%の確率で癌が分かるとなるとすごいですよね。
(藤﨑):そうですね。細胞診とよばれる細い針を刺して細胞を検査する方法がありますが、その細胞診での早期診断の正答率は約80%されています。犬がにおいで分かるとすれば画期的ですよね。しかし99%分かるのは検査のために切除した組織での結果で、実際の患者さんでは7人中4人のメラノーマを発見し、正答率は約57%でした。
(戸高アナ):やはり実際の患者さんだと難しいようですね…
(藤﨑):しかし、実験はほかにも行われています。イギリスでの研究では尿から膀胱ガンを見分けるという研究が行われています。この研究でも正答率は約41%で、訓練すれば膀胱ガンを発見できる可能性があると結論づけられています。またこの研究中には癌ではないと診断された尿を犬が選び続けたそうです。トレーナーが何度教えてもかたくなに選び続けたため、その犬を信頼している研究者はその患者を再度精密検査したところ、その患者さんは腎臓ガンが見つかったそうです。
(戸高アナ):もしかしたら、早期発見が可能かもしれないということですよね。皮膚の匂いで皮膚癌、尿で膀胱癌、他にも分かる可能性がありますか?
(藤﨑):他にはアメリカでの研究で患者の呼気の匂いで肺癌と乳癌を発見できるように教えると平均して90%以上の確率で検知することができたり、九州大学での研究では
結腸直腸癌患者の呼気と糞便で試験していてそれぞれ約91%、約97%の正答率だったと報告されています。
(戸高アナ):どうやって癌だということを知らせるのでしょうか?
(藤﨑):最初の飼い犬が皮膚がんを発見したケースでは飼い主の足にできたほくろをしきりに匂いを嗅ぎ、そのほくろを噛みちぎろうとしたと記載されています。その後の研究では癌を見つけると座るまたは伏せると訓練されています。
犬が癌を見分けることができることは確かなようですが、実際の臨床現場での活用という段階にはまだ至っていないのが現状です。また、犬が見分けることができてもそれをどう伝えるかという点もなかなか難しいですよね。
(戸高アナ):なるほど、医療の現場ではより正確な正しい診断が必要ですからね…
(藤崎):これから研究が続けられて、もしかしたら将来「ガン探知犬」が活躍する時代が来るかもしれないですよね。
文責:獣医師 藤﨑 由香