放送は5日(土)が午前10時30分、午後2時30分、午後8時30分の3回、6日(日)が午前9時、午後4時、午後9時30分の3回、計6回です。内容は以下のようです。
今回は、「犬の避妊手術と去勢手術はすべきなのか?」「また、いつ行うのが良いのか?」について述べる。
まず、「避妊」手術(卵巣・子宮を全部摘出する手術)について述べる。
●避妊手術を行うメリットは?
雌犬に多い病気としてまず挙げられるのが、乳腺腫瘍である。
★人と同様、犬の乳房の腫瘍も罹患率の高い腫瘍(全体の50%以上)で、部位別腫瘍罹患率をみると、雌犬では最も多い。(発生率は10歳で13%)
★犬の乳腺腫瘍の約半数は良性、残り半数が悪性となっており、さらに悪性のうち約半数が転移すると言われている。
★重要なことはこの乳腺腫瘍の発生率はホルモンに強く影響され(性ホルモン依存性という)、避妊手術によって乳腺腫瘍の発生率は大きく低下するということである。
★犬では初回発情以前に避妊手術を行うと、乳腺腫瘍の発生率はたったの0.05%である。しかし、初回発情後に避妊手術を行ったものでの発生率は8%、2回目の発情後に行ったものでは26%となり、急激に増える。
雌犬には「子宮蓄膿症」という、もう一つの罹患率が高く重大な病気がある。
★子宮蓄膿症とは、その名のごとく子宮内で細菌が増殖し、膿が貯まる病気である。
★子宮蓄膿症は、10歳までの罹患率は23~24%といわれている。
★症状は食欲不振、元気消失、発熱、嘔吐、腹部膨満、外陰部からの膿排泄、多尿・多飲(発熱や感染細菌の内毒素によって引き起こされる腎障害による)などがあげられる。体温は急性型では上昇気味で、慢性型では平温以下となる。経過はさまざまだが、急性型では1~2週間で重篤となる。無治療で経過すると敗血症や内毒素血症を引き起こし、死に至る。★正常な犬では子宮頸は開いているが、子宮蓄膿症では子宮頸が閉まっていることがあり(非開放型)、この場合、開放型に比べ重篤化しやすい。
★基本的な治療は子宮・卵巣摘出手術を行うのだが、血小板の減少、全身状態の悪化、腎不全などのリスクを抱えた状態で手術となるケースも少なくないため、麻酔のリスクは格段に高くなる。
それでは避妊手術のデメリットは?
★避妊手術の「罪」は「肥満」である。その原因として、①エストロゲンが中枢性(脳に作用して)に食欲を抑制している、②ホルモンが細胞内代謝に影響している、③避妊手術により活動量が減る、などが考えられているが、今尚、不明である。
(まとめ)
★★乳腺腫瘍の予防の為、早い時期での避妊手術がベストである。犬での性成熟は平均9~10ヶ月(6~24ヶ月)である。(小型犬では大型犬に比べて性成熟の時期が早い。)
★★つい最近まで、未避妊犬(=intact)における生涯の子宮蓄膿症罹患率は約60%と言われていたが、このところの寿命延長で、それ以上(約80%)の犬が本症に罹るものと予測される。
子宮蓄膿症は緊急手術を要する疾患であるが、先に記述したように、麻酔のリスクが非常に高く、正しく「命がけ」の執刀となる。心臓病や腎臓病などの基礎疾患(持病)が無ければ、できれば10歳くらいまでに避妊手術を行うことをお勧めしたい。
★★10歳以上の犬猫では避妊手術を積極的に勧めることはできないが、乳腺腫瘍はその大きさと予後に密接な関わりがある。日頃からスキンシップを大切にして、嫌がらずに体表のチェックが可能な状況にしておくことが重要である。また、犬の子宮蓄膿症は発情後1~2ヶ月に発症することが多いことから、その時期に、食欲不振、嘔吐、元気消失・・・といった症状が見られたら、病院へ直行する。
★★その他、避妊手術は子宮・卵巣の腫瘍、膣過形成や膣脱、膣の腫瘍などの疾患を防ぐことができる。
次に、雄の去勢手術について述べる。
去勢手術のメリットとは?
★去勢手術により予防できる病気がいくつかある。肛門周囲線腫(良性の腫瘍)、精巣の腫瘍(皮膚の腫瘍についで2番目に多いが、多くは良性。)、前立腺肥大、会陰ヘルニア、包皮炎、精巣炎などの疾患を予防する。
<肛門周囲腺腫>
犬の肛門周囲にできる腫瘍のうち、58~96%が肛門周囲腺腫と言われている。良性の腫瘍で、歳をとった雄に多く、平均10才で罹患する。特に精巣間質細胞腫の犬でリスクが高い。この腫瘍がホルモン依存性で、アンドロジェン分泌の増加により生じる。
<包皮炎>
包皮腔での感染、あるいは炎症を生じる疾患でよく見られる。病原微生物は、一般に包皮腔内の常在菌である。(ヘルペスウィルス・Brastomycsなどのこともある。)包皮からの白色、或いは緑色をした膿が排泄されるが、それ以外の症状は通常見られない。治療法は殺菌された液体で洗浄することである。去勢手術により、包皮の分泌物が減少し、包皮炎を予防することができる。
<前立腺肥大>
犬で多く見られ、特に6歳以上に多い。通常、歳とともに肥大する。(9歳で95%以上に肥大が認められる。)精巣からのホルモン分泌量に影響を受け、腺細胞の過形成により生じる。去勢手術後の前立腺の退縮は一般的に数週間要する。
<精巣の腫瘍>
犬では雄の生殖器の腫瘍の約90%を占め、皮膚の腫瘍に次いで2番目に多い。精巣の腫瘍は3種類あり、セルトリ細胞腫、間質細胞腫、セミノーマがある。それぞれほぼ同じ割合で罹患する。高齢の犬(平均10才)で発生が多くみられる。精巣の腫瘍の多くは良性であるが、セルトリ細胞腫では10~20%に腰椎や腸骨リンパなどに転移がみられる。セルトリ細胞腫のタイプによっては、エストロジェンを分泌し、脱毛、乳頭の腫大、骨髄抑制などが見られる。間質細胞腫は精巣全体が大きくなることは少なく、多くは無症状である。一方、セルトリ細胞腫、セミノーマでは精巣が腫大する。
<精巣炎・精巣上体炎>
急性では陰嚢腫脹、痛み、精巣、精巣上体が腫大して硬結し、熱感を帯びる。陰嚢の皮膚も感染している場合には、患犬は患部を舐める。発熱、元気がないなどの症状が見られる。しかし一方で、無症状で気付かれないこともある。慢性例では、陰嚢は正常で精巣は柔らかく萎縮する。急性、慢性ともに不妊となることがある。治療は抗生剤の投与、去勢手術である。
潜在精巣とは?
★犬でもう1つ知っておきたいのが潜在精巣である。精巣は胎児期や生後間もなく腹腔内に存在するが、やがて陰嚢内に下降する。その時期は犬では生後30日頃(10日とも言われている)と言われている。まれに、それ以降にも精巣下降を起こすことがあるが、6ヶ月以上では精巣下降は決して起こらないため、6ヶ月までに陰嚢内に下降しなければ潜在精巣と診断される。発生率は統計によりばらつきがあるが、約1~10%と言われている。この疾患は遺伝性である。
★この潜在精巣であった場合、先に述べた精巣腫瘍のリスクが約10~13倍も高くなる。精巣腫瘍は、精巣が陰嚢内にある場合でもよく見られるため、潜在精巣ではリスクが非常に高くなり、潜在精巣の約6~10%が腫瘍化する。その為、若齢での去勢手術が望まれる。
★そして、よくある質問だが、雄に多い攻撃性、マーキング、マウンティング(犬で見られる腰ふり)などの行動は去勢手術により予防することができるのか。これらの行動が身につく前に去勢手術を行うと、当然予防の効果が高いのだが、一度これらの行動が身についてしまった後では、軽減する例もあるが、効果のまったく見られないケースもある。
※※※以下の問題行動が去勢手術によって何ら改善されなかった割合を以下に示す(論文のデータ(the veterinary record,June 14,1997)より)。
◎犬:外をうろつく(6%)、マウンティング(33%)、マーキング(50%)、雄犬に対する攻撃性(38%)、テリトリー内への侵入に対する攻撃性(100%)、恐怖による攻撃性(100%)。
また、マーキングは屋外で色々な匂いを嗅ぐなどの環境の変化(新しい犬・猫の存在など)により再発しやすいとされている。
去勢手術のデメリットは?
★避妊手術と同様、去勢手術のデメリットは肥満である。その機序は明らかになっていないが、去勢手術後の必要(基礎代謝)エネルギー量は減少し、食欲は増進される為に肥満が起こる。個体の成長は生後15~18ヶ月間続くため、この間は若齢用のフードを与えるべきだが、給餌量を調節し、肥満には十分注意したい。
<まとめ>
●雄犬の去勢手術は、雄に多い疾患(肛門周囲腺腫、精巣腫瘍、前立腺肥大、会陰ヘルニア、包皮炎など)の予防ができる。
●去勢手術は、雄に多い問題行動の予防と、かつそれを軽減する。