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ペット豆知識No.11-犬猫のてんかんは早期の治療開始で軽快する病気です-

 『てんかん』という病気をご存知でしょうか?てんかんは、我々臨床獣医師が最も一般的に遭遇する神経疾患です。てんかんは、人間でも人口の0.5%以上、約100万人がてんかんに罹患していると言われています。猫ではまれですが、犬では多く(犬全体の2~3%)たばる動物病院グループにも常時20~30頭のてんかん治療を受ける犬たちがいます。

-てんかんとは-
 ではいったい『てんかん(癲癇)epilepsy』とはどういった病気なのでしょうか。WHO(世界保健機構)によると「・・・・・・・」という定義を出したいところですが、なんのこっちゃわからないくらい難しいので、やめておきます。かみくだいて言ってしまえば、“脳のある神経細胞が異常に興奮した結果、発作状態をおこす病気であり、それは一時的で、そして繰り返し何回も起こるものを”てんかん”といいます。脳のある部分(てんかん源焦点FOCUS=脳の傷)が発火(放電)して、あるいはそれが脳全体に広がると、脳の異常放電が起ります。結果、それは痙攣や脱力発作という形で症状をあらわし、その症状が劇的であることから周囲の人間を非常に驚かせます。しかし、最初に言っておくと、てんかん自体で死ぬことはまれです。動物は、発作中に嘔吐がおこりその吐物が気管を閉塞して窒息死したり、発作中に頭がドアに挟まったり、あるいは頭部を強く打つことで二次的に死亡することの方が、現実的には問題となってきます。
 発作には、強直性痙攣(がちがちに体が固まったような状態)や間代性痙攣(びくっびくっといったいわゆる痙攣)があります。痙攣とは、筋肉が激しく小刻みに収縮する状態ですが、実際てんかん発作には痙攣以外にも、様々な症状があります。たとえば、喘息のように咳き込む動物もいたり、手足をぐうっと伸ばす様な、または挙げるような仕草をしたり、顔をぴくぴくさせたりと、本当に多様です。
 では何をもっててんかんと言えるかと言えば、重要なのはこれらの症状を“繰り返す”ことなのです。ヒトのてんかん発作には強直性と間代性のほかに意識を喪失する欠伸発作と脱力発作も定義・分類されています。動物でも同様の症状を呈する発作の存在も指摘されています。発作の焦点(=脳の傷)は脳の表面を覆う灰白質にあり、人医では発作の性質(形)と脳波からその位置を特定できるとされています。動物でも痙攣を伴わないてんかん発作は往々にして見過ごされている可能性があります。要は、脳のどの部分が焦点であるかによって種々多様の発作が現れるということです。実際、当院でも喘息様の発作を起こすダックスフントがおり、抗てんかん剤が奏効しています(9年以上服用中)。

-発作の反復、それがてんかん-
 てんかんを診断するには、先の定義のとおり、発作が反復すること が必要です。一回だけの発作ではてんかんとは言えないことに注意するべきです。上のパラグラフで書いたような発作が繰り返し、しかも段々と間隔が短くなり、程度も重度になるくことは、てんかんと診断できる重要なポイントなのです。
 ところで、てんかんとはどんなことが原因で起るのでしょうか。下の表にもまとめたとおり、①真性てんかん(特発性てんかん)、②続発性てんかん(症候性てんかん)③潜因性てんかんの3つにわかれます。詳しくは表参照という感じですが、簡単にいえば

①原因が不明。CTやMRIでも構造上の異常がなく、遺伝性以外には原因が考えられないもの。初発年齢は1~5歳であることが多い。
②脳炎、脳腫瘍、交通事故などの外傷、水頭症など、脳の器質的な問題が原因でてんかんを起こす“続発性”のもの。
③すこし難しいが、②が疑われるが検査上明らかな異常がなく、①のように見えるもの。容易く言えば①と②の中間型。

といった具合です。ほとんどは①と②が重要で、臨床的には、①の真性てんかんタイプが犬で80%、猫で50%。②の続発性てんかんタイプが犬で20%、猫で50%です。ほかに、非てんかん型発作というものがあり、てんかんと勘違いしてしまいがちですがこれは代謝性(電解質異常、低血糖、低カルシウム血症など)や中毒(有機リン中毒、メタアルデヒド中毒など)、感染などによる痙攣発作で、脳以外に異常がある場合に起きる発作をさすので、てんかんとは区別されます

-前兆、発作期、発作後期-
 初めは『前兆』として症状が発現します。発作が発生する直前の期間で、落ち着きがなくなる(そわそわしだす)、鳴き叫ぶ、物陰に隠れるといった異常行動が見られます。次は『発作期』で、これが事実上の臨床的発作です。一般的に3分以内に発作は収束し、長くは続きません。最後は『発作後期』で、終わるまでには30分程度かかります。異常放電を起こしたニューロン(神経細胞)の回復期で、筋力低下や視覚の消失が見られます。
 発作期には、異常放電を起こす部位(FOCUSの部位。発火点)によって意識障害がある場合と意識が正常状態にある場合にもわけられます。意識障害がある場合には、発作中飼い主さんの呼びかけやあらゆる刺激に対して無反応になります。いろいろ分かれてしまって、頭が混乱しそうですね。実際てんかんは本当に多様な症状と原因があるんです。てんかん分類の②で書いた続発性てんかんの中に水頭症を挙げました。水頭症は、脳室に異常に脳脊髄液が貯留してしまい、脳が圧迫されて神経症状を起こす主に先天性の疾患です。これにはチワワ、シーズー、ヨークシャテリア、ポメラニアン、パグ、ブルドッグなどが好発犬種で、非常に一般的でてんかんを併発することが多い病気です。

-重積発作は救急疾患!-
 そして先ほど重積発作(status epilepticus : SE)についてすこし触れました。重積状態は『救急疾患』です。発作期が30分以上続く発作(臨床的には10分程度)や、発作の間隔がなく、次の発作が前の発作に続いて起きてしまうような状態を重積といいます。前述のとおり放置すれば、脳壊死や死に直結することもあります。放置しないためには、重積状態が起きたらすぐに動物病院に電話して、抗けいれん薬(ジアゼパム)を静脈内注射することが重要です。これは是非覚えておいてください。それでも収まらないときは、違う系統の抗けいれん薬(フェノバルビタール)の静脈内投与を行います。しかしたいていはジアゼパムの数回の投与で痙攣は止まります。高度な筋緊張状態が続くので、高熱症を併発したり、低酸素症や代謝性アシドーシスを起こすことがあるのでこれにも注意が必要です。つまり救急疾患の意味がわかりましたね。

-てんかんの治療には根気が必要-
 本題です。ここまで起こさないためには、適切な、そして長期的な投薬が必要になります。つまりてんかん治療を始めなければなりません。我々獣医師が抗てんかん薬(antiepileptic drugs : AED)をつかった治療をはじめるには、少なくとも3ヶ月に2回以上の発作が起きた場合にスタートします。多くの飼い主さんは、一度薬を飲ませたらよくなったので、薬をやめてもいいと考えがちですが、実はまったくその逆です。AEDの血中濃度が高く保たれていることで、てんかん発作自体を起こさせなく、または起きづらくさせるための薬なのです。または、といったのは、発作の完全抑制をすることは困難で、発作頻度( AED治療開始前の50%以下に抑制)および発作の重篤度を軽減するために使う薬なのです。毎日薬を飲ませて、有効血中濃度を保つことでてんかんを抑えるのがAED療法です。したがって、突然の休薬は、てんかんの閾値をさげ、よりてんかんを起こしやすくなる可能性があります。良くなったからといって中止せず投薬を続けるように心がけてください。つまり、発作が出ている間は一生薬を切ることはできないのです。
 しかし、悲観的な話ばかりでもありません。継続的かつ長期的な投与により、最終的にAEDを切れる場合があります。当院では最低6ヶ月以上発作が出なくなった場合は、その後2~3ヶ月かけて薬を漸減していきます。もちろん全てのてんかん動物がそのうち薬を飲まなくてもすむようになるとは言えませんが、その可能性はあるということを覚えておいてください。

ついつい長くなってしまったのでポイントを整理しましょう。
・てんかんにはいくつかの種類がある(真性や続発性)。
・てんかんであれば、同じ症状が繰り返し起こる。
・30分以上の重積発作は救急疾患(脳壊死や死亡の可能性あり)。
・AED療法は継続が大切。場合によっては休薬(もしくは離脱)できることも。

-最後に-
 上記のポイントの通り、てんかんには多様な症状と原因があります。実際に動物病院に連れてきて、「昨日なんだか様子がおかしかった」という主訴で獣医師がてんかんを診断するのは非常に難しいことです。CTやMRIも診断には有用ですが、人間とは違い、全身麻酔下での断層撮影が必要なため動物の負担も大きいことも事実です。もし、てんかんかな?発作かな?と思ったら、思い切ってビデオで撮影をしてみてください。今では携帯電話のほとんどにはビデオ撮影機能がついてますよね。怖いかもしれませんが、それが診断に非常に役立つことがあります。
 もうひとつ大切なのは、発作状態に陥ったイヌを見てパニックを起こさないことです。先ほど言ったように、てんかん発作自体で死ぬことはまれです。むしろ、周りの家具や機械に頭をぶつけない様にそっと離し、吐いたものを誤嚥しないよう頭を斜め下に向けた格好でやさしく抱っこしてあげると良いでしょう。
 最後の最後に、犬猫のてんかん発作は転移性を含む脳腫瘍などを除いて早期の治療開始でコントロール可能な病気です。適切な治療で天寿をまっとうさせてあげましょう。

文:小川篤志

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