前回の結論は、
①発症していれば投薬開始に躊躇してはなりません。
②多剤投薬は心不全のステージによって増やさなくてはなりません。
③発症はしていないが明らかな病態の進行が確認された場合、飼い主との意向も合わせ、投薬開始を勧めるべきです。
④はじめて心雑音が聴取され、心エコー検査などで逆流の程度が投薬相応であると判断されれば、適切なインフォームドコンセントの下、経過観察をすることなく投薬を開始することを勧めるべきです。
この見解は「いまさら犬の僧帽弁閉鎖不全???」という方の為の意見です。どうして今更かというと、
①小型犬の増加とその高齢化で僧帽弁閉鎖不全症が増えている。
②全米獣医内科学会(ACVIM)のガイドラインはあるが、実際はそれぞれの動物病院の裁量(基準)で薬が処方されている。そのため必要のないケースでの服用が増えている。経済的負担も重いことから、セカンドオピニオンの求めが増えている。
③早期発見と適正なステージでの投薬開始により発症を遅延させることが可能である。発症しても薬物療法で数年単位で寿命を延長できる。
④飼い主が僧帽弁閉鎖不全という疾患を全く知ることなく、急性の肺水腫で来院し、死の転帰をとることが珍しくない。
等々の理由によります。
A.ACIVM分類による診断指針
<ステージA>僧帽弁膜の形態学的変化なし。心雑音聴取されず。臨床症状なし。
<ステージB-1>僧帽弁膜の形態学的変化あり。軽度の心雑音聴取あり。臨床症状なし。
<ステージB-2>ステージB-1よりも弁の形態変化が顕著。心雑音も大きくなる。はっきりした臨床症状はなし。
<ステージC(軽度~中等度の心不全)>弁の形態異常が重度化し、レントゲン所見でも肺うっ血を認める。発咳・運動不耐性・呼吸速迫・呼吸困難・チアノーゼなどの症状を認める。
<ステージD(重度の心不全)>投薬しても肺うっ血が改善せず、難治性である。卒倒・食欲廃絶・腹水や胸水の貯留・肺水腫など。集学的(さまざまな)治療にも反応乏しいか全く効果ない(難治性)。
B.ACVIM分類による治療薬指針
<ステージA・ステージB-1>投薬なし。食餌療法なし。
<ステージB-2>場合によりACE阻害剤の投薬開始。緩やかなナトリウム制限食(シニアフード・塩分の高いおやつの制限など)。
<ステージC>ACE阻害剤・強心剤・利尿剤の投与。中等度のナトリウム制限食。適度のたんぱく質・カロリー摂取。
<ステージD>ACE阻害剤・強心剤・利尿剤・血管拡張剤。ステージCよりもさらにナトリウム制限。
つづく。