(藤﨑):今日は猫の肥大型心筋症についてお話します。
(戸高アナ:)肥大型心筋症というとどういった心臓の病気でしょうか?
(藤﨑):猫で最も一般的に認められる心疾患で、求心性肥大を起こし、左室の拡張機能低下と左室内腔の狭小化を引き起こします。つまり、心筋が厚くなり、心臓が拡張できないため(心室腔が狭くなり血液を貯める容積が減少する)血液を押し出すポンプとしての役割を果たせなくなる疾患です。
(戸高アナ):症状はどういった症状が見られますか?
(藤﨑):ある程度進行するまでは無症状のことが多いです。犬では心臓が悪いと咳で気づくことも多いのですが、猫の肥大型心筋症で咳がでることは少なく、開口呼吸や努力性呼吸が一般的に認められます。犬は暑い時によくパンティングしますが、無論これは正常です。しかし猫が開口呼吸をしていたら重症と考えていいかもしれません。また肥大型心筋症になると血栓ができやすく(心臓内での血液の滞留に原因)、約半分の症例で血栓が認められるといわれます、血栓ができると心臓の弁にからんだりと悪影響を及ぼすだけではなく、猫では大腿動脈(外腸骨動脈)という血管の分岐部に詰まってしまうことがあります。その場合には急なふらつき、後躯麻痺、肢端の冷感、パッドの蒼白などの症状が見られます。血栓の多くは尾側の動脈に閉塞しますが前足に起ることもあり、運が悪いと脳に飛んでそのまま絶命ということもあります。
(戸高アナ):そういえば、猫がパンティングしている姿は見ないですよね。猫の種類によって多い種類はありますか?
(藤﨑):純血種で多く見られ、アメリカンショートヘア、ペルシャ、ラグドール、メインクーンなどが多いと言われます。ミオシン結合蛋白Cの変異が原因とされ遺伝的因子が言われていますが、どうやらそれだけではなさそうなのが現状で、雑種猫でも多く見られています。
(戸高アナ):人気の種類が好発種に入っていますよね。多い病気ですか?
(藤﨑):ある研究報告によると健康に見える猫の15.5%が肥大型心筋症という結果が出ているくらいよく見られます。確定診断は生検を行い診断することになりますが、生検を実施することは現実的ではないためエコー検査で評価されているため実際の数とは異なる可能性もあります。
(戸高アナ):健康診断は生検ということですが、普段はどうやって診断していますか?
(藤﨑):まずは呼吸器症状などの症状、レントゲン検査ではバレンタインハートと呼ばれる特徴的な左心房・右心房が拡張している心臓が見られます。エコー検査では心筋の厚さや心臓の拡張収縮力を検査します。心筋の厚さ(拡張期)は通常6mm以上が肥大と評価されます。頻脈もひとつの指標とされ1分間に240回以上の場合に投薬治療が検討されます。
(戸高アナ):治療はどういう治療になりますか?
(藤﨑):特に症状が認められていないような場合には心拍数抑制を目的とする薬を投与します。症状が認められている場合には利尿薬や血圧を下げるような薬を投与します。また重度の左室拡張があり血栓症のリスクが高い場合には抗血栓薬を追加します。すでに血栓塞栓症が起きている場合には血液の流れを回復させることを目的に血栓塞栓療法を実施したり外科的な摘出やカテーテルでの血栓除去も試みられていますが、技術的な面でも難しく、全身状態が悪い状態で麻酔をかけることのリスクもあります。
(戸高アナ):血栓ができると厄介だし、命にかかわってしまうのですね。肥大型心筋症、無症状も多いということなので怖いですね。
(藤﨑):肥大型心筋症をはじめ、無症状でも心筋症は認められるため当院では手術など麻酔時や点滴を行う場合など心臓の評価を行ってから実施するようにしています。健康診断で偶然に見つかるという症例もいますし、なんとなく心拍数や呼吸数が多いということに家庭で気付いて連れてこられる飼い主様もいらっしゃいます。健康診断や普段の家庭での行動の観察が早期発見につながりますよね。
文責:獣医師 藤﨑 由香