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ペット豆知識 vol.2 -犬のフィラリア症-

忘れてませんか?『フィラリア予防』

イヌを長生きさせる上で、一番大事なことはなんでしょう?
愛情?しつけ?おいしいジャーキー?それとも綺麗な洋服??いえいえ、どれも違います。
 長生きするために一番大事なこと。それはズバリ『フィラリア予防』です。
当たばる動物病院グループ院長によれば、犬は「1に給餌、2にフィラリア予防、3に愛情、4に散歩で、5にしつけ」だそうです。
事実それほどにフィラリアは怖く、そしてかかりやすい病気であるといえます。

 さて、第2回となる今回はフィラリア症つまり『犬糸状虫症』について特集します。

 まずフィラリアとは一体何者なのでしょうか。フィラリア(学名:Dirofilaria immitis)は、犬糸状虫(イヌシジョウチュウ)ともいい、その名のとおりまさに素麺のような白い体をしています(写真参考)。ところでフィラリアは寄生虫に分類されますが、ではなぜ同じ寄生虫の回虫や条虫の予防よりも、フィラリアをここまで気にかけねばならないのでしょうか。
 それは、ほかの多くの寄生虫が「腸管」に寄生するのに対し、フィラリアは「心臓」に寄生をするのです。正確には肺動脈が主な寄生部位で、肺動脈とは全身からの静脈血がまとめて戻ってくる右心室から肺へと血液を送る大きな血管のことです。つまり、ここに何十匹も、ひどいときは100匹以上ものフィラリアがいれば、重度の心不全と呼吸器症状が現れ、慢性化すると腹水が貯留し、ひどいときには喀血をしたり、非常に苦しみながら死亡します。

 これこそ、フィラリアの予防を徹底しなくてはならない大きな理由なのです。では、フィラリア症はどのような症状を惹(ひ)き起こすのでしょうか。

<症状>
・発咳(せき)
・運動不耐性(散歩などの運動を嫌がり、時には突然虚脱し倒れる。ちょっと興奮するだけで舌や歯ぐきの色が蒼白くなる=チアノーゼ)
・腹水(うっ血することで、お腹に水がたまりふくれてくる)
・削痩(おなかは膨れても、肋骨がはり痩せてくる)
                      etc・・・

 このようにフィラリアが引き起こす右心不全によって全身性の症状が現れてきます。これらは病期が進むほど悪化し、前述したとおり治療なしでは最終的には死亡するケースがほとんどです。寿命との関連は明白で、近年犬の寿命が大幅に伸びた一番の要因はフィラリア予防が確立されたことによると考えられています。

(マメ知識ですが、渋谷の待ち合わせ場所でお馴染みの『ハチ公』もフィラリア症によって死亡しており、東京大学の獣医病理学教室にはフィラリアが多数寄生したハチ公の心臓の標本が残されています。)

 さて、このフィラリア症が犬の寿命を縮めるほどに怖く、非常に苦しい病気だということは十分ご理解いただけたと思います。

<予防法>

 まず、予防には一般的に月一回だけ飲ませる錠剤やチュアブル剤の薬があります。その薬を、宮崎では4月から12月までの9ヶ月間服用させれば、ほとんど完全に予防することが出来ます。でも、あれ?1,2,3月の冬の時期には飲ませなくていいの?すでにご存知の方もいるでしょうが、このフィラリア症、実は蚊が関係しているのです。

 下図に示すとおり、フィラリアのライフサイクル(生活環)は蚊がいなければ絶対に成立しません。つまり、蚊が存在しない季節にはフィラリア予防をする必要性が低いため、1~3月には飲ませなくても良いのです(いたとしても蚊は気温が15度以上でないと吸血行動をしません)。
ではフィラリアの一生を見てみましょう。

 フィラリアは、フィラリアに感染した犬の体内で、親虫からミクロフィラリア(以下mf)と呼ばれる子虫が次々と産まれます。多いときでは数千万匹ものmfが犬の血中を漂います。これらを蚊が吸血することで、mfは血液とともに蚊の中に入ります。そして再度吸血したときに、また新たな犬へと感染していきます。
 新たな宿主(犬)を見つけ感染に成功した子虫は、いったん皮下や筋肉内で身を潜めます。この間2~3ヶ月(ここが、予防をする上で重要なポイント!)。その後、血管にまで到達した子虫は、目的の肺動脈で塞(せ)き止められます。そして、感染してから約6ヶ月後、とうとう成虫となったフィラリアはオスとメスで交尾をし、mfを産み始めるのです。

わかりづらかったという方のためにポイントを整理しておきましょう。
1. 親虫から、ミクロフィラリアが多数産み出される
2. 蚊の吸血行動でmfが蚊の体内に吸引され、その後の吸血行動時に新たなフィラリアが媒介される
3. 感染に成功してから2~3ヶ月は皮下や筋肉内で過ごす
4. 感染後、約6ヶ月でmfを産みはじめる

 一般的に月一回飲ませる予防薬は、皮下や筋肉内にいる子虫を叩く薬です。つまり、一度感染したとしても、2ヶ月は皮下にいるので、一ヵ月ごとに薬を飲ませれば予防できるというシステムです。感染→駆虫→感染→駆虫を繰り返すわけです。これによって、フィラリアが定着するのを完全に予防することが出来ます。

 しかし、もしmfが血中に漂っている状態(つまり、すでに感染していて親虫が心臓に寄生している状態)でこの薬を飲ませてしまうと、殺mf作用により、大量のmfの死骸が抗原となり、全身性のアレルギーや、細動脈の塞栓重篤な副作用を起こすことがあります。
 そのため4月に予防薬を飲ませ始めるときは、必ず一度検査してから、フィラリアの感染が無いことを確認しなけれがなりません

<診断>
 検査には血液中の抗原を調べるキットや、顕微鏡でミクロフィラリアを検出する方法があり、これらの両者を行うことで、より高い検出率を示すことができます。
 X線検査では、肺動脈の拡張や右心室の拡大(拡張と肥大)が主原因による特徴的な『逆D字型ハート』を呈します。エコー検査においても、肺動脈内を浮遊・移動する虫体が認められる場合が少なくありません。

<治療>
根治的な治療法ではありませんが、肺動脈に寄生するフィラリアの成虫への対処法が2つあります。
1. 外科的手法
2. 内科的手法

 1の外科的手法は成虫吊り出し術」という、いわばフィラリア摘出術です。アリゲーター鉗子(写真参考)を頸静脈から挿入し、肺動脈に寄生する成虫を取り出す手術です。かなり熟練した技術が必要とされる上、X線透視下で行うため術者にもかなりの負担(放射線被爆)がかかります。全身麻酔など犬への負担が大きいことや、最近はフィラリアの感染数が少ないことから、2の内科療法を選択するケースが多いのが実際です。

 2の内科的治療法には、メラルソミン(商品名:イミトサイド)の筋肉内投与があります。これはいわゆるヒ素剤の一種であるため、犬への負担もあり重大な副作用が起こる場合がありますが、ほとんどの場合完全に駆虫することができます。年齢や心肥大の程度、合併症の有無やその程度などにより治療の是非を慎重に決定すれば、奏効する場合がほとんどです。現時点ではオススメの選択肢といえます。

終わりに・・・
長くなりましたが、なぜここまで長くする必要があるといえば、私はそれほどフィラリア予防が大切であるということを訴えたいということです。
当たばる動物病院グループでは毎年20例以上のフィラリア陽性犬が見つかります。中には、腹水がたまり、呼吸困難になり定期的に水を抜かなければならないような症例もいます。非常に苦しいはずです。
『なってから』ではなく『ならないために』出来ることがあります。今からでは遅いくらいですが、未予防の方は必ず動物病院にいくようにお願いします。

文責 小川篤志

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