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ペット豆知識No.26-犬の腫瘍概論-(MRTラジオ5月7日放送内容)

 前々回の放送は、犬・猫の死因についての内容であった。昨年の1月から今年の3月までの15ヶ月間のたばる動物病院本院と神宮分院を合わせた犬の死因についてまとめると、第1位は悪性腫瘍で全体の35%であった。2位が心疾患(小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症)、3位が老衰で15%、自己免疫介在性溶血性貧血が6%、(交通)事故が5%、腎不全が4%、肝不全が3%、肺炎と熱中症がそれぞれ2%であった。

 アメリカ(合衆国)のマーク・モーリス社が1998年に行った大規模な調査によると、犬・猫の死因のトップは癌で、犬の47%、猫の32%であった。特にゴールデンでは癌による死亡率が高く、56.6%というデータがある。

 犬の死因のトップが癌であることは、われわれの病院に限った事ではなく、先進国に共通するものである。しかし、犬・猫の寿命と死因を調査することは、人と違って、かなりの困難を伴う。

 本邦では2008年、麻布大学の信田卓男氏が「日本小動物獣医学会会誌・Vol.61 pp867-872(2008)」に発表している。大学の附属病院で1985年4月~2006年3月の11年間に腫瘍と診断された5,819例をデータ分析している。それによると、

①全体の腫瘍発生の平均年齢は9.2歳であった。小型犬と中型犬、大型犬では寿命も腫瘍発生年齢にも差異があるが、人と同じく60歳前後で「ガン」になる可能性の高いことがわかる。

②部位別の腫瘍発生頻度は、肥満細胞腫を含めると皮膚の腫瘍が39.6%、乳腺腫瘍が23.9%、頭頸部が10.6%、リンパ・造血器が6.6%、生殖器系が5.4%、その他消化器系も同程度であった。

③良性比率が高い部位は、生殖器(雄)が77.0%、皮膚が63.2%、生殖器(雌)が66.9%であった。

④悪性比率の高い部位は、皮膚肥満細胞腫とリンパ造血器系が100%の悪性率、呼吸器系が96.9%、骨関節が93.4%、内分泌が93.4%、泌尿器系が86.6%、消化器系が85.5%、頭頸部が59.6%であった。

⑤犬種による差も明らかで、有意に発生頻度の高い犬種は、ゴールデンレトリバー、シェットランドシープドッグ、マルチーズ、シーズーの順である。逆に低い犬種はラブラドールレトリバー、ポメラニアン、パピヨン、チワワ、ダックスフント、ウエルッシュコーギー、柴犬、ミニチュアピンシェル、キャバリアの順である。※当院の印象でもこの報告の統計データは妥当だと思われる。

 以上を要約すると、

①犬では乳腺腫瘍や肥満細胞腫など皮膚の腫瘍が63.5%と極めて多く、かつその6割以上が良性である。このことは、腫瘍が体表から触知可能であり、注意を十分に払っていれば、早期に発見でき、外科的な完全切除で完治できる可能性が高いということである。

②犬種によって腫瘍になりにくい種と、癌に罹りやすい種がある。特にゴールデンは、当院でも70~80%が心臓や腹腔内腫瘍で死亡しているとの印象がある。

③体表や生殖器(睾丸や膣、肛門周囲腺)、口腔内にできる腫瘍の一部はどちらかというと良性の可能性が高い(6割強~8割弱が良性)が、肥満細胞腫や白血病などの血液系・肺ガンなどの呼吸器系・骨肉腫などの骨関節系・甲状腺ガンや副腎腫瘍などの内分泌系・腎臓ガンや膀胱ガンなどの泌尿器系・腸の腺ガンや胃ガン、肝臓ガンなどの消化器系の腫瘍は100%~85%と悪性率が極めて高い。このことは、目に見えない、触れないところ、すなわち腹腔内と胸腔内の腫瘍は、犬が他覚症状を示すようになり、飼い主がペットを病院に連れて行く時点では手遅れの可能性が極めて高いことを意味している。。この点に関して、犬は1年に4~5歳の年を取ることから、腫瘍の進展が速く、人で利用されているPET(positron emission tomography)などでの画像診断を定期的(1年4~5回)に受けることは現実的に不可能である。※犬は人と違い、症状がかなり進まないと飼い主がその異常を察知できない。※PETでも5mm以下の癌は発見不可である。また臓器により発見精度に差あり。※犬・猫で3センチ以下の腫瘍を「腹部触診」で触知することは、「至難の技」である。特に、肝臓と胃は解剖学上、通常、触知できない。※レントゲン撮影やエコー検査にも限界がある。
 
 われわれ獣医師の言い訳ではないが、「あれだけ病院に行っていて、あそこの動物病院はガンを見つけられずに、うちの犬は死んだ」とか「ガンを見落とした」と言われるのはちょっとではなく、かなり「酷」な面がある。

 逆に体表の腫瘍については、細胞診そしくは組織検査で即座に診断し、手術によって根治さないと「獣医師免許(免状)返上」である。

 以上、今回は犬の死因のトップである「癌」について、その概要を放送した。特に体表の腫瘍については、日頃から、よく観察・触知しておき、悪性であっても早期に対処すれば、完治(根絶)可能なことを知っていることが重要である。

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