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犬の僧帽弁閉鎖不全の治療開始はいつから? -その3-

 下にもう一度ACVIM(全米獣医内科学会)の「犬の慢性房室弁疾患の進行ステージの分類と各ステージの治療指針」(田原が一部改変)を示した。肝要は、
①ステージ分類の正確性(実際には各ステージの中間もある)
②治療開始の判断

である。

①については、症状・聴診・心エコー・レントゲン撮影で判断する。
②については、下記のステージCおよびステージDの場合は迷うことなく投薬が必要である。ステージB-2も各検査(特に心エコー)で弁の変性や逆流量(左心室→左心房)の増大による左心房の拡張が進行している場合には、飼い主と相談のうえ治療を開始するほうがよい。そこで問題となるのがその進行を確認するための検診の期間である。最初は1~2カ月で行い、進行がみられないのであれば3~6ケ月と延長できる。
弁の変性は進行しているのに逆流量が減少している(弁の閉鎖不全は軽減している)ケースも少なくない。この場合には投薬を開始するか、続行すべきである
③問題は、ステージB-1でも既に投薬を開始されている症例が増えているということだ。事が心臓の異常だけに、病気を告げられた飼い主の心事は推して知るべしであろう。獣医師に投薬を勧められるとそれに従う飼い主が多いように思われる。
ステージB-1の実際は、1年経過してもそれ以上でも弁の変性や左心房への負荷(左心房の拡張=逆流量の増加)が進行(悪化)しない症例も少なくないということである
然るに飼い主はステージの判断とその進行を信頼のおける獣医師に判断してもらい、無用の早期すぎる投薬を避け、無駄な出費をしないことである

 
A.ACIVM分類による診断指針
<ステージA>僧帽弁膜の形態学的変化なし。心雑音聴取されず。臨床症状なし。

<ステージB-1>僧帽弁膜の形態学的変化あり。軽度の心雑音聴取あり。臨床症状なし

<ステージB-2>ステージB-1よりも弁の形態変化が顕著。心雑音も大きくなる。はっきりした臨床症状はなし

<ステージC(軽度~中等度の心不全)>弁の形態異常が重度化し、レントゲン所見でも肺うっ血を認める。発咳・運動不耐性・呼吸速迫・呼吸困難・チアノーゼなどの症状を認める。

<ステージD(重度の心不全)>投薬しても肺うっ血が改善せず、難治性である。卒倒・食欲廃絶・腹水や胸水の貯留・肺水腫など。集学的(さまざまな)治療にも反応乏しいか全く効果ない(難治性)。

B.ACVIM分類による治療薬指針
<ステージA>投薬なし。食餌療法なし。

<ステージB-1>投薬なし。食餌療法なし

<ステージB-2>場合によりACE阻害剤の投薬開始。緩やかなナトリウム制限食(シニアフード・塩分の高いおやつの制限など)

<ステージC>ACE阻害剤・強心剤・利尿剤の投与。中等度のナトリウム制限食。適度のたんぱく質・カロリー摂取。

<ステージD>ACE阻害剤・強心剤・利尿剤・血管拡張剤。ステージCよりもさらにナトリウム制限。

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