●犬も猫も夢をみるのだろう? 難易度★★★☆☆
犬も猫も寝ているときによく寝言を言ったり、体を動かしたりします。いわゆるレム睡眠の時間がヒトよりも長くなっています。外敵から身を守る為や、すばやく獲物を獲る為に、いつでも起きて行動ができるように、あまり熟睡していないのです。犬がクンクンと鳴いている時は食事の夢を見ていたり、四肢をピクピクあるいはパドリングしている時は散歩している夢を見ているのかもしれません。猫もクックックと声を出している時は獲物を狙っていたり、ニャァニャァと鳴く時はごはんをねだっている夢を見ているのかなぁと思います。(Dr.藤吉)
※レム(REM=Rapid Eye Movement)睡眠の時は目が動いており、脳波上も変化があります。反対がノンレム睡眠。
●ネコが真っ暗闇でも行動できのはなぜだ? 難易度★★☆☆☆
ネコの顔には目の上、頬、口唇の周囲、そして前肢の裏にいわゆるヒゲが生えています。頬に生えているヒゲをその先端を繋げて線を引くとすると、ネコの体がすっぽり通れるくらいの円になります。ヒゲは、風の揺らぎ、僅かな振動でも触知できるような非常に敏感なセンサーになっています。そこで、ヒゲが何か物に触れない限り、ネコは「穴」を通り抜けられます。また、前肢のヒゲも直接物に触れずに前肢を動かすのに役立ちます。このように、体の本体の外側にセンサーのバリアがあるので、暗い場所や狭い場所でも、行動ができます。但し、肥満のネコはこの限りではありません。(Dr.藤吉)
●マイクロチップとは? 難易度★★☆☆☆
マイクロチップはペットの個体識別をするもので、動物愛護精神に基づいたペットの保護管理をより確実なものにするために、1989年に英国で始められました。マイクロチップというほどですから、大きさは極小で、本院で使用している「ライフチップ」は直径2mm、長さ11mm、ポリプロピレンと生物学的適応ガラスが素材のため埋め込まれた局所での特異的反応は無く、また埋め込み部位から移動することも有りません。埋め込みの手技は、犬・猫の頚背部を消毒し、マイクロチップがセットされた専用の注射器で皮下に挿入して埋め込みます。マイクロチップには固有のIDナンバーを書き込んだ超小型集積回路(IC)が封入されており、15桁の個別のナンバーが得られます。まさに「世界で一つ」の番号で、「集中管理センター」を介してワールド・ワイドに通用する仕組みになっています。迷子の犬や違法に捨てられた動物の飼い主探し、狂犬病注射や保健所への登録がなされているか、などの方面で役立つ可能性があります。特に捨て犬の飼い主探しには有用ですが、現在までマイクロチップを義務づけている自治体はありません。コンセンサスを得られるよう各方面での努力が必要でしょう。本院では「犬が盗まれた時のため」という人もたまにいますが、専ら、海外転勤や移住で犬を一緒に外国に連れて行くとういう人が埋め込みを希望されます。実際、犬や猫などは「輸出入検疫規則」において①狂犬病の発生していない地域・国(指定地域)から犬・猫を伴って帰国する場合、②狂犬病の発生している地域・国(指定地域以外)から犬・猫を伴って帰国する場合、③日本から犬・猫を伴って海外に出国し、帰国する場合には、「マイクロチップによる個体識別がなされていること」が必須です。このようにマイクロチップは世界的に重要な役割を果たしていることを再認識しなければなりません。(Dr.田原)
●宮崎に多い蘇鉄の種子がこんなに危ない。
蘇鉄(ソテツ)は九州以南に分布しており、南国ムードを演出するために主要都市に大抵植えられております。種子にはサイカシンという有毒物質が含まれており、これが消化管内で化学変化を起こし、ホルムアルデヒド中毒を起こすことが知られています。ホルムアルデヒドとは水に溶けやすく、水溶液を「ホルマリン」と呼び、消毒剤や防腐剤に使われている他に、さまざまな樹脂の原料となります。その樹脂は、接着剤、塗料、食器、繊維の加工等に広く利用されています。人では建材等に使用されたホルムアルデヒドの蒸気を吸い込んで起こる中毒(シックハウス症候群)がよく知られています。粘膜に対する刺激作用から、めまいや頭痛、咳、吐き気や発疹などの症状が主ですが、これを消化管から吸収した例はあまり報告されておりません。この蘇鉄によるホルムアルデヒド中毒では直接消化管の粘膜に作用し、その腐食作用で口腔内・食道・胃腸に重度の炎症を起こし、消化管穿孔から腹膜炎を誘発し、その結果肝不全、急性腎不全など多臓器不全を起こして死の転帰をとるものと思われます。先日夜間・救急動物病院にてこの症例に遭遇したので、ご報告させてもらいます。四歳のワンちゃんの飼い主さんが夕方頃からそのワンちゃんの様子がおかしいのに気付き、痙攣が起こったとのことで来院されました。流涎が認められ、瞳孔は左右ともピンホール様に固定縮瞳しており、痙攣重積状態でした。昼頃に飼い主さんが民芸用に置いていた蘇鉄の種子を食べていたようだとの事で、吐物に種子の中身が大量に含まれていました。直ちに、血管確保を行い静脈内点滴、胃洗浄、活性炭及び利尿薬の投与を行いました。痙攣はおさまり、意識状態は上向きましたが、翌日の検査でやはり急性腎不全、肝不全が認められその日の夕方に心肺停止状態になり死亡しました。この症例をみて蘇鉄の恐さを思い知ったのはサイカシンが消化管の中でホルムアルデヒドに変化するという事です。つまりソテツの種子にはなんら刺激臭や苦味がないために、動物は与えられた分だけ食べてしまうという事です。動物には本能があり、口にしたものが身体にとって良くないものなら拒絶反応という形で当然口から吐き出します。ホルムアルデヒドなんて、すごい刺激臭がして絶対に口にできる代物ではありません。でもそれが、おなかの中で化学変化を起こして猛毒の物質に変わるわけです。観葉植物の恐ろしさは『ペット豆知識 vol.4-意外と身近な有毒物質』でも掲載しましたが、改めてこの危険性を認識しました。夜間・救急動物病院では開院してから様々な中毒の症例を見てきましたが、はじめて挫折感を味わった症例でした。この場をかりて、この症例のワンちゃんの御冥福をお祈り申し上げると共に二度とこのような症例が起きない事を願います。(Dr.宮川)
●『変』と聞いて何を想像します?
今年を表す漢字は「変」と決まった事がニュースで報じられています。経済の変化、政治の変化など変化の多かった一年を象徴しているらしいですが、病気も身体の変化として表れてくるわけで、我々獣医師はその変化に日々対処しています。私がこの「変」という漢字を見て仕事上思い浮かぶのは変性性疾患です。変性性疾患とは組織の構造が変化して起こってくる疾患の事です。卵に熱を加えると硬くなってしまいます。冷やしてももとの液状の卵にもどらないですよね。こういうのが変性と考えてください。犬で日常の診療でこの変性性疾患で多いの何かと問われると個人的には僧帽弁閉鎖不全症(弁膜症の一つ)という疾患をあげます。『ペット豆知識 vol.5 -犬の僧帽弁不全症(MR)-』でDr.小川がMRについて力説しましたが、ここでもう一度私なりの解釈も交えてお話させてもらいます。僧帽弁とは左の心臓にある弁ですが、閉まりが悪くなって、うっ血性左心不全という病態を起します。好発品種(キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、マルチーズ、シーズー、ミニチュアプードルなど)が存在し、遺伝的要因の関与が示唆されています。どういう変性が起こるかいうと心内膜海綿層の増殖およびムコ多糖体沈着が生じ,房室(AV)弁の肥厚化,弯曲,硬化が生じます。この疾患は中年~老齢期に多いので加齢によって増加します。心臓って車で例えるとエンジンです。エンジンも新車のときは快調に動きますが、年数が経っていくと故障が生じてきます。エンジン内の劣化、これを弁膜症と考えてもらったらけっこうです。車ならエンジンの部品を交換すれば、また新車のような動きを取り戻す事ができますが、心臓の弁を交換するのは簡単にはいきません。ですから治療はお薬で弱くなった心臓の動きを助ける事になります。重要な事は、変性した部分はもとに戻らないわけですから薬を継続する事です。薬をある程度服用して心不全の症状が無くなっても必ず継続してあげてくださいね。(Dr.宮川)
●輸血がなぜ大変か?レシピエント(受血犬)もドナー(供血犬)も大変。
あなたは献血した事がおありでしょうか? 誰でも一度献血に協力した事はあるのではないでしょうか? 人は手術や貧血の治療として輸血をする際に、血液銀行から血液を取り寄せて行います。血液製剤は人工には造られておらず、実は提供者(ドナー)の善意によって採取された賜物なのです。動物の輸血が簡単に行われないのは、人のような血液銀行が存在しないからです。実は過去には血液銀行があったのですが、その会社は開設してすぐに倒産しました。供血動物をどうしているのかと言われると多くの動物病院では供血犬や供血猫を飼っています。待合からいつもみえる病院内をうろついている、いわゆるマスコット犬や看板猫って言われる動物達っていますよね。スタッフや飼い主さんの心を癒す事以外に、彼らの重要な仕事がこの供血動物となる事です。輸血には拒絶反応という重大な副作用があります。この反応を回避するために、輸血前に交差適合試験や血液型検査(ペット豆知識・号外第2弾、●犬猫の血液型はあるの?を参照)を行います。従ってこれらの検査で合わない場合は、お役に立てません。こういった場合は健康な動物を飼っている飼い主さんにお願いする事になります。供血動物になる条件は健康だけではいけません。採血に協力的である事、すなわち温厚である事が求められます。通常では約50cc、大型犬への輸血は200から300ccを採血するわけですから、じっとおとなしくしていてもらわないといけません。もし、お知り合いの動物で輸血が必要な事を知られたら、御自身が飼われている動物がお役にたてる事もあるのだいう事を知っていただければ幸いです。(Dr.宮川)
●猫に小判ではなく、猫に水
猫に小判とは、貴重なものを与えても本人にはその値うちがわからないことの例えと辞書に載っています。猫には慢性腎不全(CRF:Chronic Renal Failure)や下部尿路疾患(FLUTD:Feline Lower Urinary Tract Disease)が多いというのはコラムでお話してきました。慢性腎不全になると腎臓の濃縮能の低下により多尿多飲になります。濃縮能の低下とは腎臓の尿細管というところで水分の再吸収ができなくなり、必要以上のお水がおしっことして喪失する事です。その結果、身体は水分が不足の状態となり。それを補うために水をたくさん飲むようになります。炎天下で汗をかいたら、喉が乾いて仕方がないって事と同じ理屈です。また下部尿路疾患や慢性腎不全の原因として元来猫の飲水量が少ない事が考えられます(猫は犬より腎臓の尿濃縮力が高い性質がある)。飲水量が減ると、健康な腎臓では身体の水分量を維持するために尿は濃くなります。尿が濃くなると本来溶けていたものが結晶化して析出してきます。塩水を炎天下で蒸発させたら、塩の結晶が出てくる事と同じです。これが尿石症です。濃い液体と薄い液体が目に入ればどっちが沁みますか、どっちが痛いですか?それは濃いほうでしょう。尿を溜める膀胱の内部は目の結膜と同じ粘膜という組織で出来ています。猫に多い特発性膀胱炎は膀胱炎の約50%を占めますが、未だに原因が解明されていません。どうゆう原因であれ一度膀胱炎が起こり、この濃いおしっこが膀胱に貯められれば、膀胱粘膜の炎症がは一段と悪化することは疑う余地のないところでしょう。また飲水量低下は全身の循環血液量を減少させ、当然ながら腎臓への血液量も低下させて腎機能が低下する一因ともなり得ます。血液量の低下(脱水)はヒトでも慢性腎不全の憎悪(進展)因子の一つとして考えられています。したがって飲水量を増やす事。この事がこれらの疾患を予防したり、進行するのを抑えたりするのに非常に重要です。犬に比べると猫は本当にお水を飲んでくれませんよね。犬は室外でもハァーハァーし始めたら、「ハイ、お水!」って水入れを目の前に出したらゴクゴク飲みますが、環境が変わったりしたら猫は更に飲まないですね。治療やホテルで預かったりしたらその間まったく飲まなくなる個体さえいます。自宅の室内でも、なみなみと入った水入れに見向きもせずに、お風呂場にたまった水をのんだり、流しの蛇口から流れている水を飲んだり気まぐれな行動を起したりさえします。昔は猫は水をあまり与えなくて良いなんて事がいわれましたが、やはり水を飲まさないと以上のような理由で危険です。では、どうしたら水を飲んでくれるのでしょうか? まず、多頭飼育している家庭では、水入れの容器を増やして下さい。自分が飲みに行こうとしたら、他の猫が飲んでいたら飲み辛い。せっかく渇欲が沸いたのに、それをそがれてまた次の機会にって事になります。それから水の質にも気を使って下さい。猫舌とは熱い食べ物が苦手な事を指しますが、冷たいものも猫は苦手なのです。出来るだけ体温に近い水温の水を与えてみて下さい。特に冬は水道水のお水は冷たいです。温湯の方が良く飲むと思われます。風呂場にたまった水を飲む個体は、実はこう言った理由で飲むのではないかと私は思っています。まさに水は猫にとって小判ではないでしょうか?(Dr.宮川)
その2につづく、近日公開!