(藤﨑):今日は「炎症性腸疾患」についてお話します。炎症性腸炎ははっきりとした原因は不明ですが、人の炎症性腸疾患と同様に遺伝的な腸粘膜の免疫異常が関与すると考えられている疾患で、食事などの環境因子や腸内細菌因子、腸管免疫が複雑に関与していると予想されています。内視鏡検査の発達に伴い診断が可能になった疾患であり、それまでは見逃していたのかもしれませんが近年増加傾向です。
(戸高アナ):犬にも猫にもありますか?
(藤﨑):犬と猫両方で認められる疾患ですが、好発犬種類はヨークシャーテリア、M.ダックス、T.プードル、F.ブルドックなどがあります。
(戸高アナ):他の腸炎とはどういったところが違いますか?
(藤﨑):世界小動物獣医師会による炎症性腸疾患の診断基準は①消化器症状が3週間以上継続②病理学的検査により消化管粘膜の炎症性変化がみられること③消化管に炎症を起こす他の原因がないこと④対症療法、食事療法、抗菌薬などに反応しないこと⑤抗炎症薬、免疫抑制によって症状が良化することとされています。慢性の消化器症状を認める疾患は非常にたくさんあります。炎症性腸炎と診断するためには多くの検査を行い他の原因がないこと、一般的な治療に反応しないことをみる必要があります。慢性的に消化器症状を示す他の疾患としては膵炎、膵外分泌不全、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症、腫瘍、寄生虫など多くの疾患の可能性があります。
(戸高アナ):症状はどういった症状ですか?
(藤﨑):分かりやすい症状は下痢や嘔吐ですが、明らかな下痢や嘔吐は認められずに体重減少や腹水貯留が見られることもあります。
(戸高アナ):もしこの炎症性腸疾患と診断された場合には治療する方法はあるのですか?
(藤﨑):治療は免疫抑制剤や抗炎症薬を用いて炎症を抑えること、食事を処方食に変更したり抗菌薬を使って腸管内の環境を改善することが治療の主体となります。とくに副腎皮質ステロイド薬は有効ですが、炎症性腸疾患は長期的な治療が必要になることが多く、副作用に注意しながら他の免疫抑制剤と組み合わせて使用します。治療がうまくいくと少しずつ薬を減らしていき、完全に休薬することができることがありますが、完全に辞めることができず最小限の量で生涯飲む必要がある場合もあります。また薬を中止すると再発してしまう症例も多いです。中にはコントロールすることができずに死亡してしまう場合もあります。中でも低蛋白血症がある場合には特に治療反応が悪い傾向があります。
(戸高アナ):免疫抑制剤というのはあまり聞く機会がないですが、どういった薬ですか?
(藤﨑):免疫を司っているリンパ球に作用する薬で複数の免疫抑制剤が開発されています。副腎皮質ステロイド剤は免疫疾患にとても有効な薬ではありますが、長期間使用すると特に犬で副作用が認められ、肝障害や脱毛、皮膚の菲薄化、易感染性などの副作用が効率に見られ始めます。しかし、免疫抑制剤は薬剤にもよりますが比較的長期間投与してもそういった重篤な副作用がみられにくいというメリットがあります。ステロイドを使用せずに免疫抑制剤のみで維持できたり、ステロイド薬をやめることはできなくても量を減らして副作用を起こしにくくするような役割があります。
(戸高アナ):炎症性腸疾患は長期間、場合によっては一生うまく付き合っていかなければならない病気ということなので副作用の少ない薬で治療する必要があるわけですね。
(藤﨑):始めにお話したように炎症性腸疾患ははっきりとした原因が特定されていませんが、1つの原因というよりは複数の原因が複雑に関係して起きていると考えられている疾患です。そのため腸内環境を改善する目的で抗菌薬を使用したり、人の関節リウマチのために作られたお薬が動物の炎症性腸疾患にも抗炎症作用を示して有効というデータがあります。また薬も大切ですが、食事療法も重要になります。アレルギー反応が関与していると考えられているためアレルゲンをカットしてある処方食や蛋白源を加水分解という処理してあるフードを使用したり、場合によっては低脂肪食、高繊維食を使用するような場合もあります。これらの治療で改善が認められる症例は多くいますが、中にはどの治療に反応しない難治性の症例もいます。犬猫の免疫介在性腸疾患の病態についてはまだまだ不明な点が多く、解明が急がれています。
(戸高アナ):炎症性腸疾患という病気は人にも犬猫にもある病気ということで、今後病態を解明してもらい、治療へと繋げて欲しいですね…
文責:獣医師 藤﨑 由香