ペット豆知識も30回となった。宮崎日々新聞の「アドパーク」の締切日までに次回のタイトルを決めることで、自身への負荷をかけ、完成させるのが理想ですが、手術が立て込んだり、ひょんな飲み会が入ると、中々思い通りに行かない。(読者にも多少の御迷惑をお掛けしていると思いますので、この場を借りて陳謝いたします。)
「ペット・ラジオ診察室」も丸3ヶ月が過ぎる。日によると数人の飼い主から「ラジオ、勉強になるわ」とか、居酒屋の兄ちゃんが「先生、仕入れの車中でラジオ聴いてますよ」なんぞ言われると、悪い気がしないでもない。ラジオの収録は一度に2回分するが、切羽詰らないと本気になれない性質(たち)なので、直前には結構焦る。余裕をもって終ろうものなら、ニシタチへ直行である。この時ばかりは、なんとも旨い酒が呑めるから、嬉しい。内容はフレッシュで、タイムリーで、トレンディーなものにと、配慮しているつもりなので、今後も御期待アレ!
<6月25日放送分-リスナーからの質問に応えて->
○9歳、体重6kgのシーズーを飼っています。尿路結石ができて5年前より、ヒルズのpHコントロールを与えていますが、先日知人から「pHコントロールを与えると心臓に負担がかかるから、夏の間だけでも普通食にしたら・・・・・」と言われました。一生、この処方食を与え続けた方が良いのでしょうか、シニア用のpHコントロール食はないのでしょうか。何か良い方法をお教え願います。
●高齢であるとか、心臓病や腎臓の機能が低下しているとか、病気を2つ以上背負っているペットも多いのが現状である。
●この質問は結石にも良いし、ナトリウムも制限してある食餌は存在するのかということである。
●シーズーは遺伝性を含む病気が多い犬種である。鼻孔狭窄症、角膜損傷、水頭症、逆さ睫毛(まつげ)、心臓弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)、臍ヘルニア、会陰ヘルニア、前立腺肥大、アトピー性皮膚炎、毛包虫症(ニキビダニ)、脂漏性(マラセチア)皮膚炎、そして尿石症が多発する。尿石症は、腎臓(腎盂)結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石(通常は雄のみ)がある。シーズーは尿石症がもっとも多発する犬種である。
●犬の結石の種類はリン酸アンモニウムマグネシウム(ストラバイト)、シュウ酸カルシウム、酸性尿酸アンモニウム、シリカ、シスチン、リン酸水素カルシウム、そしてそれらの混合がある。シーズーでは前2者が8~9割を占め、特にストラバイトが多い。
●基本的に、ストラバイトとシュウ酸カルシウムは食事療法により予防が可能である。
●処方食はストラバイトの成分である蛋白質(アンモニウムは蛋白質の分解産物)とリン、そしてマグネシウムを制限する。シュウ酸カルシウム結石ではアミノ酸であるグリシン(シュウ酸はグリシンより生成される)とカルシウムを制限してある。
●ヒルズのc/d(ストラバイト)とu/d(シュウ酸カルシウム)はこれらの点に配慮した尿石症のための処方食である。
●そこで問題はナトリウムの含有量であるが、他社の同種処方食に比べ、Na量は4~5分の1で極めて少ない塩分含有量である。この量は心疾患(処方食名はh/d)や腎疾患(処方食名はk/d)の処方食の塩分含有量と大差ない。実際、u/dは尿毒症の処方食である。ナトリウムの制限は尿中のカルシウム排泄を減少させ、結果としてカルシウム関連の結石形成を抑制するとの研究報告もある。
●但し、ストラバイトを溶解する目的の処方食であるヒルズのs/dは、c/d、u/dの約5倍の塩分含有量であるので要注意である。s/dは多量のナトリウム摂取で尿量を増し、結石を洗い流す。
●今回のケースのシーズーが心臓病か腎臓病に罹患しているかは定かでないが、結論としてナトリウムを制限した尿石予防用の処方食が存在すると言うことである。
●ヒルズではない他社の結石予防食には塩分が制限してある処方食は今のところ販売されていない。
●アメリカで最も多く売れる処方食は腎臓病食であるが、日本ではなかなか好まれない。これは「味が薄い」ためである。アメリカではペットが処方食を食すまで待つが、日本の飼い主は根負けして我慢できずに味の濃いものを与えてしまうという背景もある。
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ペットの処方食は人間以上に発展・進歩してきた。商品化も目まぐるしい。高齢化が進む中、2つ以上の疾患をもつペットも少なくない。今後は、どちらの疾患を優先した処方食を選択するかではなく、「複数疾患併用食」が開発・販売されることを期待したい。
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飼い主も、「思うところ」を獣医師に積極的に相談することである。また、処方食の袋の裏には成分表があり、詳しくチェックする「癖」をつけることが重要である。病院で出される食餌を鵜呑みにせず、十分に納得してからペットに与えなくてはならない。